第23話 デザイン的なあれやそれや


 墓地決めから約1週間後、桃次郎と桃太郎は部屋で顔を突き合わせウンウンと唸っていた。その四方には何層にも積まれて山を築いている墓石雑誌達。

 形だけ見れば、和型の標準的な墓石を基本とするものや、横に広いリビングのような現代的な墓石デザインまで幅広く、見るだけの作業だが量が半端ではない、故に二人共眉間に皺を寄せてかなりの疲れ顔である。


「お、これはどうかな? デザインも然る事ながら、墓石にイイ感じに艶があってなかなか……形もカッコいいと言うかスタイリッシュじゃない?」


「どれどれ、……。――本気か桃次郎? ワシそんな柄嫌じゃわー……ワシもっとこう……斬新かつ、かっこええ物をだなぁ……」


 桃次郎が指さす物がお気に召さなかったようで、具体的には『こう』とはハッキリ言えないのだが、桃太郎の要望には沿わなかったらしい。

 もう何枚、何十冊見比べたかわからない。目を閉じても瞼の裏に写り込む。

形・色味・デザイン・区画など、どれを見ても同じような物が続いたり、そうかと思えば奇抜で突出なデザインや特殊な石の素材を使用していたりと視界で追う度に情報は溢れ意見がまとまらない。


「あー……なかなかコレってのが無いねぇ……」


「ふーむ、どうにもしっくりこんのじゃよぉ」


 二人して腕組みの姿勢で頭を悩ませる。桃次郎は雑誌の他、文明の最先端利器であるPCなどを駆使して色々と探ったりしているのだが、眉間に寄るしわが深まるばかりである。チカチカとする視界を一旦閉じ、暫し瞑目しながらこめかみをぐりぐりとマッサージする。

睨めっこのし過ぎで眼精疲労の蓄積が半端ではない。

それに、人とは、3種類と10種類では頭の悩み方が異なるそうで、選択肢が多ければ多い程余計な混乱を招くのだと言う。


「あーもう、どーするかぁ……」


 桃次郎は、椅子の背もたれに身を預け前のめりで固まっていた背中を目いっぱい伸ばしてやると、カチカチだった筋肉は弛緩し、全身にゆっくりと血液が巡るような感覚に心地よさを感じる。


「んあ~あ、決まらないねぇ……」


 普段からそこいら中に存在するお墓には特別な感情を持った事は無いが、こ

うなった今、生涯を終えた後の【お家決め】も楽では無い事を桃次郎は改め

て知る。

 余程の事が無い限りそこから動く事もないわけであるから、拠り所としてはやはり、故人の好みを最優先にしてやりたい。


(何だかんだ言っても、やっぱり好きな物盛り込んでやりたいし……結構気を遣うもんだなぁ)


 などと独り言を浮かべる横では、暫くうんうんと唸っていた桃太郎じいちゃんが唐突に(どこで覚えて来たのかは謎だが)こんな事を言い出したのだ。


「あ、そう言えば~ワシぃ、【しゃぷらいじゅ】とやらを体験してみたいのぅ!

なんせほらワシってば、大昔のじじいじゃからなぁ~今時の若者らは、【嬉しいドッキリ】とやらをして【大切な人】を喜ばせるんじゃろ?……はぁ~いっぺんで良いんじゃけどなぁ~後生なんじゃけどなぁ~」


 要所要所にNOと言わせないよう強調するように、かついじらしく指をいじいじとしながらチラっチラっと桃次郎を見る。しわしわの顔で唇を突き出しキュルン☆と言わんばかりの瞳と口。後生って言うな後生って。


 これが、可愛い愛理からの『えー、お願い出来たらぁ助かるけどぉ……あんまり無理しないで欲しいしなぁ……』と言うキュルンなお頼みなら何事を置いてでも優先してあげてしまう桃次郎な訳だが、目の前に居るのは正しく化石じじいである。

あまりにも気色悪く、桃次郎は石化しかけたが、言い返す戦意すらも喪失させる破壊力と来た。

 従って、見るからにゲンナリとした桃次郎が受諾する他ないのである。


 そもそも、故人の意見(がこうもハッキリ出てこられても困るのだが)を最優先し

てやりたいと思ったのは、紛れもない桃次郎自身である。

『言ったけど……確かに思ったけどぉおおおお!!!!』と言いたい所をぐうっと飲みこんでから、頭をガッシガッシと掻き、ボサボサになった髪のまま桃太郎を見る。


「わかった! わかりましたっあーもう、わーかったよ! って言うか、この時点で最早サプライズでも何でも無いけどね! ……僕がデザインだけは決めさせてもらうよ……」


 その返答に気色悪い仕草と表情をすっぱり止め、即座に満足満足とばかり、ニカっと歯を見せて笑う桃太郎。


「よしもよし! それで決まりじゃ! うふふ、楽しみじゃの~。何が出るかな♪ 何が出るかな♪ タラララッタン、ルルルル~♪」


 上機嫌でサイコロが転がりそうな聞き覚えのある歌をハミングする桃太郎に『じい

ちゃん、それは違う――』と言いかけ、訂正も面倒になり結局そのまま放置する事に決め込む桃次郎。


 まったく、内緒でなければサプライズにはならないのだが……自分で仕込んで自分で驚くなんて……果たしてそれで良いのかは謎である。


(まぁ、本人が良いならそれでいっか……)


 内心軽くため息を漏らしつつ、少しだけ振り回される日常を今更ながら、楽しいような可笑しいようなと感じている自分に桃次郎は気が付かない。


 頭を悩ませ続けても仕方が無い、と休憩がてら無料動画アプリの【My Tube】を開くと、丁度追いかけている配信者の生配信ライブがスタートした所だった。

この人は、毎日クラフト、通称毎クラをリリース日からプレイしている最古参で、一般的な冒険から建築を初めとして、様々なワールド生成まで行う幅広いプレイスタイルが人気の配信者だ。

 国内外問わず多くの熱狂的ファンを持ち、長い事支持され続けている人気のクリエイターである。

 定期と不定期で生配信ライブは行われているが、その都度、数万から時には数十万人の人が視聴者で集まって来る。今日は始まったばかりで既に3万を超える人が見に来ていた。


『さて、始まりました生配信! 今日は告知しなかった気まぐれ配信なのにこんなに沢山見に来てくれてるの? ありがとうございます! じゃあ、今日は毎クラでやりたかったシリーズ第3弾、0からクリエイティブ建築VSサバイバル建築いってみよう!』


 この人と言えばコレ、と言う耳慣れた軽快な音楽と共に本日のテーマに沿った企画が進んでいく。




 生配信スタートから5時間をもって放送は終了した。

 2本目の飲み物を手に取り残りをぐいっと飲み干す。すごく集中して見てしまったのは、桃次郎の頭を悩ませていた事の解に近いものが配信によって導き出されたからである。

 桃次郎は結果、一般的な墓石で考えるのをやめ、取り寄せた多量の資料達は全て一纏めにし雑紙に出す事に決めた。


 和型墓石では無くデザイン墓石としての墓で一本化し考える事となった桃次郎。

 その方が、桃太郎の要望には合いそうな気がしたのだ。

 なのだから、ある程度は自分の自由にしても良いのである。


 こうして、新たに手を動かす事を始めた所、桃太郎じいちゃんはと言えば『楽しみ

が無くなるもんね!』との事でPCを開いている時は桃次郎に一切近寄らなくなって

いた。

 ほんの数ヶ月前までは、PCに興味深々で桃次郎が動画を見ようと【MyTube】を開いてみるとCMでちょっとセクシーアダルティな水着のお姉さんが飲料水を持ってキャッキャウフフと出て来る物があって鼻息荒く、

「も、桃次郎! こ、こ、このおぜうさんは一体!?」

 と齧りつくように詰め寄って来たものだが……。まぁ、そんなもの動画の最初とか中間などに勝手に挟まる広告でしかないのだから、桃次郎が解る筈も無い。適当に「女優さんだよ」とか「最近売れ始めた新人歌手だよ」とか言ってあしらっていた頃も懐かしい。

ともあれ、今はそれが無くなり少しばかりは楽になったが、


 「一人で悩むのも結構難しいもんだなぁ」


とふつふつ独り言を吐きながら画面と睨めっこ作業をするのだった。











 お墓のデザイン決めた後、大きく物語が動く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る