音を知らない、光も見えぬ、そして体は動かない、それでも私は生きたい。
七星北斗(化物)
暗さを知らない
生まれつき重度の難聴、全盲、発声障害、筋ジストロフィー、白血病からの血液がん、それらを発症した現在の私の余命は二週間。
私は何で生まれたのだろう、両親の顔や声、名前すら知らない。
私が誰かもわからない。
私の存在とは意味があるのだろうか?
生まれて痛い、怖い、何もないの繰り返しだ。それを言葉にすらできない、体すら動かせず表現もできやしない。
私の短い一生は、無菌室で幕を閉じた。
んっ!おかしいな、眩しさを感じる?
瞼を開けば、周りにはよくわからないが、光輝く世界が広がっていた。
生物?の鳴き声が聞こえる。
体が痛くなく、自由に動かせる。
瞼から液体が流れる。この液体はなんだろう?それが涙だということを私は知らない。
私に感情というものが溢れてくる。
「辛い人生を送られましたね」
声がした方を振り向けば、美しい何かが立っていた。
私は自分の見た目や、人間というものを知らない。
初めて見た動くもの、それは女神だった。
「あっ…あっっ」
初めて出せた声、私は言葉を知らない。
「私の名前はオネイロスと申します」
オネイロスの言葉は、不思議と頭の中で理解することができた。
「貴女は、自らの不幸に耐え、精一杯生きてこられました。貴女は確かに死にましたが、特別に異世界への招待券を得ました」
やっぱり私は死んだんだ…でも、異世界や招待とは、なんだろう?
オネイロスはふむっと、顎に手を当てる。
「少しわかりづらかったですね。貴女の生まれた国、日本とは別の世界のことです」
私が生まれたのは、日本という国だったのかと!驚く。
「貴女はそこへ転生する権利を得たのです」
私は頭の中で答える。
「嫌です」
と。
せっかく五体満足な体を得たのに、異世界でも、また体の自由を失うのが怖い。
「安心してください。異世界へ転生した貴女は、とても健康な体を得ることができます」
健康な体を得ることができる?それはとても嬉しい。
「貴女の望みはなんですか?特別に貴女の願いを三つ叶えることができます」
私の望みは、長く生きたい、幸せになりたい、もう痛いのは嫌だ。
オネイロスは頷く。
「貴女の願いを聞き届けました。異世界では、長寿な種族であるエルフとして貴女は生まれます。スキル、痛覚無効。オマケに治癒促進を与えましょう」
「幸せになりたいという願いについてですが、幸せは与えられるものではありません。幸せとは自ら感じるものです」
オネイロスはニッコリ笑う。
「時間がきてしまったようです。それではお休みなさい。異世界生活を楽しんでください」
と、オネイロスの優しい表情を最後に、私の意識はそこで途絶えた。
音を知らない、光も見えぬ、そして体は動かない、それでも私は生きたい。 七星北斗(化物) @sitiseihokuto
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