【ネタバレ注意】舞台 銀河英雄伝説外伝 オーベルシュタイン編

武藤勇城

本編

舞台 銀河英雄伝説外伝 オーベルシュタイン編

   2013/11/18(月)


  昨日の夜、ニコ生でやってた銀英伝の舞台。

  これが面白かったので、今日はその話を中心に。

  

  かなりの勢いでネタバレするので、内容を知りたくない人、

  ニコ生TSで見ようと思ってる人とか、DVD買おうと思ってる人とかは、

  序盤のニュース触れている辺りで引き返す事をオススメしておく。

  

  先週、先々週見た舞台銀英伝の2つは、「ある意味面白い」だったけど、

  今回のオーベルシュタイン編はね、マジで面白かった。

  っていうのは、これ、原作とは違う、完全オリジナルなんだ。

  オリジナルなんだけど、単純なアナザーストーリーではなくて、

  色んなところが原作に繋がっている話になっていて、すごく面白かった。

  

  銀英伝ファンにこそ見て欲しい。

  

  そんな話だった。

  ここまでで興味が沸いた人は、以下のURLからTS視聴どうぞ。

  ネタバレ読む前に、ここで引き返したまへ。

  TS見れなくなる前に、早めに見てくれたまへ。

  

  「新作上演記念!無料放送 舞台『銀河英雄伝説 外伝 オーベルシュタイン篇』 (番組ID:lv156743913)」

  live.nicovideo.jp/watch/lv156743913

  (ニコニコ生放送)

  

  ※2020年9月18日 追記

  上記URL先の番組は、当然ですが既に見ることが出来ません。

  

  どのぐらい面白かったか。

  ひとつの目安として、番組終了後のアンケートがある。

  このアンケートは、

  1、とてもよかった

  2、まあまあよかった

  3、ふつう

  4、あまりよくなかった

  5、よくなかった

  こんな感じの5択で選択肢が出るんだけど。

  

  ここで1を選択した人が91.1%、

  2を選択した人も7%ぐらいいて、

  合計98%以上の人が「良かった」と回答した。

  これを見ても、面白さが分かると思う。

  

  因みにだけど、前の日記でも書いた、自衛隊音楽祭り。

  あれはもっと凄くて、1を選択した人だけで97.8%だった。

  終了後のアンケで97.8%は、自分は他に見た事が無い。

  

  参考までに、夏の恒例、ニコニコホラー百物語だと。

  大体、5を選ぶ人が5割~8割とかねw

  4も合わせると9割超えるのはざらで。

  例えば、ももクロ主演の「シロメ」辺りは8割方が5を選択。

  ホラーの最低は何だったか・・・忘れたけど、9割以上が5を選ぶ番組も幾つか。

  という感じなのでね。

  B級ホラーが多かったのもあるとしても、

  そういうモノと比較して、どれだけ高評価なのかの参考に。

  

  

  さて・・・

  銀英伝の話はひとまず置いておいて。

  まず、いくつか、昨日の話の関連などがあるので。

  その辺に触れておこう。

  

  (中略)

  

  さて。

  ここから、銀英伝の話に戻りますよ~。

  ネタバレしたくない人は、ブラウザの戻るから戻って、どうぞ。

  舞台の話の前に、少し、原作のオーベルシュタインの話もしてるので。

  その間に帰ってください。

  

  って事で!

  

  まず、オーベルシュタイン、銀英伝を知らない人の為に。

  どんなキャラクターなのか説明していこう。

  

  このオーベルシュタインは、一言でいうなら、冷酷無情な策謀家。

  目的の為には手段を選ばない、非情な人物。

  それを端的に示すエピソードに、ヴェスターランドの大虐殺がある。

  

  オーベルシュタインは、この時、ラインハルトの陣営に加わって、

  ブラウンシュヴァイク公、リッテンハイム公といった貴族連合との戦いに参加。

  作戦参謀として、ラインハルトを補佐する役目を担っていた。

  

  ラインハルトの陣営には帝国の双璧、ミッターマイヤー、ロイエンタールといった、

  若き気鋭の将軍が揃っており、特権階級に胡坐をかいてばかりの貴族連合では相手にならず、

  ラインハルト陣営は次々と貴族連合を打ち破って、快進撃を続けていた。

  平民出身の将兵も多いラインハルト陣営は民衆からの支持も集めていて、

  貴族連合のブラウンシュヴァイク公の所有する惑星ヴェスターランドにおいても民衆が蜂起、

  公の甥であるシャイド伯爵も民衆に捕らえられ、殺害された。

  これに激怒したブラウンシュヴァイク公は、報復としてヴェスターランドへの熱核攻撃を計画する。

  周囲の幕僚、副官は、それを諌めたものの、怒りに燃える公は聞く耳を持たない。

  そして、この計画は、敵であるラインハルトの耳にも入った。

  

  この計画を知り、罪もないたくさんの人を巻き込む核攻撃を阻止しようとするラインハルトだったが、

  ここで参謀のオーベルシュタインが、こう意見を述べる。

  

  「いっそ、血迷ったブラウンシュヴァイク公に、

  この残酷な攻撃を実行させるべきです。

  そのありさまを撮影して、大貴族どもの非人道性の証とすれば、

  彼らの支配下にある民衆や、平民出身の兵士たちが離反することは疑いありません。

  阻止するより、その方が効果があります。」

  

  「200万人を見殺しにするのか。中には女子供も多くいるだろうに」

  ラインハルトが逡巡すると、オーベルシュタインは更に続ける。

  

  「この内戦が長びけば、より多くの死者がでるでしょう。

  また、大貴族どもが仮に勝てば、このようなことはこのさき何度でもおこります。

  ですから、彼らの兇悪さを帝国全土に知らしめ、

  彼らに宇宙を統治する権利はない、と宣伝する必要があるのです。」

  

  「帝国250億人民のためにです、閣下。

  そして、より迅速な覇権確立のために。」

  

  こうしてブラウンシュヴァイク公によるヴェスターランドの大虐殺は実行され、

  それによって民心を失った貴族連合は、更なる窮地に追い込まれてゆく事になる。

  オーベルシュタインの試算によれば。

  もし貴族連合が難攻不落のガイエスブルグ要塞に立てこもり、

  最後まで抵抗を続けた場合、両軍合わせて1000万人以上の死者が出たとされる。

  より多くの犠牲を防ぐために、小さな犠牲に目を瞑るべきだ。

  そういう冷酷非情な作戦が、オーベルシュタインの真骨頂であった。

  

  前にも書いたように、田中芳樹氏の作品、特に銀英伝には、

  現実に起きた事を元にしたストーリーが多々散りばめられている。

  このヴェスターランドの件は、日本人なら言わないでも分かる、あの件が元。

  アメリカ人が原爆投下を正当化するための言葉がある。

  

  「原爆投下がなければ、日本は更なる抵抗を続け、より多くの犠牲者が出ただろう」

  

  まさにこれと同じ事。

  これに関して、田中芳樹氏は特に語ってはいない。

  だけど、銀英伝の中には、この続きがある。

  その中から、氏の真意を探る事が出来るだろう。

  

  ヴェスターランドの大虐殺を、ラインハルトが知ってて見過ごした、

  というウワサを聞きつけた腹心のキルヒアイスが、ラインハルトを問い質す。

  

  「ラインハルトさまが覇権をお求めになるのは、現在の帝国、

  ゴールデンバウム王朝に存在しえない公正さに拠ってこそ意味があると私は考えていました。」

  

  「大貴族達が滅亡するのは、いわば歴史の必然、流血もやむをえないことです。

  ですが、民衆を犠牲になさってはいけません。

  新しい体制は、解放された民衆を基盤として確立されるのです。

  その民衆を犠牲にするのは、ご自分の足もとの土を掘りくずすようなものではありませんか。」

  

  「相手が大貴族どもであれば、ことは対等な権力闘争、

  どんな策をお使いになっても恥じることはありません。

  ですが、民衆を犠牲になされば、手は血に汚れ、

  どのような美辞麗句をもってしても、その汚れを洗い落とすことはできないでしょう。

  ラインハルトさまともあろうかたが、一時の利益のために、

  なぜご自分をおとしめられるのですか。」

  

  幼少時から常に同じ道を歩き、自らの分身とも思っていたキルヒアイスの言葉は、

  ラインハルトの中にある、やましい、後ろめたい気持ちを直撃した。

  常に心からの信頼をよせ、率直な意見を求めてきたラインハルトだった。

  二人きりの時は「閣下」「ローエングラム侯」などではなく、

  「ラインハルト」と呼べというほどの仲だった。

  しかし、この時ばかりは直言が耳に痛く、聞いていられなくなってしまう。

  

  「お説教はたくさんだ!」

  「第一、キルヒアイス、この件に関して、おれがいつお前に意見を求めた?」

  「お前はいったい、おれのなんだ?」

  

  「私は閣下の忠実な部下です、ローエングラム候。」

  

  キルヒアイスとしても、引き下がる以外に方法は無かった。

  そして、この件が後々まで響き、キルヒアイスは命を落とす事になる。

  その後、何度も言われるようになる。

  

  「キルヒアイスが生きていれば」と。

  

  このキルヒアイスは、ラインハルトにとって唯一無二の存在であった。

  オーベルシュタインは、これに関しても強く危惧を抱いていた人物で。

  

  No.2(ナンバーツー)不要論

  

  というものがある。

  オーベルシュタインに言わせれば。

  

  「幼友達というのはけっこう、有能な副官もよろしいでしょう。

  しかし、その両者が同一人であるというのは危険です。

  キルヒアイス提督を他者と同列におくべきではありませんか。」

  

  と、こうなる。

  結果的に、ヴェスターランドの件から両者の仲を裂くことに成功し、

  ラインハルトは次第にキルヒアイスと距離を置くようになっていく。

  キルヒアイスの死は、間接的にだけど、かなりの割合で、

  このオーベルシュタインが関係していたこともあり、

  銀英伝のキャラクターの中でも上位の人気を誇るキルヒアイスを殺した人物、

  という事で、オーベルシュタインは、銀英ファンの間では嫌われている存在。

  (ファンの間だけではなく、物語中で他の提督からも嫌われている)

  

  オーベルシュタインという人物を紹介するにあたっては、

  もうひとつ、これも知っておかなければいけない話があって。

  オーベルシュタインは、先天性の遺伝子異常を持っていた。

  生まれた時から目が見えず、幼少期より光学義眼で生活していた。

  

  劣悪遺伝子排除法

  

  というものがある。

  これはゴールデンバウム王朝の初代皇帝、ルドルフによって作られた法律で。

  弱い遺伝子、劣悪な遺伝子は、生きる資格がないというもの。

  先天的な異常のある人間は、生きる権利もないというもので、

  安楽死させなければいけない、という非人道的な法律。

  

  ゴールデンバウム王朝が生まれて500年のこの時代には、

  その劣悪遺伝子排除法もある程度緩和されていて、

  即安楽死という事ではなかったものの。

  時代が時代なら、オーベルシュタインは産まれてすぐ、安楽死させられていた。

  また、その劣悪な遺伝子を持っていた、という事で、

  オーベルシュタインの母も父親から虐げられていて、

  それを見て育ったオーベルシュタインは、ルドルフと、ルドルフの作った全てのもの、

  ゴールデンバウム王朝そのものを憎んでいる、という設定になっている。

  

  ここはとても大事なポイントなので、抑えておきたい。

  要約すると、オーベルシュタインの特徴は4点。

  

  1、冷酷非情な策謀家

  2、No.2不要論

  3、先天的に目が不自由で義眼

  4、ルドルフ皇帝とゴールデンバウム王朝を憎んでいる

  

  

  ここから、舞台の話、銀英伝外伝の話になる。

  基本、銀英ファンに嫌われるオーベルシュタインだけど。

  この外伝を知ると、オーベルシュタインが好きになるかも知れない。

  

  まずは舞台のあらすじを、2011年の公式ページより拝借。

  

  「銀河英雄伝説外伝 オーベルシュタイン篇」

  www.gineiden.jp/oberstein/

  

  ※2020年9月18日 追記

  上記URLは既に無くなっていました。

  別のURLになっていたようなので、新しく検索したものを置いておきます。

  以下の「あらすじ」が一言一句同じものかどうかの確認はしておりません。

  www.gineiden.jp/series1/oberstein/story.html

  

  (STORY)

  

  銀河帝国の非公式な諜報機関・通称"Houndハウンド"―――"猟犬"を意味するその組織は、オーベルシュタイン家の私的機関として、その"Fu¨hrerヒューラー"(総裁)の座は当主に代々受け継がれており、その存在を知る一部の軍幹部からは"オーベルシュタインの犬"とも呼ばれていた。

  

  オーベルシュタイン家の跡継ぎであるパウル・フォン・オーベルシュタインは、両目が見えないという先天的障碍を持って生まれた。

  「もし私がゴールデンバウム王朝の始祖、ルドルフの時代に生まれていたら、『劣悪遺伝子排除法』によって処分されていたでしょうな。」

  パウルは、ゴールデンバウム王朝の始祖ルドルフが作った、遺伝子を妄信して自分の存在を否定しようとしたこの国を、強く憎むようになる。

  

  オーベルシュタイン家の厳格な当主オトマールは、悪しき遺伝子を持った嫡男パウルに不満を持ち、妾の子であるシュテファン・ノイマンを呼び戻す。

  

  「オーベルシュタイン家の表と裏、これまで代々の当主が一人で担ってきたことを、お前達二人で分担するのだ。悪しき遺伝子の子でも、それならばどうにかできるであろう。」

  オトマールは"Hound"の当主である"Fu¨hrer"の座を異母兄弟二人に分担させようとする。

  

  現体制を守ろうとする兄ノイマンに対し、弟パウルは、本人の能力、識見に関わらず世襲で地位が決まり、ひとたび生まれた場所から抜け出すことさえかなわないこの社会に強い疑問を持つ。

  そして、その体制を打破しようとするラインハルトに共鳴し、兄と対立していく…。

  

  後に銀河帝国の皇帝となるラインハルトの参謀として、帝国の影を担うオーベルシュタイン。

  その秘めたる過去とは…。

  そしてその義眼の見つめる先は…。

  

  ― 外では徹底して仮面を被るのだ。冷徹な仮面を。―

  

  (ここまで)

  

  

  注意:銀英伝本編において、兄ノイマンは一切存在しない。

  また、ハウンドという諜報機関も一切出てこない。

  

  舞台は、老いたオーベルシュタイン家の執事の暴露、というスタイルで始まる。

  オーベルシュタイン家の秘密をお話しましょう、と。

  

  オーベルシュタイン(パウル)は、兄のノイマンとは仲良し。

  久々に会った兄ノイマンと、笑いながら抱擁するという、

  原作のオーベルシュタインしか知らない人にとっては衝撃的なシーンから始まる。

  

  このノイマンは、オーベルシュタインとは異母兄弟。

  オーベルシュタインが先天的に遺伝子異常があると知った父は、

  最初その子を安楽死させようとするものの、執事に説得され、思いとどまる。

  そしてその時、オーベルシュタインの目となり手足となれる腹心として、

  異母兄弟のノイマンを家に呼び入れ、一緒に育てる。

  子供の頃から、オーベルシュタインが生まれた時から、二人はずっと一緒だった。

  オーベルシュタインの強いところも弱いところも、ノイマンは全てを知っていた。

  オーベルシュタイン家の事も、全て知っていた。

  秘密諜報組織、ハウンドの事も。

  というより、ハウンドの指揮権を担い、影からオーベルシュタインを支えるのがノイマンの仕事。

  

  オーベルシュタインが成人した頃、ハウンドにひとつの依頼が入る。

  

  「ローエングラム伯ラインハルトの近辺を探れ」

  

  武勲目覚しいラインハルトに、何か不審な動きはないか。

  妙なスキャンダルはないか。

  それを調べる仕事。

  

  優秀なハウンド達は、隠しカメラの映像から、

  ノイマンとオーベルシュタインにひとつの報告を行う。

  映像のラインハルトの唇の動きから解析しました。

  腹心のキルヒアイスと二人きりになった時、

  間違いなく、ラインハルトはこう言いました、と。

  

  「あのルドルフに可能だったことが、おれに不可能だと思うか?」

  

  これは帝国に対する謀反の兆しあり!

  ハウンドの報告を受け、ノイマンは早速これを報告すべきだと提案する。

  しかしこの時、オーベルシュタインの心に、帝国に対する謀反の気持ちが芽生えた。

  今まで、500年間も続いた銀河帝国ゴールデンバウム王朝が倒れるなどと考えてもいなかった。

  しかし、この若き「金髪の小僧」は、大変な野心を持っている!

  そんな事が本当に可能なのだろうか?

  自分の目で見極めたい。

  

  オーベルシュタインは、この報告書とは別に、もう一冊の報告書を作成する。

  このラインハルトの謀反心を隠す、偽の報告書だった。

  どちらを提出するべきか。

  迷うオーベルシュタインだったが、帝国歴487年2月、アスターテの会戦において、

  ラインハルトが2倍の兵力に3方向から包囲されるという不利な状況を逆用し、

  この戦いを勝利に導く見事な用兵を見せると、その実力を高く評価するようになる。

  そして、この若者ならば、もしかしたら可能なのではないかと思い始める。

  

  しかしノイマンはその意見に強固に反対する。

  兄の反対に逆いきれず、オーベルシュタインは真実を報告すると兄に告げる。

  オーベルシュタインは、幼き日より父に教え込まれたように、

  兄の前でも本当の心を冷徹な仮面の下に隠し、ある計画を立てた。

  そして計画に沿って、最前線のイゼルローンへ志願して向かうのだった。

  

  ― 外では徹底して仮面を被るのだ。冷徹な仮面を。―

  

  オーベルシュタインがイゼルローンに赴任して間もない、帝国歴487年5月。

  自由惑星同盟軍、第13艦隊の司令官に就任したヤン・ウェンリー少将は、

  難攻不落のイゼルローン要塞へ向かい、第7次イゼルローン攻略戦を開始する。

  守るは帝国軍ゼークト大将。

  参謀の末席には、オーベルシュタインもいた。

  

  酷い妨害電波の中、味方艦からの救援信号を探知した帝国軍大将ゼークトは、

  どこから発信された電波か分からないまま、全艦隊を出撃させる。

  オーベルシュタインは参謀として、これは罠だと忠告するが、受け入れられない。

  旗艦に乗り込み、オーベルシュタインも出撃する事になる。

  この旗艦には、兄ノイマンと、ハウンド達も同乗した。

  

  そして。

  原作を知っている人は知っている通り。

  “魔術師”ヤンの奇策に嵌り、難攻不落のイゼルローンは一滴の血も流さずに陥落する。

  おびき出されたゼークト艦隊がそれと気づいた時には、

  既に要塞主砲「トールハンマー」がゼークト艦隊に照準を合わせており、

  いつでも主砲を発射できる態勢を整えていた。

  

  「もはや全軍突撃 (玉砕)あるのみ―――。」

  

  ゼークト大将の命令を聞く前に、それを悟っていたオーベルシュタインは旗艦を去る。

  緊急シャトルでの脱出だ。

  ハウンドたちを、ノイマンを、旗艦に残したまま。

  

  実はオーベルシュタインは、偽の報告書を提出していた。

  そのことは、ハウンド達もノイマンも知らない。

  あの報告書、本当の報告書に書いてある内容を知っているのは、

  オーベルシュタインの他、ハウンドと、ノイマンしかいない。

  ここで口封じをすれば、オーベルシュタイン以外にその秘密を知る者はいなくなる。

  

  ― 外では徹底して仮面を被るのだ。冷徹な仮面を。―

  

  オーベルシュタインがシャトルで脱出する直前、兄のノイマンが現れる。

  兄は全てを悟った。

  オーベルシュタインが、本物の報告書を出すと口では言っていたものの、

  本当は兄にも隠して、偽の報告書を出した事を。

  この場で、自分達を消し、口封じする算段だという事を。

  

  腰のブラスター(拳銃)に手をかけるノイマン。

  それより一瞬早く、オーベルシュタインのブラスターの光線が兄を貫く。

  致命傷ではなかった。

  

  「兄さん、最後のチャンスです。

  私と一緒に行きませんか?

  ラインハルト公に賭けて、ゴールデンバウム王朝を倒しませんか?」

  

  頭を振って、兄のノイマンは答えた。

  おれが本当にお前を撃つと思ったのか、撃てるわけが無いだろう。

  この兄まで騙し、銃を向ける、冷酷な仮面を被れるお前なら、

  きっとオーベルシュタイン家を一人でも立派に継いでいけるだろう。

  もう何も心配はしていない。

  そう言って、ノイマンは自ら艦橋を飛び降り、命を絶った。

  

  それを見たオーベルシュタインの頬を、一筋の涙が伝う。

  

  「これが人生で流す、最後の涙です、お兄さん・・・。」

  

  ここまでが、歴史の表舞台に登場する前の、オーベルシュタイン家の秘密。

  シャトルで脱出し、帝都オーディンへ帰還したオーベルシュタインが、

  その後、ラインハルトを頼り、そこで参謀として幕僚に加わる経緯、

  そしてそれ以降の話は、銀英伝を読んだ人ならみな知っている話。

  

  なるほどオーベルシュタインがラインハルトを口説く時、

  「私はルドルフとルドルフの作った全てを憎んでいる」

  と言って取り入った、あの時のセリフは、

  つまりラインハルトが帝国打倒を目指していると知っていた証でもある。

  何故それを知っていたのか、その答えが、この外伝の中にあった。

  勝算の少ない、一か八かの賭けではなかった。

  オーベルシュタインは、確実な情報に基づいて、ラインハルトに取り入った。

  全て計算の上だったというわけだ。

  

  その後、オーベルシュタインは冷酷な仮面を被ったまま、

  貴族連合と戦い、ヴェスターランドを経て勝利、ラインハルトと共に帝国を打倒、

  そしてローエングラム王朝の設立へと、尽力していく事になる。

  

  No.2不用論も、幼い頃から一緒に育ったノイマンを失った悲しみ、

  自分自身の経験、そういったところから来ているのかも知れない。

  

  本編と、この外伝は、見事にシンクロしていて、

  とても面白い、すっと胸に落ちる、そんな話だった。

  

  そして最後に、冒頭に現れた老執事が再登場し、こう言う。

  

  「え?これは本当の話なのかって?

  それは貴方がご自由に決めて下さればよいことですよ。」

  

  また、その前に、影絵を使った犬も出てくる。

  衛兵とオーベルシュタインの会話だ。

  先の日記でも書いた、あれ。

  

  オー:「この犬は何だ?」

  衛兵:「はっ、あの、閣下の愛犬ではございませんので?」

  オー:「私の犬に見えるのか?」

  衛兵:「ち、違うのでありますか?」

  オー:「そうか、私の犬に見えるのか。」

  

  外伝では、更にオーベルシュタインの心の声が続く。

  

  「付いてくるがよい、本当の犬ならば・・・」

  

  ハウンド(猟犬)を失い、代わりに本当の犬を飼うようになった、その経緯がここに。

  冷酷なオーベルシュタインの、ほんの少しの優しさが垣間見える、

  本編ではそれだけだった、この犬のエピソード。

  外伝では、見事にそれを補完している。

  

  オーベルシュタインにも、こんな過去があった、

  外では冷酷な仮面を被っていただけで、本当は心優しい子供だった。

  そんなオーベルシュタインもありなのかな、ってね。

  

  もちろん。

  そんなオーベルシュタインはイヤだ!そんなオーベルシュタインは認めない!

  という人は、この話を信じなくても良い。

  老執事の言葉には、そんなメッセージが込められている。

  

  本編の些細な謎が解き明かされていたり、本編の名言も出てきたり、

  全ての銀英伝ファンが納得できるように仕上げられていて、

  本当に素晴らしい、面白い作品だったと思う。

  

  カーテンコールの後。

  エンディングに、オーベルシュタインがうたう歌もまた、良かった。

  オーベルシュタインを演じた方、元アクセスのヴォーカルだからね。

  やっぱ上手かった。プロだね。

  

  まぁ個人的には、歌よりも、無表情のまま涙を流す、あの演技の方に驚いたわけだけど。

  あれは心に残る。必見。

  

  最後に、もう一度いうよ。

  

  銀英伝ファンにこそ見て欲しい。

  

  そんな作品だった。

  

  

  ※2020年9月18日 追記

  件の「舞台 銀英伝外伝 オーベルシュタイン編」に関する動画。

  当時書いた日記の中にも出て来る、アクセスの貴水博之が歌うシーンと。

  (以下:日記中に出て来る、アンコールで歌ったものかどうかは定かではない。アカペラ)

  

  「【貴水博之】舞台 銀河英雄伝説 オーベルシュタイン編【Eternal Sky】」

  www.youtube.com/watch?v=glMlPqSIo-8

  (ユーチューブ)

  

  この舞台のダイジェスト版動画を貼っておく。

  (以下:日記中に出て来る、無表情のまま涙を流すシーンもあり。3分45秒頃)

  「舞台 銀河英雄伝説 オーベルシュタイン篇 ダイジェスト」

  www.youtube.com/watch?v=mhBM_-ngci0

  (ユーチューブ)

  

  また、公式サイトがまだ生きているのであれば、DVDの販売もあるようです。

  5800円+送料

  www.gineiden.jp/series1/goods.html

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