第3話『悪役の誕生』後編

 もう、誰の悲鳴も聞こえなくなっていた。

 きっと、皆燃えて死んだのだろう。


「うぅ――」


 父が振りかざしたナイフは、僕の胸に当たり、ピタリと止まった。

 手の震えがナイフを通して直接伝わる。


「できない……村を燃やし、妻を殺したが……お前は俺の息子だ……愛を押し殺し、お前を殺すことはできない……」

「だと思ってたよ」


 ナイフを放した父は、僕を痛いくらい強く抱き締めた。


「もうやめてくれ」

「愛してるから殺せない……か」

「熱っ!?」


 反射的に、父は僕から離れた。

 それは、僕の体が高温の熱を放っていたからだ。


「殺せないのは、愛してる愛してないの問題じゃない。殺せないのは思い出のせいだよ」


 僕は、裾からある物を取り出す。

 ある物――それは、三歳の誕生日に父から貰った黄金のフォークだ。


「それは?」

「思い出の品、これを使って思い出に浸ろ?」


 次の瞬間、僕は黄金のフォークを当然のように、父の目に突き刺した。


「ああああああああぁぁぁ!!!」

「思い出が愛があると錯覚させる。まぁ、僕は父さんに愛を感じないけど……。それでも、思い出のある母さんは、他の村人達と違って殺しがいがあったし、特別だった。例えるなら、コメモチを食べるかステーキを食べるか……勿論ステーキが特別ね」


 父の顔を掴み、フォークを上に向けて、目ん玉をゆっくりとくり抜く。

 ブチブチと音を立てながらも、目玉が取れる。

 父は目元を抑えて、蹲った。


「んああああぁぁぁ!!」

「どれどれ」


 僕はくり抜いた目玉をぺろぺろと舐める。

 う〜ん、味はしょっぱいな。


「涙の味がする」


 父は痛みのせいか、僕の行為に表情を変えていなかった。

 もっと多種多様な表情が見たい。

 そう思い、フォークに突き刺したままの目玉を、父の口に入れる。


「良く噛んでお食べ」

「やめほほ――」


 口を無理やり抑え、無理やり目玉を入れる。

 しかし、目玉からフォークを抜いた瞬間、父は目玉を吐き出した。


「かはぁ!!」

「汚ねぇなぁ」


 ヨダレで汚くなった目玉を、再びフォークで突き刺す。

 そして、元々目玉があった目の穴に、目玉を押し込み、元に戻す。

 神経が繋がってないから、見えるはずがないし、向きも変な方向を向いていて、少し不格好だ。


「僕を殺すべきだったと後悔した?」


 父はもう叫ばなくなっていた。

 それどころか片目は死んでいて、正常の方の目も虚ろだった。


「もしもーし?」


 父を軽く突っつく。

 すると、父は人形のように地面に顔を倒した。


「ありゃ、痛みのショックで死んじゃったか」


 残念、少し乱暴すぎた。

 もう少し大事にしてたらもうちょい遊べていたのに。


「まぁ、良いか」


 前世じゃ頭の中で終わっていたことが、こうも簡単に出来た。


 そう、人は皆妄想する。

 有名人になった自分、地位を得た自分、プロのスポーツ選手になった自分、歌手になった自分、夢を叶えた時の自分を妄想する。

 けど、それを現実にする者は数少ない。

 僕は今、その数少ない者の一人になった。


 罪悪感は一切無かった。

 それどころか、これが自分の天職なんだと確信している。

 爽やかで穏やかな気分なのに、ドキドキとワクワクが止まらない。

 きっとこの感情は、恋に近いものなのだろう。


「あーはっはっははは!!ふははははははは!悪役最高!!」


 心の底から笑えたのは、これが初めてだ。

 心地が良い。


「このフォークは思い出として、悪役になった記念として、大事にしますよ……父さん」


 黄金のフォークに付いていた血を綺麗に拭き取り、血で汚れた僕の体を、井戸の水で洗い流した。

 黒いパーカーのような服に着替え、髪を乾かし、荷物を整える。

 そして右目の下に、赤色の逆三角形を描き、髪を赤色の紐で結ぶ。


「能力番号18『鏡を作る能力』」


 目の前に大きな鏡を作り、自分の見出し並みを確認する。

 自分も人も好きになったことは無いけど、辛うじて今、自分だけは好きになれた。

 見た目も中身も、今の自分が大好きだ。


「能力番号19『衣類を生物に変える能力』」


 僕の服は、一瞬にして黒く大きくふさふさの烏の羽根になる。


「最後の仕上げだ!能力番号15『岩を降らす能力』」


 羽根で宙を舞い、空高く飛んでる僕の上から、大きな岩が何個も降ってくる。

 岩は学校や家や畑を次々とぶっ壊し、村が燃えるのを早めた。


「花火のようで、花火とは違うとこが美しい」


 先程から『能力番号』と言っているが、能力番号とは僕が奪った能力に番号を付けたものである。

 いくつもある能力に番号がないと分かりずらいだろ?

 僕本人は、1から100を言えるように、またはAからZが言えるように全ての能力を把握している。


 能力は以下の通りだ。


『0』能力を奪う能力。

『1』爪を尖らせる能力。

『2』風の向きを操る能力。

『3』手から釣り糸を出す能力。

『4』水を熱くする能力。

『5』相手から恐怖を無くす能力。

『6』鉄を消す能力。

『7』痛みを一つ消す能力。

『8』音が目に見える能力。

『9』皮膚の一部を硬くする能力。

『10』髪の毛に意志を与える能力。

『11』影を水に変える能力。

『12』スライムを作る能力。

『13』周りの死を感じる能力。

『14』木を枯らす能力。

『15』岩を降らす能力。

『16』涙を垂らした場所に爆弾を仕掛ける能力。

『17』指を銃に変える能力。

『18』鏡を作る能力。

『19』衣類を生物に変える能力。

『20』姿形を変える能力。


 能力数『25』になるまであと百人。


 今回、条件を整えて殺した者は百人以上だったが、能力は20個しか手に入らなかった。

 どうやら、能力をストックできる数は決まっていて、新しい能力を手に入れた時は、他の能力と入れ替えるか決めれるらしい。

 これは先程体験済みだ。


 そして能力ストック数も、条件さえ満たせばアンロックできる。

 条件は、指定された数能力を奪うこと。

 勿論、奪った能力のほぼ全てが無駄になるが、アンロックする為の素材になる。

 ゲームで例えるなら、キャラクターのレベル上げみたいなもの。

 つまり、後百人奪えばストック数を25に増やせれる。

 まったく、僕に合ってる素晴らしい能力だ。


「よし、もう村には用事はない。とゆうかもう村では無いか」


 これから向かおうと思っている場所は、我が国エレバンの中でも五本の指に入る大都市『メディウム』。

 どの国でもどの都市でもそうだが、都市は基本的に壁に囲われてる。

 理由は、魔物、または魔王などから襲撃を受けない為だ。


 そして、これもほとんどの国がそうなのだが、都市に一つは『ギルド』と呼ばれる場所がある。


 ギルドは13歳から登録が可能になる。

 その都市で問題になってること、魔物の討伐、一般の依頼、ごく稀に国家からの依頼、そのような依頼を受けれる場所だ。

 ギルドに登録してる者は冒険者と呼ばれている。

 決してお金が多く稼げる訳では無いが、多くの人々がギルドに魅了される。

 その秘訣は何か、それも直接見てみたい。


「それでは行こう、大都市メディウムへ!」


 地図と羽根を広げ、空高くを自由自在に飛ぶ。

 異世界最高、悪役最高、僕最高、これからまだまだ面白いことがありそうでワクワクする。


「我が名はマレフィクス.ベゼ.ラズル!我は絶対悪!人間も魔物も等しく恐れるが良いぞ!」


 大都市メディウムでも、楽しめることを信じてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る