第54話 そんな


 一行は茶屋で一服しがてら積もる話は次々と溢れていって、団子の甘みと涙のしょっぱさとでなかなか良い塩梅になっている。

 会いたいけど会えずにいた昔馴染みに突然再会したのだからそれは驚くだろう。


 話の中で、離れている間に桃太郎に倒された当時の子鬼と出会う事があり、その際『桃太郎の詳しくを知らないか』と聞くような時も設けていたらしい。

と言うのも、子鬼は小間使いのような役割の者が多くこちらの世界をアチコチしている者も居るらしいとの事。

酒盛りと言うのは桃太郎そっちのけなどではなく、聞く側としての礼であった。


 もう少し深く詳しく聞けば、そもそもこの永い時を泳ぐ話はちょっとした行き違いと言うか勘違いから起きてしまった事らしい。



 桃太郎は亡くなった後、埋葬した三人が気を効かせて一人専用の大きく立派な墓に納骨してくれたのだが、天界でもその専用とは特殊区域と言う特別な区分けをされ所謂【VIPルーム】のような場所に直結するようにされていたのだ。

三人は死後の再会をとても楽しみにしていたが、順繰りに天界へ着き、いざその時になってみて初めてその真実を知る事となったのだ。

 三人は英雄と同じような扱いだが、埋葬されたのは通常だった。従って、天界での区域は功績が認められつつも通常区域だった。

 通常の区域から特殊区域へ入る事は簡単には許されておらず、どんなに昔馴染みであったとしても会いたくても叶わなかったと言う。


 桃次郎は聞いていて、そんな事あるのかと首を傾げていたし何の為に死後の世界で区域が分けられているのかも理解出来ない。地獄には幾つも行先があるから天界にもあっておかしくはないのかもしれないが、ここは既に罪もない人々の集まりであるし……しかも、桃太郎じいちゃんはHLRにも行ってたっぽいのにそんなながーい事一度も会わなかったなんて事ある訳なくない?

と更に疑問だった。


 そこは、ケンさんが教えてくれた。

 HLRは誰にでも優しい遊園地であるが、絶対の平等ではないとの事。

と言っても、通常区域に住まう人同士には皆平等であるが、特殊区域からの来訪は周囲から徹底的に隠されたお忍びとしての扱いで専用の通路を使って遊びに行く事と、VIPツアーとしてナノさん達もそのような対応をしていたらしい。

何度も来ていそうな桃太郎がHLRのゲートの仕組みを知らなかった事と、一般用のこの通常居住区には初めて入る事が出来たのは、通行証があったからとの事だ。


 であるから、どうにか会えないかと模索を続けたが、道はどこも塞がれ心が折れる日々。 

そうして永い永い時がただただ過ぎていく。

 桃太郎が一人、VIPルームで鼻糞をほじって不貞腐れる日々を送っていたとしても、三人はただの一度たりとも親友を忘れる事などなかったのだ。

全てを聞いた桃太郎じいちゃんはしわ皺の肌が潤う程頬に涙を伝わせている。



「そうだったのか……」


「なんじゃ……わしの……取り越し苦労だったと言う訳か……。

ワシ……てっきり今までの自己中が祟って、ついに皆に愛想つかされてしもたとばかり思って……」


「何言ってんだよ、確かに俺は桃の事嫌いで好きなんだっき!」


「はぁ、さっちゃん……意味が解らん」


「ふん、猿の言う通りだ。お前は自己中で俺らは全員振り回されはしたが、心底では好きだったと言う訳だ」


「私は出会った頃から桃ちゃんの事、好きだったわよ? 今でもね」


 白い歯を見せて、ウキキッ!っと笑うさっちゃんに、フンと鼻を鳴らして照れ隠しにわざと横を向く五郎さん、花のようにふんわりと微笑むケンさん。

桃太郎じいちゃんはと言えば、皆から思いもかけない言葉を受けて長年刺さっていた大きなつっかえがポロリと取れたようだった。

安堵や嬉しさ、様々な感情が綯交ぜになりテーブルに突っ伏したかと思えばその場でおいおいわんわんと大きな声を上げて泣き崩れた。皆の目にも涙が光る。


「まったく、桃はこれだっきー」


「桃介はじじいになって泣き虫になったのか」


「まぁまぁ、桃ちゃん。大丈夫?」


「うおぉおおおん!!! ワシ、幸せモンじゃったー!! うぉおーん!」


一連の流れを少し後ろで見守っていた桃次郎は、不覚にも涙腺が少しだけ緩むのを感じる。その後ろでは村人達が『何と素晴らしい友情かぁ!』と滂沱の涙を噴出させながら抱き合って泣いているという風なわりとプチカオスな空間に。

店主は遠巻きに見ていたが、なんか幸せそうだからいいかとおぼんを抱えて少しだけもらい泣きしそうになりつつも今しばらくそっとしておこうと静かに店の奥へと下がっていくのであった。



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