第5話 呼ばれなくても爺、参上
「ふむ、やっぱり男子としては大きい事は良き事かなってね。って……うん?
あ、ここひとマス違うな。こっちがここまでだから、……うわぁ最初からやり直さないとだ!」
独り言をぷちぷち漏らすが、心底困っていると言う訳ではない。
それこそ、今までに実況動画を山ほど見て、色々な人の作り方を参考にさせてもらってきた。そうして頭の中で構図を描く。勿論、細かい箇所は書き起こさないといけない所は出てくるわけだがそれが出来上がって行く過程はとても楽しいものだ。
作業用の長時間ノンストップBGMなんぞかけながら(夜なので勿論小音である)サクサクと進めていく。
建築をしつつも、敵の襲来には注意を配らなければならないし、意外と忘れちゃいけない大切な事としてはゲームの中の自分も腹は空くという事。空腹ゲージは減らしたままにしておくと大変で、底をつくと一歩も動けなくなってしまうのだ。うっかり遠出してセーブすらままならないとそのまま敵が寄って来てボコボコにされ結果アウトでセーブ地点まで強制送還になってしまう。従って、出掛ける時はすぐ口に出来る物を幾つか準備していくのが常だ。
その他、備蓄する為必要な行動としては、狩りや魚獲り、農作が主流。
豚のような見た目のホッグや一角牛のウッシなどを狩って肉に加工したり、刈った木から落ちてきたゴリンの果実を拾ったりして蓄えていく。
食材を集めて調理していれば、次第に料理ランクと言う物がアップしていくので空腹の回復が早くなるし料理人最上位【極み】になると他人にも振舞えるようになるという特典があったりする。
こんな風に、日常の生活なども楽しみながら進めていけるので何度でも言うが、かなり楽しい!
畑も広大に作りたいし、ゆくゆく自動で種植えから収穫まで出来るようにしたい。生活基盤だってもっと整えていきたいし、装備を整えて冒険にも行ってみたいし……あれやこれやとどっぷり浸かっている内にふっと時計を見ると夜も深まる時間になっていた。
「ありゃ、もうこんな時間かぁ。ついつい、熱中し過ぎちゃうんだよなぁコレ。
ふあぁ……今日はもう寝るかぁ」
風呂から上がり、あっと言う間に3時間も経過していた事に驚きつつもいつもの事かぁと開き直りも早い。
PCの電源を落とし、『まだやっていたい』と椅子に駄々っこ根を生やした尻をよいせぇっと勢いをつけて持ち上げベットへ移動し全身からダイブ。
四肢を思い切り解放し伸びをする。
「ん~~~~っ!! はぁ~明日と明後日は土日だしめいっぱい毎クラやるぞ♪
本拠点完成とかしちゃったりして……いやーまだまだ早いか! でも、楽しみだ」
目を閉じた途端に急激な眠気に襲われ、意識も肉体も抗う事をせずにそのまま眠りに誘われて行った。
…………――その晩は、とても奇妙な夢を見ていた。
夢にしてはやけにリアルで、臨場感もあり本当に触れられているかのような変な感覚を覚えてふと、目を覚ます。重たいと感じた双眸は意に反して割と軽快に開いた。そう、パカッと言う効果音などがつくかのように――
そうして桃次郎の眼球が捉えたモノは、梅干しかしらと思う程しわがれた老人のドアップ顔。
(なに、この状況……いや、誰……え、夢?)
痩せて浮き出たような目玉がキョロリと桃次郎を覗き込んでいる。あちらは忙しなく眉を顰めたしりているがそうしたいのは自分なのだが、と思う。
夢なのにどうしてこんなにハッキリしているのか。感覚まであるのはどうしてなのか。って言うかこの人一体誰な訳? もう一ミリも訳が分からないし状況も飲み込めない。
しかし、ある思いに至る。
(いや、まて……この顔に見覚えが…………あれ? ま……まさか、)
凄まじいすり込み現象の賜物と言っても過言ではない。この顔にパッと思いついたら、と言う決まり文句が出てきそうだったが、多少? かなり? 掛け軸で見る物より頬の肉は落ちているものの、間違いない。
かの有名な英雄美伝の主人公であり、ご先祖様であるらしい桃太郎その人が、両手を使って無理やり桃次郎の瞼をこじ開けているではないか。
(ええ……――?)
もう、こんな意味の解らない状況に置かれているのに少しばかり冷静で居るのはどうしてだろうなどと考えるがその前に極限まで眠いのかもしれないと思い直す。
日々、部員勧誘からあの手この手で逃げ回り、学校が休みの日前日はこうして遅くまでついついゲームなどもしてしまうから……きっと脳みそが休まっていないのだ。
そうか、自分は自分の体に対してブラックなのであると思います。
そう言う事なら仕方がない、寝なければ。深夜はお肌の大敵よ。
(っち、誰が好き好んでこんなしわくちゃジジイのドアップ顔面を拝まなきゃならないんだ……)
寝るぞと意気込んでギリギリと何とかかんとか瞼力を振り絞り目を閉じたらば、
今最推しのアイドル達に囲まれたいいものが見られるのではないかしらとぼんやりと
開口一番。本当にお年寄りかと疑うしかない声量で番それも唾を盛大にまき散らしながらこう述べたのだった。
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