第48話 トランプゲーム
「さぁ、ミンナで遊びましょ」
トランプが用意された台を指さし桃次郎に笑いかける。
「え、え、あの……」
一体何をすると言うのか、見たところカジノのような感じだがこちらにはお金もしくはそれに代わるような代物を持ってはいない。
一応、首から下げてる特別カード的な物があればそういう物はいらないと言われてはいるが、ここは流石に裏大人の遊び場的な所にあたるならこのチートカードも意味を成さないのでは。
ここで働かされるとか……?
「桃次郎、なーにやっとんじゃ時間が勿体ないわい、お前がいかんのならワシが行っちゃうぞい!!」
先にテーブルへついているマリリン・モモローさんを見ながらフンフンと鼻息荒く声をかけてくる桃太郎。
何やってると言われても、桃次郎はここに初めてくるのだし何をどうするかなど知りもしない。賭け事とはある意味無縁の生活をしていたのだから、予備知識もあまり持ち合わせていないのである。
「いや、じいちゃん……僕初めてだしよくわかんないけど……」
「えッ知らんのかぁ、なんじゃちっとも遊んどらんのかこのこの~!」
「いや、僕の生活見てたらわかりそうなもんだわ」
「……おーんそれもそうじゃな」
「いや、その間はかえって失礼だろ」
「むふん、仕方ないのぅ。ワシが色々と教えてやるわい、ここはな──」
そうして語りだしたのは、マリリン・モモローの遊び場についてである。
マリリン・モモローのショーステージでは、彼女の気分によりその日の歌唱数が決まる。そして、歌の終わりで投げたファーショールを受け取った『幸運の客』が今夜の遊び相手と言うのを務める。
一夜で最高三組が約束した事があるらしい。
選ばれるのはマリリンの気まぐれ。一人の時もある。誰も選ばれなかったと言う事は今まで無いそうだ。
グループで来ている場合も対応するようで、今回の桃太郎と桃次郎のように同グループの中で内一人がファーショールに選ばれると皆お呼ばれ資格ゲットとの事。
遊び、だが色々な物を賭けとしてベット出来たりもするし過ごし方はある程度選ぶ事が出来る。
一組目は一夜目と呼ばれ、一夜目はトランプなどの賭け事と決まっている。
これは、マリリンが遊び好きな事にも由来しているらしい。
一夜目の組にのみ、別れ際、頬にマリリンからのキスを受ける事が出来る特典が高い人気を誇る。
二夜以降は、別れ際のキスこそ得られないが最初からお酒を酌み交わすでもいいし、選ばれた人側が決められた時間独占出来る。
ファーショールの選別を決定後に本人が拒否する事は出来ないし、そんな無粋な奴もなかなか居ない。
万が一にも、マリリン・モモローが悲鳴を上げる程被害が及ぶ場合は屈強ゴリラSPがどこからともなく無数にすっ飛んで来る上、そのまま閻魔様の元へ叩きつけられるとの事。(過去一度のみ不届き者が居たがそのようになったらしい)
「あの、マリリン・モモローさん僕初めてで……」
「ジロ、私の事はマリリンでいいのよ。通貨を幾らかベットしないと面白くないわ、けどそのカードなら仕方ないわ。そうねぇ……なら一ゲーム毎に勝った方が
世に言う合コンで定番のそれじゃないかと桃次郎の心臓が跳ねる。合コンなど面倒で一度も行ったためしがないが話題には上がるのでよく耳にはしていたものだ。
命令してもいいと言われても、それはあくまで常識の範囲内での事である。
調子に乗って、下衆な提案をしようものなら大ブーイングになるやつだ。
「桃次郎には刺激が強すぎるかのう、ワシ一人でマリリンちゅわんのお相手したほうが良いかもしれんのぉ!」
嬉しそうなニンマリ顔で桃太郎はホレホレどーする、と桃次郎を突いてくる。
「いや、大丈夫だし。マリリンさんも皆でって言ってるだろ」
負けじと言い返すと、その勢いすら面白そうに更にニマニマと嫌な笑みを浮かべてくるので腹が立つ。
「もー始めていいのかしら」
椅子に腰かけ、長い脚をクロスさせ、退屈を訴えるかのようにプラプラと足先を振るマリリンさん。
慌てて二人して顔を見合わせ一度停戦だと目配せし合い、マリリンさんに向き直ってやりましょう! と声を合わせる。
すると、ニッコリ笑みを浮かべてじゃあ始めましょ! とゲームを前にワクワクを隠せないといった風な少女のような可愛らしい表情に二人は可愛らしい……ぼそりと合わせて呟いたのだった。
それから、計三種類程トランプで賭けながらゲームを楽しむ。
一ゲーム目は現世で言うところのババ抜きならぬ、悪魔引き(悪魔を二体混ぜて遊び手元に揃った人の勝ち。悪魔を引いた人は、一緒にプレイしている人に人数分命令出来る。ただし、これは遊びの為、相手が極めて不快になる事はNG。強要しようとする場合はマリリンの判断で強制お開きになる)
勝者:桃太郎
命令はマリリンから王様に三回肩もみ、桃次郎には犬のお巡りさんを全力歌唱
「ねぇ、僕だけちょっとレベル違くない?? ねぇ、」
全力歌唱後にぜぇぜぇと息を切らしながら桃太郎を恨めし気に見る桃次郎。
「なぁに、勝てばいいんじゃ勝てば! ぬほほっほ」
嫌味な笑みで勝ち誇りながらふんぞり返るじじいに掌底を食らわせたい衝動が沸くが、これはゲームだしな冷静になれ桃次郎と自分を励ます事にした。
気を取り直して二ゲーム目はドーナツ。
よくシャッフルさせたトランプ達を一気にドーナツ状に広げて、じゃんけんをした後に勝った人がどこでも好きな所から一枚引いて中央の輪の中へ表で置く。
次の者は時計回りにカードを引いていき、中央に置いていく。柄が被ったら引いたカードのみ中央に置き、残りのカードは手持ちに回収。
手持ちがある場合は、その中から中央のカードとは別の柄になるようにして手持ちを減らしていく。
最後まで手持ちが残っていた者か、その枚数が多い人の負けとなる。
勝者:桃次郎
命令はマリリンが好きな歌を一節歌う、桃太郎には桃から生まれた時の瞬間をリプレイ
まずは、マリリン・モモローの透き通るように美しい声色にうっとりとし、その後に桃太郎が大袈裟に芝居じみた動きで再現するものだから三人しかいないはずなのに、ドッと笑いが生まれた。
最後にハイ&ロー、これは非常に簡単なゲーム。
トランプをよくきり、表と裏のカードを一枚ずつ並べる。裏になったカードの数字が表のカードより
景品付きの簡易で手軽な賭け事として人気があるようだ。
一人五ゲーム行い、得点の多い人の勝ち。
勝者:マリリン・モモロー
命令はどちらからでも良いから禁断のキス三秒間
「マリリンちゅわん!? それだけは勘弁してくれんかのぉ!?」
「マリリンさん!!!? いや、それはちょっとやっぱり見栄えも良くないですし!?」
二人の必死な嫌だアピールも空しく「
「くそぅ、ちゃちゃっと終わらすぞい桃次郎!」
「うわぁぁぁ、腹を括る! 僕も笹ヶ瀬家の漢だ!!」
盛大なぶっちゅにマリリンは「まぁ、情熱的ね」と言ってケラケラと楽し気に笑っていた。
一瞬だった筈だが宇宙を視た気がする桃太郎と桃次郎。
お互いハッと我に返り、
ウヴォロロロロ!!!
おぶえぇえええええぇぇ!!!!
と込み上げる吐き気に虹色規制をかけるのだった。
「まさか唇にするなんて情熱的すぎるわ、どこにとは指定しなかったのだから頬でもおでこでもどこでも良かったのに」
くすくすと笑う彼女にゲッソリとやつれながら、なんじゃーもう!
そ、それならそうと……と言ってお互いにひっくり返ったのでゲームはここで終了となった。
これだけ遊んで結構な時間が経過していたらしい、マリリンはまだ夜はたっぷりあるけれどどうしたいか? と尋ねてきた。
桃太郎は、お前が決めていいじょ、と桃次郎に決定を譲ってくれたようだ。
それじゃあ、と遠慮がちに桃次郎はこう頼んでみる事にした。
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