第53話 再会

 ワイのワイのと村人達から質問攻めに感謝お礼の雨あられにと感情豪雨にあいながら居住区をどんどん歩いていく。

 

 鼻高々な桃太郎じいちゃんは、もっと鼻を高くして得意げである。最早ふんぞり返る勢いだ。


──それをそこはじゃな、あれをああしてこうしたんじゃ。

──あの時は、やはりああする事が最善と判断したからのう!

──木と言うものを代々継いでいける家は貴重なんじゃ、そいじゃからのう守れるものはまもってゆかねば。

──なに、急ぐ旅でも無かったゆえに探し物なども出来たのだ。それに、大切な物だと聞いたからには見捨てて行かれようか。

──鬼の褌はやはり臭かったぞ! たまらんものだったぞ、何分風呂嫌いらしく活火山の側で豊富な湯畑があるにも関わらず十日に一度入るかどうからしいぞ。

──ああでもない

──こうでもない

──当たり前の事をしたまでじゃからの


だの本当に嬉しそうである。

それなのに、答えられない所はほふーんとかふふーんとか適当な事言いつつ濁していく姿勢なようだ。結構色々盛り盛りとされているように思うが、当時桃太郎じいちゃんに『手を差し伸べてもらった人達』からしたら起こった事こそが事実なのだから僕が疑うのも野暮だよな。

 少し離れた所からついて歩くようにした桃次郎は、飛び交う話と桃太郎の囲まれ具合を見てやっぱり凄かったのかな昔は、と今までの行動を鑑みても僅かばかりは自分の考えを改めようかとも思っていた。


「わはは! そうじゃなあ、良いかいい女子というのは上がぽいんとしていて、」


(あ、やっぱさっきの無しナシ。ほんと無し。全力で無し。ちょっとでも見直した僕が馬鹿だった)

「桃太郎じいちゃんちょっとストーップ!」


 わいわい話している途中で聞きに徹していた自分が急に割って入るのは気が引けたが、折角英雄様として注目されているのだから女性どうのこうのはまずいだろう。

しかもぽいんとしてってなんだよ、その先何を言おうとしたか何となくわかったような気がして滑り込むようにして光の速さで華麗にストップを入れたのだった。




 その後も質問もお礼も止む事なく、話も全く途切れずに歩いていく。

そうして行く事しばらく。突然、桃太郎がピタリと足を止める。


「じいちゃん? どうした……」


 桃太郎じいちゃんの見る先に視線をやると、衣服を人と同じように纏った猿・キジ・犬の三匹が二本足で直立しこちらを見つめていた。


「もしかして……」


 桃次郎が呟くと、急に停止した事でつっかえた後ろの村人達が「なんだどうした」と横からひょこひょこと次々に顔を覗かせる。


「さ……さっちゃんか……? ケンさん……? 五郎……?」



 茫然としていた桃太郎じいちゃんが震える声で三人に呼びかけると、向こうから一斉に駆け寄って来てワッと桃太郎じいちゃんを抱きしめた。

揉みくちゃになりながら皆でドッと地面に倒れ込む。


「あ、会いたかったっきー! 桃ぉ!」


「桃介! やっと会えたな……」


「桃ちゃん! ええ、会いたかったわ!!」


「え? ええ? 皆……どう言う事じゃ……」


 皆、凄い勢いで桃太郎じいちゃんに頬擦りをする。

茫然としながら、一体何が起こっているのか理解出来ていない桃太郎じいちゃんはされるがままで目を白黒させる事に忙しい。

連れ立った村人達は、再び目を見開き大歓声を上げる。


「うおぉ!! 何と、桃太郎様の……ッ」


「きゃー! サル助様よぉ!!」「五郎様―!!」「ケン様! 何と麗しい……」


 どうやら、この三人?も桃太郎じいちゃん同様【鬼ヶ島】から帰還した英雄扱いであるようだ。

 しかし、居住区に居るのならどこかで出会えていそうなものだが、アイドルみたいなくくりなのだろうか……。



 再会してから更にワッと喜びに溢れる同行した村人達に囲まれ、円陣のような塊が出来てから数分後――

少しづつ落ち着きを取り戻した一同は、取り合えず行動を共にしようという意見で合致した。

「積もる話もあるから」と近くの茶屋に上がる事になった。勿論、同行してきた人々は再会を邪魔するわけにいかないと言いつつ、気にはなるようで離れた席から見守る事としたようだった。

 桃太郎、桃次郎、ケン、五郎、サル助は団子やら他にも和菓子や緑茶を注文し、互いのこれまでの多くを語らう事を始める。

懐かしそうに再会を噛みしめつつ、ズズーと茶を啜りながら早くも瞳の潤む桃太郎の姿。

それは桃太郎だけではなく、他三人の瞳も喜びに潤んでいたのである。

 思えば、途方も無い年月をたった一人でぼんやりと過ごして来たようなものの桃太郎じいちゃん。それが、思いもよらない形で再会を果たしたのだから喜びもひとしおというところだろう。今は、会話に入らずに和菓子と茶を口に運びながらそっと見守っておこうと桃次郎も思うのだった。


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