第35話 邪魔するぜ〜♪

 どういうことだ?

 なぜ真島は、正木が“伝説の勇者の剣”を持っているとわかったんだ?


 その時、正木が思ったであろう疑問を七瀬も抱きながら、続きを読み進めた。


 1月8日

 今日も真島から手紙がきた。

『剣を渡せば命だけは助けてやる』


 1月9日

 今日も真島から手紙がきた。

『早く渡さなければ、剣と一緒にお前を拉致する』


 1月10日

 今日も真島から手紙がきた。

『殺す前に、早く渡さなかったことを後悔させてやる』

 この日の封筒の中には誰のものかわからない生爪が入っていた。


 1月11日

 真島から手紙が来なくなった。

 真島はイカレてる。

 真島は本気だ。

 やるといったら本当にやる。

 どうする?

 真島に剣を渡すか?

 そうすれば助かる。


 1月12日

 真島に剣を渡して助かる、俺はそれでいいのか?

 周りにひたすらぺこぺこして、一生このままでいいのか?

 あの剣の力を思い出せ。

 あの力が今、俺の手の中にある。


 1月13日

 団長からうやむやになってた減給の話がでてきた。

 今月からとんでもない額に減らされる。

 もううんざりだ。

 こんなギルド出て行ってやる。

 あの剣の力で真島とも渡り合ってやる。


 1月14日

 とうとう、ギルドを飛び出した。

 あてはないが、とりあえず北の方に逃げよう。


 1月15日

 今日、“伝説の勇者の剣”を使ってみた。

 なんだ、これは!?

 何の力も出ない!!

 ただの剣じゃないか!?

 俺は騙されたのか!?


 1月16日

 どうやって俺の居所を突き止めたのかわからないが、あの幼女と男が訪ねてきた。

 当然、俺は剣のことを問い詰めた。

 すると、幼女は以下のことを言った。


 1.“伝説の勇者の剣”は持ち主とともに成長する剣である。

 2.手にしたときのレベルは関係ない。

 3.持ち主が成長した度合いが大きければ大きいほど剣はより強くなる。

 4.持ち主が変わった時点で剣の力はリセットされる。

 5.持ち主が成長しなければ、剣の力は無いに等しい。


 なんということだ。

 俺が持ち主になった時点で、剣はただの剣になったも同然だったのだ。

 こんな剣、持っていても仕方がない。

 思わず、真島にくれてやる!!と言ったら、幼女はそれは許さないといった。

 幼女は剣を強くするために弱い俺を選んだのだという。

 もし、他の者に譲渡したら殺すと言い残して、幼女と男は消えた。


 1月17日

 いったいどうすればいいんだ?

 真島に剣を渡しても渡さなくても殺される。

 もうひたすら逃げるしかない。


 そこからあとはひたすら正木の逃避行の記録だった。

 そして記録の最後まで、真島との接触の記録はなかった。

 おそらく、最後の記録の翌日に真島がやってきて殺されたのだろう。


 最後の情報は直接見てみるしかないか......


プレイバック通常再生


 再び周囲の色彩が白黒に変わる。


リワインド巻き戻し、2倍」


 去っていった真島が逆回しで戻ってくる。

 埋める、剣を奪う、正木の遺体を運ぶ、穴を掘る、と全てが逆回しで進んでいく。

 そして、遺体を担いで後ろ向きに、正木が潜伏していた家に吸い込まれていく。

 そして、数分後、真島は後ろ向きで出てくる。


 ここだ!!


プレイバック通常再生


 時間の流れが反転し、真島は通常スピードで進行方向に歩き出す。


『ここだな』


 真島は扉を蹴り開けた。


『邪魔するぜ〜♪』


 真島が中に入っていき、七瀬も中に入っていく。

 そこにはテーブルで何かの作業をしている正木がいた。

 正木は真島の姿を見て驚き、慌てて立ち上がった。


『お前っ、真島かっ!?どうして、ここがわかった!?』


『おいおい、邪魔するぜ〜って言ったら、邪魔するんやったら帰って〜だろ?わかってね〜な〜』


 真島はがっかりした様子で肩をすくめる。


『待ってくれ!!お前が探してる“伝説の勇者の剣”はそんな都合のいいもんじゃないんだ!!俺の話を聞いてくれて!!』


 正木は剣を手に入れた経緯と幼女から聞いた剣の性質を洗いざらい話した。


『なるほど、その話が本当なら、そりゃ使い勝手が悪いな......』


 真島は思っていたのと違って、先ほどとは違う意味でがっかりした。


『アイツらの最終的な目的は何かわからないが、俺に剣を持たせて、剣の力を引き出そうとしている。お前に剣を渡したら、俺は殺される。頼む!!見逃してくれて!!』


 正木の必死の懇願に真島はため息をついたあと、あ、いいこと思いついた、というような顔をして、唐突に話を切り出した。


『なあ、お前、なんでお前が“伝説の勇者の剣”を持ってるって俺がわかったのか、気になるか?』


 真島そう言って、口の両端を釣り上げにたーっと笑った。



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