第2話 いいよ1

 翌日、最後の授業を終え放課後になっても俺は昨日の出来事について考えていた。


 確かに影井の面影はあったが、影井以外の誰かが俺を陥れるために過去の俺を操作しようとしている可能性も考えられる。

 

 だとするならば、未来の影井(仮)の言う事は聞かずに何も行動を起こさない方が得策なのだろう。


 そもそもの話、未来から来たって言われたってそんな話信じられないよな。

 見た目からして二十代前半くらいだった未来の影井(仮)。


 たった数年でタイムマシンが発明されるとは考えづらい。


 とはいえ、俺たちが会話をしていた間、時間が止まっていたのは紛れもない事実だ。


 そう考えるとあれは本物の未来の影井ってことになるのかなぁ……。


 頭の中が混乱しながらも、俺は帰宅の準備をしている影井の姿を見て癒されていた。


 瞬間、影井の視線がこちらを向く。


 焦った俺はすぐに目目線を逸らしたが、影井の方も目が合ったことに焦り視線を逸らしていた。


 今のはどういうことだ? なぜ影井が俺の方に視線を向けて来たんだ?


 気のせいでも何でもなく、確かに影井がこちらに視線を向けてきた気がする。


 しかし、影井には俺に視線を向ける理由なんてないはずだ。

 俺が影井に相応しいレベルのイケメンであれば影井が俺に視線を向けてくるのも理解できるが、俺の顔は至って平均的である。


 それなのに影井が俺の方に視線を向けて来たとなると、一気に未来の影井(仮)の言っていた話に現実味が出てくる。


 まさか影井、本当に俺のことが大好きなのか……?


 いや、騙されるな。そんなわけがない。

 

 俺と影井に共通点なんて無いし、俺みたいな凡人のことを影井が好きになるはずがない。


 ただ偶然視線が俺の方に向いてしまっただけなのだろう。


 てかなんだよ、わざわざ未来からやって来ておいて、もっとイチャイチャしたいから早く告白してくれ、って。


 漫画やドラマの世界なら、未来からやってくる人物は何かしら問題を抱えて助けを求めてくるのがセオリーだ。

 誰かを救えだの世界を救えだの無理難題を押し付けてくる。


 それなのに、俺と早く付き合ってイチャイチャするためだけに未来からやってきて、早く告白をしてくれ、なんてチャチなお願いにはあまりにも現実味が無い。


「そういえば千里、航也先輩に呼び出されたらしいよ」

「え、そうなの⁉︎ いやでも千里なら納得だなぁ。というか航也先輩と吊り合う女子なんて千里くらいだし」

「や、やめてよぉ〜そんな話〜」


 影井が航也先輩から呼び出された?


 航也先輩というのはこの学校で一番のイケメンだ。

 

 ただ、とんでもなく女癖が悪いらしい。


 呼び出されたとなれば恐らくその内容は間違いなく告白。

 航也先輩ほどのイケメンが告白したとなれば影井はその告白を受けるかもしれない。


 とはいえ、影井を女癖の悪い航也先輩の彼女にしていいわけがない。


 なんだよこの狙い済ましたような絶妙なタイミングは……。


 こうなったらもう、航也先輩が告白する前に俺が告白をするしかない。


 もしかすると未来の影井(仮)は敢えてこのタイミングを見計らって俺のところへやってきたのかもしれない。


 そう思ってしまう程俺にとってタイミングが悪かった。

 

 このまま放っておいても影井は航也先輩からの告白を断るかもしれないが、未来の影井(仮)に早く告白しろと言われたからには行動を起こさないわけにはいかない。


 女子に囲まれてはいるが、覚悟を決めて影井に声をかけることにした。


 ここはスパッと、あたかも昔からの知り合いかのように声をかけてやろう。


「あ、あ、あの、あの、か、かか、影井さん?」


 はい緊張しちゃって声震えました‼︎ もう終わりだぁぁぁぁ‼︎


「灰谷君?」


 ここまできたらもう最後まで突き進んでやるぜ‼︎


 玉砕覚悟だ‼︎ さらば俺の薔薇色の高校生活‼︎


「よ、よかったら一緒に帰らない?」

「え……」


 流石に告白する勇気はありませんでしたぁぁぁぁくそがぁぁぁぁぁぁぁ‼︎


 そ、そうだよな。そりゃ無理だよな……。分かってたよ最初から。全部分かってたから。本当俺ってばチキン野郎だぜ……。


 どうせ昨日の未来の影井(仮)だって幻覚か何かなんだろ? 心の底から謝罪するからやめてくれよそんな困った表情見せるのは。


「だ、だだ、大丈夫‼︎ 急に声かけてすまん」

「いいよ」

「そうだよな。それじゃ俺は一人で……っていいの?」


 影井は恥ずかしそうに僕から視線を逸らしていた。

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