第31話 お楽しみワンダーランド

 更に近づいてみると目の前には、雨天でも安心な大きな屋根の下に一人ずつ入場出来るゲートがいくつかとやけに幅の広いゲートとが交互に設置されていた。

 こう、見た目だけだと本当に現世のLLRみたいである。


 桃次郎はきょろきょろとどこでチケット買うんだろうと探すも、それらしい物が見当たらない上、誰も係りが居ない様子に首を傾げる。

桃太郎は気にせずそのまま進んで行くので、桃次郎は一つ横のゲートを選んでゲートへと入ろうとすると、ピプー!といきなり機械音が鳴り二人は立ち止まる。


「あれ?……あ、やっぱチケットみたいなの必要だよね」


「ちけっと……いんや? そんな物があった記憶はないわい」


 チケット認証のような機械は無く再度周囲を見回してみる。

 音がしたのだから取り敢えずここで一旦停止していた方が無難だろう。

 すると、パカッと頭上から音がして見上げてみると、天井が丸窓のように開きシュルンと一本梯子が垂れてきた。

そこを凝視していると、しゅるしゅると緑色の服を纏った小人……いや、妖精のような生き物が伝って降りてきたではないか。

ゲートの杭の上へと華麗に着地すると、

『HLR、仏ランドリゾートへようこそ~♪』

 と喜色満面に出迎えてくれた。


「え、本当にそんな名前なのここ? えーと、色々大丈夫かね。権利問題」


 桃次郎は思わず眉をひそめる。現世ではそう言うデリケートな問題はすごくうるさい……いや、しっかりしているからこそ版権元の世界観が守られるし特別感もある。

 とは言え、ここは現世ではないので……あ、LLRの創設者はもうとっくの昔、50年以上前には亡くなっているのだ。もしかしたらこっちに居て、指揮を執りながらの建設だったのか……? 

 悶々と桃次郎が思考を巡らせている所に、カラッとした声がする。


『細かい事はさておき~! ささ、今から一枚パチリとさせて頂きますね! 通行証をお持ちなので、ペロリンを挟み込んでおいてくださいませ!』


「いや、そこはきっちりしないと……って言うか、ぺろ?」


 細かい事は気にしないとかのたまっているがそれはどうなのと突っ込みを入れたくなるが、何を挟み込むだって……?

聞きなれない言葉に思わず首を傾げた。


『あれ、確かここらに……』


 徐に妖精もどきがゴソゴソとし始める。衣服の前や後ろをぺたぺたと確認して何かを探しているようだ。それにしても、仕舞う所なんてどこに?と思うくらいの面積しかない。


(いやそも、ペロリンてなんだろうか……)


 桃次郎は、ぐるぐると渦巻く不安と共に不思議な生き物をじっと見つめる。

(小人と言うより妖精だよなこの感じ……これだけ滑らかに動いているんだからパーク側の仕掛けとかではないと思うんだよな。恐らくちゃんとホンモノ。こっちの世界は現世とは違うんだから何が居たって不思議じゃない。寧ろ。僕自身の存在が不思議生物か)

くどくど己に突っ込みを入れながらも考え込んでいると、


『あ、あったぁ!』


 少しくたびれたような円錐形の緑帽子の中からずぼーッと手を引っこ抜くと、現世でよく見る一眼レフカメラが現れた。


((ふぁー!? どこから!?))


 桃太郎と桃次郎は思わず目を剝く。

妖精さんの体よりも幾らか大きく、持ち上げては腕をプルプル足をヨロヨロとさせながら何とか構えて矢継ぎ早に『ハイ、チーズ!』と掛け声を掛けてきた。

すると、次の瞬間にはパシャッと言う音が光と共に追いかけて来る。


「え……?」

「お……?」


 眩しさもあって目をパシパシ開閉しながらも、何が起こったのかハッキリわからず呆気にとられている二人を見ずに、ふいー!っと額の汗を拭う妖精さんもどき不思議生物。


『ちょっぴりお待ちくださいね~! 3・2・1……』


 妖精さんもどきの突然のカウントダウンに合わせ、最後にペロリンとカメラの底の方から写された写真が現像される。


『おぉ~これは会心の出来ですぅ!! いい仕事しましたですっ! では、このぺロロンをその通行証に挟んでお顔が見えるようにしておいてください。【顔認証】はこれでバッチリなのです!』


 フンフンっと鼻息荒く良くできましたと自分を褒めちぎるスタイルをこなし、物凄いドヤ顔で写真をずいっと手渡してくる。


「え、え? はい」

(さっきはペロリンだったのに……って言うか今ので撮れたの!? 技術凄くない!? 凄い顔してた自信しかない……)


 全く訳が分からないままに写真を撮られて【顔認証】とやらを済ませる二人。

これできちんと済んだと言うのなら職務怠慢と言わざるを得ないと思うのだが、余分な事は絶対に言うまいと桃次郎と桃太郎は口を噤む。


『それでは、ハブアナイスデイなのです!』


 そんな二人の内情を全く察知する気配すら見せず、明るい声は超絶機嫌良く前へ前へと促す。そして、自分は降りてきたロープに掴まりさっさと天井へと消えて行ったのである。

完全に放置プレイされているが居なくなったのならば仕方が無い。促されるままに、クルクルゲートを一人ずつ回転させパーク内へ。


「も、桃太郎じいちゃん……今のは……」


「さ、さあのぅ……あんなの居たかのぅ」


「しっかし、酷い写真だコレ」


「うむ。美男子が台無しじゃよう……」


【ようこそ! 素晴らしいひと時を心ゆくまでお過ごしください】


 と言う美声アナウンスと共に遊園地のような愉快な音楽が流れる中を、二人は立ち止まり、辛うじて認識できる程度に映された残念極まりない写真を眺める。

桃太郎も桃次郎も一歩も動いていないのに、カメラ側ブレすぎて最早激動の瞬間を激写したと言ってもいいくらいの不出来な写真は妖精さんもどきからしたらこれでバッチリ超いい仕事したとの事。こんな顔認証システムなんていっそ無くても大丈夫に決まっているが仕方が無い。郷に入っては郷に従え、だろうか。


「行くとするかぁ……」


「うむ……」


 落胆を混ぜた溜息を漏らしながら、二人共に寂し気な一歩を踏み出したのである。


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