第3話 いいよ2

「千里はどの俳優が好みなの?」

「わ、私は特に好きな俳優さんとかは……」

「え〜千里の好み、絶対みんな知りたがってるのに〜」


 放課後、私は友達に囲まれ帰宅できないでいた。


 今私を囲んでいる友達とは仲が悪いわけではないが、心の底から友達と呼べるのかどうかは正直怪しい。


 今もこうして好きな俳優という題目で話を続けているが、正直ドラマもテレビもろくに見ない私からするとこの話について行くのは大変だ。


「そういえば千里、航也先輩に呼び出されたらしいよ」

「え、そうなの⁉︎ いやでも千里なら納得だなぁ。というか航也先輩と吊り合う女子なんて千里くらいだし」

「や、やめてよぉ〜そんな話〜」


 当たり障りがないように相槌を打つ。


 そんなミッションをこなしながら、私にはこっそり視線を送っている相手がいた。


 それは同じクラスの秋く……じゃなかった。灰谷君だ。


 灰谷君はいつも楽しそうに男友達と喋っているが、女性が苦手なようでそのことをいつも男友達から馬鹿にされている。


 そんな私が灰谷君に視線を送っているのは、私と灰谷君が子供の頃、隣の家に住んでいる所謂幼馴染という関係だったからだ。


 昔は灰谷君のことを秋君、灰谷君は私をちーちゃんと呼び合う仲だったのだが、私のことなんて完全に忘れている様子ですれ違う時も目すら合わせてくれない。


 ただ忘れてしまっているだけなのかもしれないが、もし幼馴染であることを覚えていた上で私と関わるのが面倒臭くて意図的に忘れたフリをしているのなら、秋君と呼ぶと迷惑かと思い私も灰谷君と苗字で呼ぶようにしている。


 昔は一緒にお風呂に入るくらい仲が良かったのに今では見る影もない。

 とはいえ、子供の頃のことなんて忘れていて当たり前だし私がどうこう言える話ではない。


 そんなことを考えながら灰谷君に視線を送っていると、一瞬目が合ったような気がして急いで視線を友達の方へと戻した。


 ……え? なんで灰谷君が私のこと見てたの? 私のことなんて忘れてて視界にすら入れてもらえていなかったはずなのに。


 もしかしたらまだ私のことを見ているかもしれない。そう思い私はもう一度視線を灰谷君へと向けた。


 ……ん? 私の気のせいか、灰谷君が私の方に向かってきているきがする。

 いや、でもきっと勘違いだ。今までだってそんな勘違いが何度もあった。


 しかし、友達に囲まれている私の目の前まで灰谷君はやってきた。


「あ、あ、あの、あの、か、かか、影井さん?」


 ぷっ……。


 秋君があまりにも緊張していて思わず笑いそうになる。


 まあ女の子が苦手なんだから無理もないよね。


「秋く……灰谷さん?」


 あ、危ない。癖で名前で呼びそうになった。


 秋君なんてあだ名で呼んでしまえば友達に私たちの関係がバレてしまう。


「よ、よかったら一緒に帰らない?」

「え……」


 秋君から言われた予想外の言葉に私は思わず目を丸くした。


 今まで一言も声をかけてくれたことすらなかったのに、なんで今ごろ一緒に帰ろうなんて誘うの?


 もしかして、私が幼馴染だってことに気が付いた?


「だ、だだ、大丈夫‼︎ 急に声かけてすまん」

「いいよ」

「そうだよな。それじゃ俺は一人で……っていいの?」


 一緒にいた友達の目線なんて気にすることなく、私はそう返事をした。

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