第29話 レッツゴー寄り道

  遊園地とかそんな話題が出たと思ったら、桃太郎から割と近代的な物がこっち側にもあるのだと聞いて、そこに寄ってみたいと思った桃次郎。

 現状もしかしたら、急いだ方が良いのかもしれないし、現世に残して来てる人も心配ではある。(ほったらかしになってしまっているとも言うが、家族、バイト先の人々と愛理さんが特に)

 

 遊園地云々言うとそれこそ、さっきまで居た閻魔殿なんて【超】がつく程なアトラクションゾーンでもあっただろう。

 普段から鬼とか異質なモノが視えている人ばかりではないから、初めて見る怖い存在、モノ満載、落下有、シートベルトなんて安全策は勿論無い愉快な乗り物も盛り沢山。加えて騒がしい子にはもれなく雷神様から大迫力叱責のオマケつき。

好き好んでここへ入りたがる馬鹿者は居ないであろう。さしもの犯罪者であっても、ゆくゆくこんな場所に身を堕とさなければならないと知れれば一瞬で背筋を正し、人として正しい道も歩めよう。


 しかし、もしも、万が一にここに来たいと言う輩がいるのなら相当にヤバい奴で決定だ。お友達にはなれないだろう、理解すらきっと出来ない。

変わり者、変態と括れないような超絶スーパーウルトラ弩級のドⅯである事に間違いは無い。

胸中にはもしもの可能性を薄っすらと考えてしまう桃次郎に、それが見えない桃太郎は眉を下げてウンウンと頷く。


「よしよし、ここから3日くらい歩いたとこじゃよ。見所はたっくさんあって実によい所じゃ。……特にあすこの連中は皆かわゆくていかんからのぅ、うふふ」


 最後の方は独り言のようにぼそぼそと言い、デレデレと鼻の下を伸ばしてから瞬時に表情を変化させ「いっけなぁいワシったら! テッヘ☆」と拳骨でコツンと自身の頭を叩きウィンクを決める。舌まで出して一体このじじい何考えてんの……いや、何になりたいの。

 それよりも、だ。目的地までの徒歩期間を聞いてハテ、と思案する桃次郎。

およそ、聞き間違えでは無かったように思えるが……


「あれ、って言うかサラッと徒歩3日って言った?」


「うん、言った」


「えぇーーーめっちゃ遠いじゃん」


 急に萎えるような距離間である。


「まあのー。地獄もそうじゃがにょ、天界も負けず劣らずひーろいんじゃ。羽のある連中……白羽の奴らならひとっ飛びで行けるんじゃが。生憎わしらにはそれは出来んよ」


「白羽? 空飛べるのが居るってこと? それは、……是非とも見てみたい!」


「んん、正確に飛べる種は他にいくらか居るがにゃあ。速さで言うと白羽らが一番長けておるの」


「へぇ~! 余計会ってみたいなぁ」


 ファンタジーの世界では、羽の生えた種族は割と当たり前に出て来るがリアルに存在を確認出来るとなるとそれはもう、絶対に目に焼き付けておかねば。


「桃次郎様、桃次郎様、白羽一族の元へも行かれるのでしたらば是非とも族長である飛燕殿にもお会いになってくださいませですよ。少々気難しい所もありますが、良きお方で御座います故~」


 先ほどまでは静かにやり取りを見守っていた子鬼の片割れ戸鬼が、興奮気味に目を輝かせ発言する。

先をこされちゃった! とばかりに門鬼が慌てて身振りしながら後に続く。


「おい、戸鬼! お前ばかりずるいぞッ! 桃次郎様、それでしたら天馬騎馬隊もお薦めで御座いますよ!! 隊長の焔帝殿はその天馬の中でも群を抜く巨体に立派な豪炎の鬣を有しております。圧巻ですよ!」


「あ、あ、それならそれなら! やはり、現在訪天中の泡姫様は外せないかと思うのですっ。遠き遠き地よりおいでになり、翡翠の入り江に鱗休めをしていらっしゃいますですよ。ここだけのお話しですが……とんでもない美女とのお噂ですよぅ……そして、本当に運が宜しければとも呼ばれる胸当ての貝殻をお外しになる事もあるとか無いとか――」


 さっきまで仲良さそうだったのに、急に互いに競い合うかのような言い合いが始まる。どちらも自分のお薦めを選択してもらいたいらしい。

桃次郎にとっては魅力的な内容だが、


「ぬわにぃ!? そ、そりは是非ともにお会いせんとならん!! ……ブハッ」


 お薦めの泡姫の説明を聞いて瞬時に目がランランと輝いた桃太郎じいちゃんは、一拍置いた後に盛大に鼻から鮮血をまき散らし息を荒くする。


「「あぁッ大丈夫ですか!? 桃太郎様ッ!」」


 子鬼二人がハモりながら桃太郎に駆け寄り、ドサッと地面に血まみれで伏したその背中を摩る。桃太郎が如何わしい想像をした事は明白だが、あまりの出血に泡姫の話をした戸鬼は、門鬼から思い切り拳骨を喰らう。


「こら、お前が余分な事言うからだぞ!!」


「あでッ」


「よい、よいのじゃ……早く会いに行かねば……泡姫ちゅわん――うひひ」


 想像して鼻血吹く人を初めて見てしまった……しかも身内で……桃次郎は大きく肩を落として呆れたため息をそっと吐き、呟く。


「まったく元気なじいちゃんだこと……」


 その呟きは脳内お花畑となり果てた桃太郎には、きっと届かなかったであろう。






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