第7話 事の顛末

 事の顛末はこうだ



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(そう言えば話の時にややこしいので何と呼べば?と問えばご先祖様もとい、ご本人から『桃太郎じいちゃん、とでもよびゃあええの』と申し出が有った為そう呼ぶことにした)


桃太郎じいちゃんは若かりし当時、一旗あげてヒーローやりたい病にかかってしまったのだと言う。そして驚くべきは『ヒトもヒトで無い者も一緒に息づく世にあった』らしい。のである。おとぎや童話の世界などではない。つまり、【鬼】と言う生き物が存在した。と言うのだ。

そして、ヒーローになりたい桃太郎は都合よく暴れまわって村民を困らせていた鬼一味らを懲らしめてやろうと思い立った。

が、ソロプレイなどつまらないと道中無理やり鬼ヶ島に連行したサルのさっちゃん、犬の五郎さん、キジのケンさんらとは未だに喧嘩したままだそうで今の家(墓)には誰も遊びに来てくれないそうな。

 そればかりか、屠った当時の鬼の頭が訊ねて来て、


「他の奴のとこにも行ったが、当時の衆と子鬼共で集まってお前さん抜きで楽しそうにドンチャンやっているぞ」


と言うのだ。


「あいつらなんか友達じゃないもん、絶ぇっ対にワシからは会いに行かんもんねぇーだ!」


 フーンと顔を背けて胡座をかいて今まで意地を張ってきたわけだが、流石に年月が重なりすぎて寂しくなったらしい。

本音を言うなら仲直りをして一緒に暮らしたいのだが、中々1歩が踏み出せずにある日思い立った。


「そうだ、皆で住める家(墓)を作ればいいんじゃ!」


と。


 思い立ってすぐ桃太郎じいちゃんは、子孫全てに声をかけていくと言う事を始めてみた。それは暫くの時続けたが、誰も霊体を感じられず、話を聞いてもらえなかったとおいおい嘆く。


苦節ウン百年――ようやっと桃次郎という存在に出会えたのだ。と言う事らしい。


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「はぁ……何で今更……僕なんですかぁ」


 深い深い落胆の吐息と共にうな垂れる桃次郎。それを見つめて満面かつ嘘偽りの無いような笑みで、


「ちっちゃい時は皆と同じように反応しなくって今したんじゃもん! 仕方なかろ!」


 と、さも当り前じゃないかね! と言わんばかりの戯言ときたもんだ。

 こちとら、20ウン年生きてきた中で霊体を見る能力があるだなんて、今、本当にたった『今』しかも、寝ぼけ眼で知ったのである。好きで反応したわけじゃあるまいにとんだとばっちりである。


 まぁ、そうは言うがじいちゃんによれば、人には霊体に反応出来る体とまるで感じられない体と大きく分けて2種類いるらしい。

それで、僕はめでたく感じちゃう方に入ってしまったらしいのだ。しかも時間差で。あぁ、なんたる不運……。

正直、叶えてやれるものなら出来る範囲で手助けしたい。そう思う反面、望む物が大きすぎてちょっと無理かも、と思い始めている桃次郎はそれを桃太郎じいちゃんに申し訳なさ気にもにょごにょと伝える。


「まぁ、うーん。事情はわかったんだけどさ、僕まだ学生って身分なんだ。

その……墓を建てるなんて到底できないよ」


「そ、そこを何とかしてくりょお……。ワシ、このまんまだともうずーーーっとひとりっぽちなんじゃ」


 今にも泣き出しそうなか弱い声で、今度は桃太郎じいちゃんの方がガックリと肩を落としうな垂れてしまう。

 老人がしょんぼりと背を丸める姿はなんだかそこはかとなく、心にチクリと来るものがある。

 だが、しかし。自分とて裕福な訳ではないから小遣いやバイトを合わせた貯金とこれからの給料を合わせたってとても足りる額ではない。


「そもそも、墓ってすっごく高いんだよ? バイト代と貯金合わせたって足んないよ……」


「ほうなのかぁ……わかった。仕方ないのう……。ほいじゃあお前さんの体をちょいと拝借して……」


 桃次郎は、『無理を言ってすまなかった、ワシは帰るとするよ』と言う返答を期待してウンウンなどと点頭してしまってからハタ、と気が付く。末語を瞬時に脳内再生させるととんでもない事をぬかしているではないか!


「ちょ、ちょちょっ!? ちょっと、ストッオップ!! 今何て!?」


 聞き捨てならない最後の発言に目を白黒させながら手振りで大仰にオーバーアクションを取ってしまう。

 そんな僕の様子に桃太郎じいちゃんはポリポリと頭を掻きながらめんどくさそうに、


「えーじゃからぁ、お前さんの体をだな……ちょっくら拝借……」


「や・め・て!!」


「なあんじゃぁ、減るもんじゃなしー……けちんぼ―じゃのー」


「けちんぼとかそう言う以前の問題でしょ!!」


 こ、このじじい! 言わせておけばなんちゅー事を言うんだ。幽体離脱なら是非とも一度は経験してみたかったが、憑依はごめんだ。

 自分の中に勝手に人格が入って、そいつの思うままに体を動かされるなんてちょっぴり考えただけでも気持ちが悪いったらない。

 何となく、ほんのりとではあるが他の3人いると言う友人らがじいちゃんに近寄らない理由がわかった気がした。

 と、感じたのは勿論口には出さないでいる。


 折れる気配なんて微塵も見せないので仕方なく、解決策を話し合う事にすると昔語りをするように、友人(仮)3人の事も教えてくれた。



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