第34話 お前、“伝説の勇者の剣”を持っているな?
その手帳はB6~A6くらいの大きさで、革製のカバーと紐でしっかり閉じられていた。
懐の奥にあったこともあり、あまり浸食されていなさそうだ。
七瀬は中を開いた。
変色しているが、なんとか字は読めた。
そして、その記載内容は日記のようなものだった。
やはり、思った通り......
研究者は記録魔のことが多い......
几帳面ならなおさらだ......
順を追って情報を拾うために、およそ1年前の“伝説の勇者の剣”を手に入れたと発言していた頃の記録に遡った。
11月30日
得体のしれない手紙がきた。
差出人はIDと書かれていた。
全く心当たりがない。
書かれていた内容は、指定の日時、場所に来れば、レアアイテムをくれるという話だった。
胡散臭い。
誰が行くか。
12月1日
今日団長に呼び出された。
今月中にレベルを上げるか、目立った戦果を挙げられなければ減給だと。
困った。
俺は研究者だ。
こんなゲームみたいな世界で戦うなんて、そもそも向いていないんだ。
12月2日
あのレアアイテムをくれるという話に乗ってみることにした。
俺にはもう後がない。
だめもとだ。
そもそも俺なんかを騙して得することはないだろう。
12月3日
指定の日は明日。
場所はこのギルド拠点から一番近い町。
なけなしの有給を使うことにしよう。
これでただのいたずらだったら、どうしてやろうか。
12月4日
指定の時間と場所に現れたのは30前後の男と5-6歳の幼女だった。
主に話をしてきたのは幼女のほうで、大人のようなしゃべり方をする気持ちの悪い子供だった。
くれるのはあの“伝説の勇者の剣”だというので、何を馬鹿なと俺は信じなかった。
そしたら、証拠を見せてやると、町の外に連れていかれた。
その幼女は自分の背丈くらいある剣を軽々と持ちあげて、町に向けて横薙ぎに振るった。
スキルアクションか何かわからないが、剣から光が放たれて、町の上部分が丸ごと消し飛び、歩道や建物の基礎部分だけが残った。
本物なのかわからないが、そいつらに逆らうのが怖くてとりあえず受け取って、ギルドに逃げ帰った。
七瀬は読みながら戦慄した。
これは......
真島が手紙をばら撒く数日前に起きた、一つの町が消えたというあの事件......
そうか、確かにあの町があった場所は正木が所属していたギルドの拠点から近かった......
確かに辻褄は合うが、ここに書かれていることは本当なのか......
それに、この幼女と男は何者なんだ......
疑問は尽きなかったが、七瀬は続きを読むことにした。
12月5日
昨日のことがしばらく信じられなかったが、ギルド内で町が消えたことが噂になっているから、現実だったのだろう。
残った町の下部分が剣の切り口みたいにきれいに高さがそろっていたところから、“伝説の勇者の剣”じゃないかという噂が流れ始めている。
もらった剣は私物の中に隠してある。
あれをどうしていいのかわからない。
12月6日
まずいことをしてしまった。
今日、高橋に剣のことをうっかりしゃべってしまった。
今の俺はどうかしている。
だってしょうがないだろ。
町一つを消した武器を俺が隠し持ってるんだぞ。
正気でいられるはずがない。
12月7日
幸い高橋は冗談だと思ってくれたのか、昨日の話はあまり覚えていない様子だ。
これからは気をつけなければ。
そこから数日は関係ない話や、正木の苦悩などが書き綴らていた。
12月14日
おかしなことになってきた。
また心当たりのない手紙がきた。
今度は3期の真島妖一からだった。
今回はギルドの全員宛てにきていた。
中身を読んでさらに驚いた。
真島妖一も“伝説の勇者の剣”を手に入れたという。
何がどうなっているんだ?
“伝説の勇者の剣”は何本もあるのか?
それとも、俺が貰った剣はやはり偽物なのか?
12月15日
真島に雇われたという代理人がギルドにやってきた。
手紙の中に書いてあった参加券を売りにきたのだという。
皆、半信半疑ながらも参加券を買っていた。
俺は買わなかった。
もう関わりたくない。
そこからまたしばらくは関係のない記載が続いた。
12月28日
俺を除くギルドの全員が、真島の指定した場所に向かって旅立った。
場所はここから馬で三日ほどの場所だ。
皆ダメ元で期待に胸を膨らませているようだった。
俺は一人留守番だ。
団長も今は“伝説の勇者の剣”のことで頭がいっぱいで、俺の減給のことは忘れてくれいている。
このまま忘れてくれていればいいが。
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1月4日
ギルドの全員が戻ってきた。
なんでも、ようは年末ジャンボ宝くじみたいなことだったらしい。
当選者はでず、他の召喚者全員で真島を捕まえようとしたが逃げられたとのことだ。
これで、このバカ騒ぎは終わりだ。
俺も剣はしまったままこのことは忘れよう。
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1月7日
いったい何がどうなっているんだ!?
また真島から手紙がきた。
今度は俺一人だけにきている。
中身を読んで背筋が凍った。
一言だけこう書かれていた。
お前、“伝説の勇者の剣”を持っているな?
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