第19話 お墓って大変


 愛理手製の華やかなお弁当は三人分との事でかなりの量があったが、美味しすぎたおかげで瞬く間に完食してしまった。

 それにしても桃太郎じいちゃんの食べっぷりときたら凄まじかった。

 梅おにぎりの梅干しの種までガリゴリかみ砕いて飲み込んでいたし、チューリップ唐揚げの骨も全部食べて飲み込んでしまった。(絶対真似しないように、桃太郎じいちゃんは特殊な顎筋トレーニング済みです)

 本当に幽霊かも疑わしい程でちょっと引いた。

 


『ご馳走様でした!!』


 綺麗に空になったお弁当箱を前に、二人揃って手を合わせ「愛理さん本当に美味しかったです!!」「愛理ちゅわんの料理の腕は一流じゃ、じい感激で泣いちゃうぞい」「本当に全部美味しくてどれがって決められないんですけど、唐揚げも卵焼きもおにぎりも……とにかく全部美味しかったです!!」「ワシもどれが一番なんて決められないわい、ぜーんぶ美味しかったもんの!!」

 次々感想を投げると、愛理さんはあははと笑って「お粗末様でした」と嬉しそうに笑みをこぼす。

 こうして、思わぬ嬉しいハプニングと共に最高のランチタイムを過ごす事が出来たのであった。

 食べた物だけささっと片づけてしまおうと手伝う間に、愛理さんは食後のお茶の用意まで整えてくれた。最高過ぎる。


「紅茶か珈琲どっちか選べるよ。ティーバッグと珈琲はインスタントだけどね。こっちにお湯が入ってるから……えっと、なあに?」


 あまりの準備の良さに、愛理さんの顔をじっと見つめていると顔を上げた彼女が首を傾げた。うわ、可愛い。知ってたけど。


「あ、いえ……何から何まで本当にありがとうございます、愛理さんは本当に何でも出来ちゃうんですね。凄いです」


 彼女が照れたように笑い、そこにまたきゅんと鳴る胸を持って行かれそうになる桃次郎。今日は始終緩みっぱなしで本当に良い所が無い。


 よし、少しでもカッコいい所を見せなければと巻き返しを図る。

 皆がお腹も満たされ、珈琲紅茶で各々が一息ついた頃に桃次郎が切り出す。


「さて、場所はここで決まりだとしてもだ。デザインをどうするか、他にもやっぱり切り離せないのは金額だよね。僕がこれから頑張るとして、どれくらいで準備出来るかで色々見えてくる所があると思うんだ」


「うん、そうだよね。桃君があまり無理しない範囲でないといけないし……無茶して働いて体壊しちゃったら本末転倒だもん」


「ふむ、なるほどのう。わしとしては気に入った場所が見つかっただけで僥倖もんじゃ。焦らずとも、」


「うーん、結構そうも言っていられないかもなんだよね。ここの場所、やっぱ競争率が高くなりそうだから希望の場所を押さえておくには早めが良いに越したことはないだろうし。と言うか、先に調べないといけないのは土地だけでも先に確保するにはどうしたら良いのかっていう事だね」


「あ、確かに。お墓って永代使用料……だっけか、土地にかかる物があるよね。もしかして墓石と一緒でないと駄目かな……うちは代々のお墓が既にあるからあまり詳しくなくてごめんね」


「いえ、僕の家もそうです。色々と調べなきゃいけない事もあるし、今日はもう少しこの広場を見て回ってから帰りましょうか」


「おう、そうじゃな。わしゃもちっと愛理ちゅわんと一緒に居たかったがのう……」


「ふふ、またすぐ会えるよ」


 暫し、他愛のない話で時を過ごし、お腹を落ち着かせながら広場をゆっくりと見て回る。景色が本当に綺麗で見惚れながらだったので、歩き終わる頃にはすっかり太陽が傾き、夕焼けが一層美しい時間になっていた。


「じゃあ、そろそろ帰りますか」


「凄く良い所だったねぇ」


「うんうん、わしこんな所に新居だなんて夢みたいじゃのう……」


 バスを待つ時間、今見て来た景観美を瞼の裏に映し3人ともそこはかとなくうっとりとした表情を浮かべながらのんびりとバスを待つ。

 帰りの旅路も行きと変わらず愛理とくっつける桃次郎は更なる至福時間を一人堪能しつつ帰路につくのであった。




 愛理を送り届け多幸感に包まれたままで自宅前へと到着した二人は、互いに顔を見合い「凄く良い一日だったね」「うむ」と満面な(にやけ)笑みを浮かべる。


「さて、しまりのない面はここまでじゃな」

「ん、流石に親に見せられないよ」


 そうして緩みそうになる頬を何とか引き締めながら玄関戸を開け「ただいま」と帰宅したのだった。

 夕食と風呂は手短に済ませ、自室に戻ると早速PCを起動させ検索である。

 


 墓地土地だけ先

 墓石と土地別

 墓地の区画について

 お墓のローン

 契約手順



 まず、土地だけと言うのはやはり難しいようだった。納骨前提ならば何とか、など条件はかなり厳しいようである。

 しかし、全くない話でも無いようでこれは実際に聞いてみるしかない。

 通常、資料を取り寄せてから見学に足を運ぶのがルートのようだが先に見学してしまったのでここは省くが、どれくらいの規模のお墓を作るのか、金額や諸々手続き云々まで調べれば調べる程に桃次郎は頭を抱える事となった。

 やはり、金額は小さくないのだ。

 お墓とは代々受け継がれると言う風習はそのままであるので、無事契約出来たとして、自分以降は誰に任せていくかと言う問題も出て来る。

 昨今、カタチあるお墓を手放す人も多くなってきているくらいだ。

 悶々と考えている事が、口から漏れたりしたのだろうか、こちらが聞いた事に答えるかのように桃太郎じいちゃんが口を開く。


「そこは、ほら、うーん。まぁ何とかするからダイジョ―ブイなのじゃ!」


「えぇ……お墓継いでくのだって楽じゃないと思うよ。今は僕んちのお墓、父さんと母さんが守ってるようなもんだし仮に僕の代は良かったとしても、子や孫に負担が行くのはなぁ……考えもんだと思うよ。僕が結婚するかも分からないけど」


「何じゃとっ、桃次郎はいい子だから絶対かわゆい子とくっつくじゃろて!」


「え、急に何っ気持ち悪いなっ」


「なんじゃ、お主愛理ちゅわんとくっつこうと思わんのか腰抜けか!?」


「あ、へぁ!? な、ななななんで愛理さんの名前が出て……っ」


「ふふん、愛理ちゅわん可愛いからのぅ! ぼやぼやしとったらどこぞの馬の骨ともわからん奴が横からかっさらってしまうかもしれんのぉ。まぁでも桃次郎よりも足が長ぁくて、鼻も高くていけめぇんな男の方が合うのかのぅ……。正に、ほれ、若い頃のわしのようなええ男がお似合いかもしれんな。おうおう、ええのかぁ?」


「うぐぅ……そ、それは。ん? いや、桃太郎じいちゃんは無いわ、大丈夫」


「なにをうっ!? 失敬な奴じゃ! ほいでもスマイルマートにかっこええ新人が入らんとも限らんじゃろ?」


「そ、そうだけど」


「美人は三日で飽きるなんて言われるが、あの子は器量も良しときた。世の中の男はほっとかんじゃろのぉ」


「わ、分かってる……わかってるよっ! あーもう、今はそれより先にやる事あるだろ!?」


「うひひ、慌てちゃってまあ~初々しいの~青春じゃの~」


 そんな軽口を叩き合いながら再びPCと睨めっこするが、墓地管理施設へ直接の連絡を入れてみる他ないだろう。

 と、言ってもだ、どう説明したら良いのだろうとも思う。

 遺骨なんて残ってないのにどうやって? そもそも納骨するのにも色々と踏まなければならない手順があるし、手続きもある。

 もう亡くなっている(?)ご先祖様のお墓契約に来ました、遺骨はありませんがなんて……一体誰が信じてくれるのだろうか。難しいな。


 悩ませた頭が導き出した解はと言えば、一度、自分の資金をまとめて一覧にしてみると良いかもしれないと思い立つ事だった。二進も三進もいかなくなると人は別の気になっている事に手を出すと言う一種の逃避を行うのである。

 まぁ、これは必要な作業と言えばそうなので無駄にはならないとは思うが。


 ノートを開き、シャープペンを手にする。フリーハンドで幾つかの項目を作り、毎月の収支を書き出してみる事にした。

 収入は、まるりんの古本屋とスマイルマートの合計週6バイト分。たまに母さんが買い物を頼むついでに残りはお小遣いとしてあげると言われているものも入れようと思えば入らなくもない……か?

 主な支出は、自分のスマホに学食費と家への食費分。

 余談だが、学費は大学生なんて親の義務には当たらないんだから『この大学に行くつもり、学費は自分で捻出するから大丈夫だよ』と言ったらば、すぐさま家族会議が開かれて父親が『大学を出るまでは絶対に俺が支払う』と言って聞かず、一般的に見たら首を傾げるようなやり取りで甘えさせてもらう事にしたのだ。

 食費すら拒否されるので、せめてもの3万!と出したら『多い! 1万で良い』と謎の譲歩交渉をされてしまい、こんな甘い親で良いのかと頭を悩ませながら1万で可決に至ったのである。

 苦学生からしたら本当にこんな甘えた大学生生活を送る奴があるか! と怒られてしまいそうだ。

 正直、将来の夢云々は未だ考えるに難しい。だが、両親には返しきれない恩がある。どうにか親孝行をしていきたいと思い貯金には精を出していた。


 嗜好品の類はほぼ手を出さないし、交友関係も広く持っていない為滅多な事でお金を使う場所が無いのだ。

 今となっては、この状況がありがたいと思ってしまう自分が居る事に情けなさを抱きながら、父母への恩返しを今後どうしていくかのハードルはまた一段と上がったと言えよう。先に延びてしまうし……。


 貯金も合わせてザックリは出たが、お墓契約となるとやはりこれだけでは収まらないだろうなと更に頭を捻る。

 シャープペンを放り投げると、コロコロとノートの上を転がっていく。

 椅子の背もたれに体を預け伸びをして一息。


「はぁー」


 視線をぼんやりPCに戻すと、いつの間にか3人で行ったばかりの公園のような墓地のサイトを開いていた。



「あれ、ここは…………ん?」



 目が留まった場所に書かれた一文に桃次郎の目は大きく見開かれる事となった。


 

 




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