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ご主人様、かっこよすぎてちょっと参ったなあ〜。


わたしはノゾミ。48歳。

子育ても終えて自分らしく生きやすくなって、ご主人様の魅力の強すぎるお顔を見ながら日々を甘く過ごしている。一人暮らしだ。


何をしようかなあ


今日もご主人様の最強のお顔を見ながらあまーく寝ていようかなあ


--助けて 助けて--


えっ?!声が、どこから


--お姉さん、此処だよ。ここ。--


よく分かっている少年よ、どこなの!


--貴方の目の前--


目の前。誰もいないわよ。


--よく見て--


よく見る



あ!居た。見えた。


君はだれ。


--僕は死んだご主人様の下部だよ--


えっ。死んだ、ご主人様の


--そう。下部。--


君は一体、何者なの?


--僕はご主人様の下部さ。--


死んでいるのよね?


--死んでいるよ。でもご主人様好きだから死にきれないんだ。--


そうなのね。成仏しきれないのね。


「そうだよ。」


きゃっ!急にハッキリ見えるように


「そうだよ。ハッキリ見えるようになったよ。それだけだよ。死んでいることに変わりはない。触ってみてご覧。透けるから。」


え、ええ。いいわ。君は、何で死んでしまったの。


「それはね。ノゾミお姉さん。胃袋で溶かし殺されてしまったんだ。」


胃袋って、あの「胃袋」?


「そうだよ。僕はモノを渡し忘れてしまってそのバツで殺されたんだ。」


渡し忘れ...って、君いくつだい。


「8歳だよ。」


はっ はっさ 


そんなに幼い子供が仕事を一回ミスしただけで殺されちゃうものなのね。確かに世界は厳しいけど。うちの子もミスをしたことあるけど流石に殺されまでは無かった。


殺されるだなんて嫌ね。うちの子はミスしても無かったのに。


「内容が違うんだろうね。僕は世間のより少し重要視される仕事のミスだから。」


なるほどね。それだからといって子供が一回ミスをしただけで殺されるなんて。


「うん。一回だけなのに。でも、それでも世界は好きだよ。」


そうなのね。そうよね。ご主人様の為に。


「そうだよ。良い感じだよ。」


じゃあ君は、何で苦しんでいるの。


「え、分からないかい?ノゾミさんの事が心配できたからだよ。」


私を。私の何を。


「姉さんの、今後の生活だよ。」


私の生活は、子供も自立したし旦那も離婚したしで特に何も問題ないわよ。


「あるでしょ。それ、ちゃんとご主人様に忠誠を尽くせるの」


尽くせるわよ。毎日こうやって、ご主人様のお顔を見ながら甘くいるし。


「なるほどね。それは良いけどさ。ご主人様の為にもう少し元気を出してくれよ。」


私は充分に元気よ。


「ほら、体が透けているじゃん。」


あらっ。何で?!私は死んでもいないのに。


「分からないかな。姉さんは未知の病気になっているんだよ。」


ええ、体が透ける病気だなんて聞いたことないわっ


「そういう病があるんだ。最近確認された病だから知らなくても無理もない。」


ええ、どうなってしまうの、私


「簡単なことだよ。誰からも見られなくなってしまう。死にはしないけど。」


ええ、イヤ


「僕もそれを止めたい。だから不安で姉さんを見にきたんだ。」


ぼくちゃん、ありがとう。どうやったらこれ治るかしら


「簡単だよ。「脳」の光を受ければいい。」


脳の。そこってここからは、あら、かなり時間がかかるじゃないの!飛んで行っても一番早くて11時間かしら


「その病気のタイムリミットは3.4日だよ。」


3.4日。それは悠長にしていられないね。今すぐに行かなきゃ。


「ああ。頑張れ。お姉さんならやれるよ。」


よし。まずはどうやって脳まで飛んでいこうかしら。そのまま飛ぶじゃあ何となく遅い様な気がするし。


「僕が連れて行ってあげる。」


え、君が


「うん。僕死んでるから直ぐに連れて飛んでいけるよ。」


あ、ああそれならお願いできるかい


「いいよ。捕まっていてね。ビューンって飛ぶから。」


私はこの子の体に捕まった。しっかりと。


あ!飛んだ!


本当に早い!肉が千切れそう!


あーーーーーー


あーーーーーー


あーーーーーー


あーーーーーー


「そろそろ着くよ。お疲れ様。」


え?!もう着くの?!何だかまるで、50分くらいだね。


「はい。着いたよーー。脳だ。」


えーー!もう着いたの?本当だ!脳細胞がいっぱいある。


一応時間を確認してみる。


えっ!


もの43分くらいしか経ってないじゃない!


これは驚きだわ


「何をしているの?お姉さん。時間もあれでしょ。行こうぜ。」


ええ!行くわ!


私は進んだ


にしても景色が本当にうちの地域じゃ無いわね。こちらには無いものが色々ある。何だかキラキラしてるなー。


「ね!綺麗でしょ?脳って。」


ええ!綺麗だわ。脳は前にも来たことあるけどここまで高度的だったかしら。


「ふふ。お姉さんの来ていない間に大分ご主人様が発達したんだよ。」


あら!そうなのね!それでこんなに高度に煌びやかになっているのね


「そうだよ。ご主人様は発達が早いよなあ。」


その様らしいわよね。なんでも、外の世界の同い年の人たちよりも相当早いとか。


「うん。そうだよ。相当早い。何だか誇っちゃうね!」


ね!ご主人様かっこいいよぉ。


いつか結婚したいなあ。なんて。


私たちは進む。光のある所へ向かって。


乗り物に乗った


わあ。乗り物の中も綺麗だね。完備されてる様だし綺麗にされてるし色の塗装の仕方も綺麗ね。


「ね。僕も見惚れる。生きているうちにあの子と一緒にここを冒険したかったな。」


あれ、今この子表情に闇が落ちたような


ーーーーー。


私たちは黙った。黙って乗り物に乗って向かった


ーーーー「あ、ここだよ。着いたよ。」


そうか。降りるんだね。


「うん。ここで降りて、光の所へ行くよ。案内するね。」


はーい。何だかここも色々と綺麗じゃあないか。


「ふあああ。綺麗だな。」


綺麗だよねー。ここら辺も。


「うん。そろそろ着くよ。」


ーーー「ほら、ここが脳の光のだ。」


見るとその光景に驚いた。綺麗だ。綺麗。景色の全てが色々しく綺麗でキラキラしている。その奥の方に上から降り注ぐ淡い光の様なものが見えた。


私はすかさずそこへ向かった。


歩く音もサクサクしている。快感だ。


そしてその光を目の前にした


これを、浴びればいいのね


「そうだよ。浴びてみてご覧。病気が治るから。」


私は光の中に入った。すると体の芯から歯痒い様な気がしていた所から細胞が動く音がして、悪いものが無くなっていく様な気がした。その快感は体のあちこちで場所を変えながらしばらく続き、軈て終わった。


終わった


「おめでとう!お姉さん。浄化し終わったよ。」


ええ。とても嬉しいわ。ありがとう。ここまで導いてくれて。私はこれから暫く脳を探検してから帰ろうと思うよ。


「うん。気をつけてね。」


ええ。いや、君は成仏しなきゃ。


「いいや。僕はそれはいいよ。ご主人様好きだからずっと世界にいるんだ。また何かあったら力になるね。」


そうなんだよねえ。そりゃあそうだよね。私は帰るからね。またね。有難う気を遣ってくれて。


「またね。遣いたいよ。もう死んでるんだし。」


変わった子だった。死んでいるのに成仏無しで。いやそれは分かるが。何となく、人に対して何故あそこまで尽くそうとするのか、単なる良い子か。私の事もお姉さんって呼んでたし。


そういえばあの子、なかなかに美人だったな。キリッとしていて、優しそうで真面目そうで。


その特徴をどこかで私は見たことがある様な気がする。


最初から思っていたこの疑問。


あの子は前にどこかで


あ!思い出した


あの子は前にニュースでやっていた「好きな女の子に告白をして喜びでその子の体に倒れて二人で一緒にスイッチを入れてしまった」子だわ!


あら?でもあの子は「モノを渡し忘れたから」って言っていたわ。これはどういうことかしら。単なる嘘かしら。だとしたらどうして。


そのスイッチは時間的に押したり消したりするもので、その時は押してはならなかったのだ。それを二人で押してしまった。その為にご主人様に支障が起き、二人はご主人様の胃袋で処刑をされてしまったんだ。


それ以降からは誰もがそのスイッチに近づかないようになった。


二人は死んでしまった


あれ?という事は


もう一人の女の子も死んでいて


あの子と同じようになっている筈


なら会いに行けばいいじゃない。デートもそれで。


何でかしら


--だって私、告白を許可してないし、私が好きなのはご主人様だしあの子のせいで死んじゃったからそういう気になりきれないの。--


えっ 声が聞こえた


--あの子は女性に対する礼儀が正しい面もあったから好かれることの多い子だった。--


--でも私はあの子は好きじゃないの。ねえ、聞いてくれて有難うお姉さん。お礼に大切な人に会わせてあげるね。--


今の話し声は


気のせいではないように聞こえた


何か愚痴っぽかったような


まあ、いいかな。元気そうだったし。私で良ければ聞くわよ。


脳を探検しに行きましょうか。


あら?


あの姿は


あんた!ミリマ!


「.....ノゾミ?ノゾミじゃないか?!」


ええ、あんた!会いたかったよ、どこで何してた?ミリマも!


「俺達はな、脳に引っ越していたんだよ。綺麗だからな。」


あらそうなのね。確かに綺麗よねここ。そりゃあ分かるわ。


ミリマ「お母さん、急に別居しちゃうから寂しい思いをさせたね。」


いいや。あんたたちが元気そうで良かったわよ。久しぶりに二人の顔が見れて嬉しかったわ。私はそろそろ帰ろうと思うから、行くね〜。


「ああ。気を付けてな。」


ミリマ「気を付けてね!ママ!」


ノゾミは飛んだ


それにしても、急に会えてびっくりしたなあ。脳に引っ越していたなんて!ふふ。元気そうで良かったわあ。


ノゾミは飛んでいる。


「血管」の中を


病気も治ったし、ゆっくり空を飛んで帰れるわねー。


ノゾミは暫く少し飛んでいた時にシャボン玉状のものが体にふわっと当たって、望みを透けて通過した。


........?今のは何かしら。まあいいか。


すると前の方から屈強な体をした防衛服を着た男性達が現れてきた。


そしてノゾミの前で止まった


「お前。通過してはいけないものを通過したな」


えっ?!


通過してはいけないもの?!


「そうだ。あのシャボン玉はご主人様の主要となる成分が入っているから通過してはいけないと前から言っているだろう。」


あっ


思い出した


少し前にニュースで何度もやっていた


「血管内に通過をしているシャボン玉はご主人様の重要な部分を形成するので決して触れたり、通過をしたりしてはなりません。それを出来なかった方は残念なのですが......」


これだ


忘れていた


但しそのシャボン玉は今流行っている奇病、体が透明になる病気にかかっていればこちらも透明なのでシャボン玉には何も触れない事になるので無効である、という僅かな記憶のも思い出した。


私は、うっかりしていたんだ


--フフ--



この声は


あの少年の!


--お姉さん。上手く僕の策に乗ってくれたよね。--


騙していたのね?


--そうだよ。僕は最初から同じ死人仲間が欲しくて貴方の病を治していたに過ぎない。透明になる病気はそのままでも死ぬわけはないって言ったじゃーん。あと、モノを渡し忘れてっていうのは姉さんから同情を買って僕達が回りやすくなる為の嘘だよー。--


騙された


--そうそう--


さっきの女の子の声も聞こえる


--そうだよ。治すのは脳の光を浴びるんだけどさ、お姉さん脳に行ったら帰る時血管を飛んで行くじゃん?その時に今流行りのシャボン玉にぶつかったら死んでくれるよなって確信があったんだ。--


あぁ、最悪


--じゃ、またね〜--


「貴方を連行する」


ああ 負けた


私は防衛服の男達に連れられ乗り物に乗らされた


どこかに連れて行かれているみたいだ


どこかしら


ーーーーー


ーーーーー


ーーーーー


ーーーーー


ーーーーー


段々景色が物騒になってきた


何これ


周りの景色が鬱蒼としてる


前の方からとんでもない形相とガタイをした化け物が来た


「その者は」


「この人は間違いを犯してしまった人です。」


「なるほど。通れ。」


「早速」


私は何処かへ連れて行かれているのか


ここは一体


ーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーーーーーー


「着いたぞ。降りるんだ。」


降りてみる


うっ 


何この匂い


「驚いているようだね。これは死刑の匂いだ。」


死刑、の?


「そうだぞ。貴方は間違いを犯したのでこれから死刑を執行するのだ。」


ええ


いや


頭が真っ白で何も考えられない


「そうだろうね。無理もないさ。まあ割と受け入れられるものだよ。」


そうは言われても


「まあゆっくりでいいさ。ついておいで。」


ついて行く


何だか物騒だ


景色も変だし


ここは、何処なの?


処刑って


ーーーー。


まさか


「さあ。ここの扉を開けなさい。」


入る


物騒な感じだ


真っ暗で何も見えないが


ギル....ギル....と何かが騒ぎ立てているような嫌な音を立てている


「入るんだ」


背中をドンっと押されて


扉の中に入った


するとそこには足場がなく


真下に落ちて行った


ズズヴェビビュブヅッッッブヅブヅブヅッッッ


みたいな感じの音が扉の中の真下からした


次にブチブチッと何かが弾ける音やギュルギュルと粘着性のあるものが回り動く音など、ゴゴゴゴという何かが動いている様な音が聞こえてきたりした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミリマ「お母さん、死んだんだね」


「そうだね。死んだね」


ミリマ「良かったよね?あの人私達のご飯とかも取っちゃうし、私達が働いたお金もホストとかスパとかそういうのに使っちゃうし。」


「良かったね。天使くんから「あの人に仕返しをするから最後に顔を見てみないかい?」って言われた時は何だろうと思ったけど、なかなかに気分がいいね。」


ミリマ「ねー。スッキリだね。世界からゴミがなくなった様な感じだよ。」


--僕だって結構な役に立つでしょ?--


ミリマ「立つねえ。綺麗な顔をしているし。」


--顔はどうでもいいとして。僕はああいう感じのはイヤってだけだよ。じゃあ、あの女の子とまた見回りしてくるねー。--


「いってらっしゃい。」


主は主席に座って不敵な笑みを浮かべていた


「そうか。また、死んだのか。私の為に。そうか。」


「それで私の身体は美しくあれるからな。」


「我が体細胞達よ。何時も、有り難うだ。死人となった者達も好きだ。」


「例えどの様な理由があろうともな。あの女性も好きなのだぞ。こちらに来たら、あの二人の子達にやった様におもてなしをして差し上げよう。」


--ここは。--


「ああノゾミさん。いらっしゃい。貴方は私の胃袋の中で溶けて亡くなったのだ。貴方は、いかにも私に会いたかったのだろう?これから可愛がってあげるぞ。生前、よく頑張ったね。」


--........--


ノゾミは初めて自分の目で見るご主人様の容姿の破壊力に無心になり、見惚れていた

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