第10話 陶子⑨

 その日は、午後から休暇をもらい産婦人科での検診の時だった。

 まだ、ぺたんこなお腹の上で医師は、何度もぐりぐりと角度を変えて超音波診断をしていたが、映し出される白黒のモニターとお腹を交互に診ていたがやがて力尽きたように、沈んだ面持ちで言った。

「残念ですが、心音が聞こえません。このままでは母体にも影響が出ますので・・・」

 目の前が、真っ暗になるとはこう言うことを言うのだろうか?視界は何も映さず医師の声が遠くに聞こえる。私の状態を案じてか医師は、旦那を呼び診断結果を説明することを勧めたので、私がスマホで呼び出すと哲郎は血相を変えてとんできてくれた。ベッドで休んでいる間に、医師と今後のについての予定が決まったのだろう。

 早い方がいいという医師の勧めに次の日には手術することになった。

 帰りの地下鉄の中で、哲郎は優しく私の手を握りながら

「これはしょうがないよ。医師も言っていたんだけど、陶子は何にも悪くないんだから。今回は、諦めよう。明日のことは、大丈夫だから。陶子の職場にも休みもらったし、俺の方は有給とって一日付き合えそうだからさ。明日のために今日は、早めに睡眠取ろうね」

 夕方の帰宅ラッシュからは、ちょっと空いた時間帯だったので、そこまでして混んではいなかったが、車内のライトで地下鉄の窓に映った哲郎は、ひどく頼りなげで今にも泣き出しそうな顔をしていた。

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