第10話 陶子⑨
その日は、午後から休暇をもらい産婦人科での検診の時だった。
まだ、ぺたんこなお腹の上で医師は、何度もぐりぐりと角度を変えて超音波診断をしていたが、映し出される白黒のモニターとお腹を交互に診ていたがやがて力尽きたように、沈んだ面持ちで言った。
「残念ですが、心音が聞こえません。このままでは母体にも影響が出ますので・・・」
目の前が、真っ暗になるとはこう言うことを言うのだろうか?視界は何も映さず医師の声が遠くに聞こえる。私の状態を案じてか医師は、旦那を呼び診断結果を説明することを勧めたので、私がスマホで呼び出すと哲郎は血相を変えてとんできてくれた。ベッドで休んでいる間に、医師と今後のについての予定が決まったのだろう。
早い方がいいという医師の勧めに次の日には手術することになった。
帰りの地下鉄の中で、哲郎は優しく私の手を握りながら
「これはしょうがないよ。医師も言っていたんだけど、陶子は何にも悪くないんだから。今回は、諦めよう。明日のことは、大丈夫だから。陶子の職場にも休みもらったし、俺の方は有給とって一日付き合えそうだからさ。明日のために今日は、早めに睡眠取ろうね」
夕方の帰宅ラッシュからは、ちょっと空いた時間帯だったので、そこまでして混んではいなかったが、車内のライトで地下鉄の窓に映った哲郎は、ひどく頼りなげで今にも泣き出しそうな顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます