第20話
体育の授業が終わるなり、ミチルは保健室へとダッシュした。
早くヒメコに会いたい。
怪我人は出なかったと伝えたい。
真っ直ぐな想いがミチルを
外から保健室の様子をうかがってみると、4つ並んでいるベッドの1つに、ヒメコの姿を見つけた。
他に人がいないことを確かめたミチルは、限界まで窓に近づいてみる。
ヒメコは熱心に読書していた。
大人っぽいデザインのブックカバーを付けているから、てっきり純文学でも読んでいるのかと思いきや、目についたのはイラストと吹き出し。
なんと少年漫画の単行本を読んでいたのである。
本人はうまく誤魔化しているつもりかもしれないが、ミチルの距離からでも一目瞭然であり、カモフラージュの効果があるのか怪しい。
意外とドジなんだよな。
不覚にも笑ってしまい、慌てて口に
ヒメコは読書に没頭しており、隙だらけなのを良いことに、もう少し観察してみることにした。
やっぱり、かわいい。
漫画がおもしろいのか、ヒメコは時々肩を揺らしており、無邪気なところがほほ笑ましい。
ヒメコがぷっと吹き出した。
和風バトル漫画だから、日常ギャグがツボに入ったのだろう。
漫画を読んでもゲラゲラ笑うことのないミチルとしては、ヒメコの感情の豊かさが
ヒメコが周囲をキョロキョロ気にしたので、ミチルは発見される前に身を隠しておいた。
なんなんだ、あの愛くるしさは。
保健室で漫画を読むとか、キャラが立ちすぎているだろう。
いつもは
好きなら好きってはっきりいう。
ミチルの良い部分を指摘してくる。
実際、ヒメコの部屋にお邪魔したとき、
『坂木くんの近くにいると落ち着く』
『坂木くんの優しいところ、尊敬しちゃう』
『男の子の匂いってドキドキしちゃうかも……』
なんて恥ずかしいセリフを真顔でいわれて焦った。
もちろん、ミチルだって好きだ。
ヒメコが望むなら何回だって言葉にできる。
でも、本当に好きだからこそ、実際に好きって伝えようとしたら、心にハードルが生じるものじゃないか。
ヒメコにはそれがない。
VTuberとして心臓を鍛えた成果というのか。
妄想に
いけない!
もうすぐ次の授業が始まってしまう!
本来の用件を思い出して、窓ガラスを軽くノックし、ヒメコの意識をこっちへ向けた。
神木場さん、と口の動きで呼びかける。
坂木くん、とヒメコの口も動いた。
近いのに会話できない。
もどかしさで胸が痛くなる。
ミチルは頭の上で大きな丸をつくり、作戦の成功を伝えておいた。
その意味を理解したヒメコは花が咲くみたいに表情をほころばせる。
悔しいな。
一言も話せずにこの場を去るのが悔しい。
ヒメコの功績なんだよ、と誰にも理解してもらえないのが特に悔しい。
彼女はこれまで何十何百という人を救ってきたのに……。
学校では陰気なキャラクターとして通っているのが、ミチルには悔しく思えた。
複雑な想いを消化できないでいると、ヒメコは手招きしてきた。
ミチルは誘われるがまま窓辺に近づく。
窓が開く。
ヒメコが身を乗り出してくる。
何をされるのかと思いきや、右手をつかまれた。
チュッと。
手の甲にキスされたのである。
そういうのって普通、男が女にするものなんじゃ⁉︎
というか、誰かに見つかったら死活問題だぞ!
嬉しさと恥ずかしさで頭がパニックを起こしたミチルは、その場でぺこりと頭を下げて、
もしかして、ミチルを
だとしたら反則じゃないか!
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