第4話『大都市メディウム』

 エアスト村から大都市メディウムへの移動手段に、烏の羽根を使った。

 能力番号19『衣類を生物に変える能力』。

 この能力で服を烏の羽根にして、空を舞う。


 衣類の大きさによって、生物の大きさが変わる。

 大きい衣類なら大きく、小さい衣類なら小さい。

 今使用してる羽根のように部位的に変えることもできるし、命ある生物に変えることもできる。

 しかし、人間に変えることはできず、殺したことのある生物でないと再現できない。

 つまり僕は、この世界で烏を殺したことがある。


 ちなみに、この能力は母さんの能力だが、あまり使用したとこを見たことは無い。

 まぁ、生き物を殺すのを嫌がる人だったから当然なのだろう。


「見えて来た、あの大きな壁……間違いない」


 出発して30分、メディウムが見えて来た。

 壁の向こうが見えないくらいの大都市。


 実は何回か、メディウムに行ったことがある。

 父の仕事で、育てた野菜を売りに行くのだが、それに付いて行くことがあったのだ。


 入るのには身分証、または手続きが必要なのだが、手続きは長いし面倒臭い。

 それに、エアスト村が消滅したことはいずれ世に出回る。

 そうなれば、僕がそこの村の住民だったことはすぐにバレる。

 だから表面上は、村の被害から逃れた子供を演じる。


「よし、壁からは数百メートルだ」


 あと少しで着くという場所で、地に足をつけ、羽根を服に戻した。

 周りは砂漠のような場所で、地面は砂地だ。


「能力番号1『爪を尖らせる能力』」


 爪をナイフ以上に尖らせて伸ばし、自分の腕や足を軽く引っ掻く。

 そして、砂や土で体を汚す。

 これで見た目がボロボロで汚くなった。


「ヒュ〜、バタリ」


 そして砂を舐めるように、その場に倒れる。

 なぜこんなことしてるか気になる?

 それは村の被害から必死に逃げた感じを出す為だよ。


 そしてここで人を待っていれば、手続きをしないでスムーズにメディウムに入れる。

 計画通りに行けばの話だけど。



 5分経過……まだ誰も来ない。



 15分経過……誰かが来る気配すらない。



 30分経過……心配になってきた。



 * * *


 体を誰かに揺さぶられている感覚がある。

 意識がはっきりしてないが、微かに声が聞こえる。


「おい!大丈夫かお前?」


 どうやら、誰かが来るのに待ちくたびれて、寝てしまっていたようだ。

 気付くと夕方になっていて寒くなっていた。


「君は?」

「ヴェンディ……そんなことより大丈夫か?体の至る所傷だらけだ……歩けるか?」


 ヴェンディと名乗った少年は、僕と同い年くらいの美少年だった。

 透き通った金髪、金色の瞳、首元や頬には湿布が貼ってある。


「……歩ける」

「そうか……お前名前は?」

「マレフィクス」


 名前は名乗っておこう。

 今ここで偽名を使ったり、変に誤魔化すのは危険だ。


「マレフィクス……もしかしてお前さ、エアスト村から来た?」


 ――なんだこいつ?


 一瞬にして僕がエアスト村から来たことを当てやがった。

 こいつの能力か?


「何で分かったの?」

「やっぱり……実はさっき、ネットでエアスト村が無くなっていると聞いたんだ。それを確かめに行こうと思って外に出たらお前が倒れていた。ボロボロだったから村の被害から逃れてきたのかなって……思ったんだ」


 今確かに聞いた。

 こいつが『ネット』と言う単語を言ったこと。

 この世界にインターネットが存在するとでも言うのか?


「その……ネットって何?」

「……その反応、村にネットは無かったんだな?ネットって言うのは科学的な魔法だと思えば良い。遠くの人とやり取りが出来たり、外国の情報が載ってたり、まぁ情報サービスだな」


 どうやら、僕が知ってるネットでほぼ間違いようだ。

 てっきり、異世界だからネットなんか無いと思い込んでいたよ。


「そんなことよりメディウムに行くぞ。その様子じゃ辛いことがあったようだが、俺の前で泣くのは止めろよ?男なら壁を乗り越えて生きろってな」


 ヴェンディは僕に上着をかけて、僕の前を歩いた。

 僕の悲しそうで辛そうな演技が上手すぎたな。

 悪役を慰めるなんて哀れな奴だ。


「泣かないし」


 いずれ泣くことになりのはお前だ。

 この大都市も用事が無くなったら破壊してやるからな。


 そうほくそ笑んでると、あっという間にメディウムに到着した。


 入口は門のようになっており、窓口が三つあった。

 窓口の上には、右から『身分証』、『手続き』、『荷物』と書かれた看板がある。

『身分証』と『手続き』の入口は、人が通るような入口だが、『荷物』だけはビル以上に大きい。

 ヴェンディは『身分証』の入口に入った。


「ヴェンディ、お前帰るの早かったな?村はどうだったんだ?」

「村には行ってないです。道中にこの子が倒れていたから帰って来た」

「なんだ。エアスト村がどうなったか気になってたんだが」


 ヴェンディは窓口の人に身分証を見せ、門を潜ろうとする。


「待て待て!お前は良いが、この子の身分証は?」

「この子はエアスト村から来たから無いの。悪いけど手続きはなしにしてくれない?門限あるんだよ」

「かぁー!分かったよ。さっさと行きな」


 予定通り手続きなしで、スムーズに入れた。

 ようこそ僕!大都市メディウムに!


「ようこそマレフィクス!大都市メディウムに!」

「どうも」


 ――こいつ……同じこと言いやがった。


「取り敢えず警察に行こう」


 ネットだけじゃなく警察も居るらしい。

 もしかしたら、この世界は僕に馴染みやすい世界なのかもしれない。


「やぁヴェンディ、仕事の見学なら明日にしてくれよ」


 警察署に着くと、外国の警察が着るような衣服を身に付けた警察が居た。


「違う、この子の親を探して欲しい」

「親?迷子か?」

「違う、親が居ないの……あれ?ちょっと待てよ、もしかして生き別れただけかも」

「生き別れてない。両親は僕の前で死んだ……気にせず続けて」


 ――両親は目の前で死んだ……殺したのは僕だけどね。


 取り敢えず涙を堪えるフリをし、下を向く。

 警察もヴェンディも、少し気まずそうになる。


「あー、つまり引き取り先を探してる」

「分かったよ。あとは私達に任せなさい。ヴェンディは帰りなさい……もう夜遅いし、夜は物騒だからね」

「でも、俺こいつに聞きたいことがあるんです」

「はぁー、早く済ませなさい」


 ヴェンディは下を向いてる僕に、恐る恐る視線を向けた。


「なぁ、思い出したくないかもしれないが聞きたい。村はなぜ消えたんだ?何があったんだ?」


 知りたがりかな?

 だが、知りたがる奴を見ると教えたくないのが本能。


「ごめん、今は本当に思い出したくない。落ち着いたら話しても良い」

「……ごめん。じゃあ俺の連絡先渡すから、落ち着いたら連絡くれな」


 ヴェンディはそう言って、連絡先を書いたメモを僕に渡した。


「じゃあ失礼します。またな、マレフィクス」


『またな』ってことは、また僕と関わる気で居るらしいな。

 エアスト村の詳細がそんなに気になるのか。


「取り敢えず、今日はこの警察署に泊まりなさい……出来るだけ早く君の居場所を見つけるから」

「ありがとう……ございます」


 僕は、警察の同情を買うよかのように、涙を拭う素振りを見せる。


 ひとまずだ、ひとまず計画通りに行ったのだ。

 この世界にはきっと、僕より強い人間や魔物がいっぱい居る。

 今調子に乗って暴れればすぐに捕まるだろう。

 だから、十分な力と知識を得るまでは、賢く計画的に行動することにした。

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