第5話『新たな暮らし』

 メディウムに来てすぐ、僕を引き取ってくれる人が見つかった。


 セスター.ロビンソン。

 82歳、寡男、一人暮らし、年金たんまりある。

 彼が僕を引き取った。


「ここがワシの家じゃ」


 家は前の家より大きく、二階建ての古い家だ。

 小さな地下もあり、広い庭もある。


「二階の大部屋を使いなはれマレフィクス」

「ありがとう、セスターさん」


 僕の名前は改名されなかった。

 セスターの爺さんも『親から貰った名前なんだから大切にしいや』と言ってた。


 既に、この都市の住民としての申請は済ませた。

 しっかりマレフィクス.ベゼ.ラズルで通っている。

 能力申請もあったからびっくりしたが、能力番号19の『衣類を生物に変える能力』で申請を通した。

 流石に、相手の能力を奪う能力で申請はしないさ。


「キャッキャ!この部屋を僕好みにしちゃお!」

「マレフィクス!ご飯の準備が出来たぞ!」

「今行きます!」


 お年寄りの家って感じだ。

 一階には食卓を囲む為のテーブル、ソファー、あと古いテレビ。


 ――え?テレビ?


「セスターさん、これは?」

「テレビじゃよ。ほれ」


 セスターは、リモコンでテレビの電源を付ける。

 当然のようにテレビの画面が付く。


「凄い!何だこれ!?」


 テレビ自体は凄くない……異世界にテレビがあったことが凄い感動的なのだ。

 だが、薄型の立派なテレビでなく、1900年代にあった古いテレビだ。

 画質はまあまあだが、何とも懐かしいテレビだ。


「このテレビって最近の?」


 爺相手だ……構うことなくストレートに聞いてみる。


「最近?あー、確か最新のテレビじゃよ」


 最新でこの新しさ……どうやら科学技術はそこまで発展してないようだ。


「ニュースの時間です」


 テレビでニュースが流れた。

 夜の六時、この時間帯はニュースらしい。


「昨日、エアスト村が無くなっていることが確認されました。村は何者かに襲撃された形跡があり、建物は全て燃え、住民は一人を除いて死亡したことが確認されました。現場のポストには、犯人が残したと思われる手紙が入っていました」


 ニュースの内容はちょうどエアスト村のことだった。

 燃え尽きたエアスト村が、テレビに映っている。

 となると、カメラもあると考えるべきだ。


「手紙を読み上げます。我はベゼ、この世の絶対悪であり悪役だ。またこの村のように、街や都市を破壊してやる……人間も魔物も等しく恐れよ」


 皆疑問に思った?

 なぜわざわざ手紙を書いたか?そしてなぜミドルネームを名乗ってしまっているのか?


 理由は僕と言う存在を世に知らしめるためだ。

 ならミドルネームを名乗る必要は無いと思うだろ?

 悪役としての呼び名は他でも良いと思うだろ?

 僕は、敢えてミドルネームを名乗った。

 それに、ニュースの続きを聞きな。


「この手紙は共通語であるため、犯人は高い知能を持つ魔物の可能性もあると警察は述べており、ベゼと言う名は生存した住民のミドルネームであることから、犯人は生存したマレフィクス.ベゼ.ラズル(12歳)に濡れ衣を着せるため、手紙を残した可能性が高いでしょう」


 ほらね?

 世間は疑うどころか、僕を庇った。

 わざわざミドルネームである『ベゼ』を名乗るバカは居ない……その考えが僕を庇う。


 もしかしたら何人かは、(裏の裏をかいたのかも)と思うかもしれないが、すぐに(けどわざわざ可能性を出して自分を危険に晒すこともない。それに生存したのは12歳の子供……そんなことする訳ないし、一人で出来るわけない)と冷静になる。


 実際、その考えは正しく常識的な考えだが、僕は転生者。

 この世界の人々にとっての不可能を可能にすることができる。


「お前さんを犯人にしようなんてバカな魔物じゃな。まぁ、文字が書ける魔物は少ない。考えたくないが魔王かもしれないな」


 ――残念、犯人は目の前に子供です。


「かも……ね」

「あー!すまんすまん!嫌なことを思い出させてしまったな」


 セスターは、僕に気を使い、テレビを消した。


 夕食を食べ終わった僕は、手紙に仕掛けていた魔法を発動させた。

 きっと今頃、手紙は燃えて無くなっただろう。

 筆跡が残らないよう、利き手では無い左手で書いたが、念には念をだ。

 証拠は極力残さない。


 * * *


 一週間が経ち、部屋にはベッドやテレビ、机や椅子や本など、物で満ち溢れた。

 ベッドには、三歳の誕生日に母さんに貰ったクッションを置き、机の引き出しには、父さんに貰った黄金のフォークを入れた。


 それとこの世界には、前世にあったパーソナルコンピュータ――通称パソコンがある。

 ネット環境とパソコン、それを入手したい。

 多くの情報を得るためには、それが手っ取り早い。


「セスターさん、頼みごとがあるのですが」


 一階に行き、テレビを付けながら新聞を読んでるセスターに、つぶらな瞳を見せる。


「何でも頼みなさい」


 やったぜ!この爺さんは正直僕を可愛がり過ぎのちょろい奴……とことん利用できる。


「パソコンが欲しいのです」

「パソコン?なんじゃそれ?」


 ――何だこの爺?パソコンを知らないのか?


 前世ではお年寄りがスマートフォンを知らなかった時代だったが、こっちのお年寄りはパソコンを知らないのか?

 仕方ない……適当に説明するか。


「小型テレビみたいな物です」

「よく分からないが……明日一緒に買いに行こう」

「ありがとうセスターさん!」


 頼みごとと言えばもう一つ、大事なことを忘れていた。


「それともう一つあるのですが」

「言ってみい」

「専門学校に行きたいです」


 専門学校……前も説明したが、六年制の基礎学校とは違う学校だ。

 12歳から行ける深く広い知識を学ぶ場所。

 つまり、高校や大学みたいなものだ。


「おぉ!そうじゃな!」

「では?」

「来週までに手続きを終わらせておく。今は四月二十五日じゃから、五月中には入学できるようにするわい」

「ありがとう!」


 専門学校、行かないと思っていたが行った方が知識が増え、魔法も上達するはずだ。


 翌日、セスターと買い物に行き、パソコンを購入した。

 想像はしていたが、異世界の街並みは神秘的だ。

 北アフリカのモロッコのような、入り組んだ町並みが特徴的で、綺麗な場所だ。

 場所によっては、ほんの少し近未来的な場所もある


「ネットバッチシ!行くぜ!パーソナルコンピュータ……ONオン!」


 パソコンもテレビ同様、昔のパソコンのように少し古い感じだった。

 1980年から1990年くらいの奥に太っている白いパソコンだ。


「わー、起動おせぇ〜」


 起動は遅い、待たされるは嫌いなのに。


「やっとついた」


 取り敢えず、どんな機能がありか調べ尽くさないといけない。

 まずはネットを――。


「マレフィクス!ご飯の準備出来たぞ!」

「ちっ、邪魔が入ったな」


 仕方なく、パソコンを後にして一階に降りる。


「今日はトンカツじゃ!」

「わぁ〜!見たことない食べ物!!」


 トンカツ、この世界で見るのは初めてだ。

 前世と大して変わらない見た目だが……トンカツより、今はパソコンにかぶりつきたい。


「ニュースの時間です。昨晩、イレーネのニ番地帯、図書館付近で三十代の男性の死体が発見されました。男性は、先週刑務所から脱獄したロドニー.アリカラだと確認されました。死体の口には『じごうじとく』と書かれた折り紙が詰め込まれており、犯人はインターネットで『セイヴァー』と呼ばれてる者だと警察は述べてます。悪を持って悪を制すセイヴァーとは一体何者なのか、世間は賛否両論で別れております」


 少し興味のあるニュースだ。

 ネットで『セイヴァー』と呼ばれてる何者かが、勝手に犯罪者を殺したってニュース。

 後でパソコンで調べて見よう。


「じごうじとく?どういう意味じゃ?」

「自業自得は、自分がやった行いが自分に返っ――」


 ――待てよ?この世界に『自業自得』なんて言葉あったか?


 僕は慌てて辞書を取り出し、『じごうじとく』を探した。


「急にじゃな?別に分からなくても良いのじゃが」

「ちょっと気になって」


 ダメだ、やはり『じごうじとく』なんて無い。

 それに、良く考えてみれば『自業自得』は日本の四字熟語だ。

 この世界に四字熟語はない。


 もしかして、いや恐らく、いや90%の確率で、僕以外に転生者が居る。

 元日本人で、前世の記憶がある者がもう一人居る。

 そいつはネットで『セイヴァー』と呼ばれてる。

 そして悪人を殺す行為をしてる……つまり奴にとって僕は、始末する対象だ。


 セイヴァーとベゼは敵、と言うことになるな。

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