第36話 この世界に隠された真実を、私が見極めてやる!!

『え、ああ、そりゃあ、まあ......』


 唐突な真島の問いに正木は恐る恐る相槌をうつ。


『お前、買わなかっただろ?』


『え?』


『参加券だよ』


『ああ、あれか......』


 正木はしばらく逡巡したあと、その前後のことを思い出し、青ざめる。


『もしかして......参加券を買わなかった人間をチェックしていたのか!?』


『その通り♪たまたまあのとき、俺は現金で年末ジャンボ宝くじをやるつもりで色々準備をしていた。そこにあの町の消滅事件で、“伝説の勇者の剣”を持つやつが現れたんじゃないかと噂になった。そこで俺は思いついた。景品を“伝説の勇者の剣”にすれば、俺が嘘をついているとわかる人間、すなわち“本物”を持ってる人間は参加券を買わないだろうってな。と言っても、お前以外にも券を買わなかった人間は数人いた。召喚者の全員が全員“伝説の勇者の剣”を欲しがってるわけじゃない。中に数人変わり者もいるだろうとは思っていた。そして、次の第二段階』


 正木はすでに真島のその後の手口を理解していた。


『参加券を買わなかった全員に脅迫状を送りつけた......』


『大正解♪“伝説の勇者の剣”を持ってない人間からしたら、あの脅迫状はなんのことだかさっぱりだ。お前以外の全員が黙殺し、お前は行方をくらませた。震えたぜ!!俺も噂から思いついたことだったから、そのときまでは半信半疑だった!!そしたら、ピンポイントで一人だけ泡食って失踪しやがった!!俺は確信した!!この失踪した男は本当に“伝説の勇者の剣”を持ってるってな!!』


『そんな......』


 正木は頭を抱えた。

 会ったこともない真島の罠にはまり、真島の手のひらの上でこうも思い通りに動かされていたという事実に衝撃を受けざるえなかった。


『まあまあ、そんなに落ち込むなよ』


 真島は落胆する正木に近づき、まるで仕事でミスをした同僚を慰めるかのように正木の肩に右手を回した。


『なあ......あんた、なんでこんな話をしてるんだ?』


 真島が不自然にこれまでの経緯をべらべら喋っていることに違和感を覚え、正木は恐る恐る聞いた。


『えー、そんなの決まってるじゃねーかー』


 真島はそこで一拍置いて、正木の耳元でぼそりとこう言った。


『冥土の土産♪』


 次の瞬間、手品のように真島の右手にパッとナイフが現れ、正木が反応しようとしたときには正木の頸動脈が切られていた。


『うわあああぁぁぁっっっ!!』


 正木はその場に倒れ、血が噴き出る首を必死に押さえる。

 その様子を見ながら、真島はケラケラと笑っている。


『ど、どうして!?この剣を奪っても役に立たないって言っただろ!?』


『理由は2つ。1、乗りかかった船。ここまで手間暇かけたら引くに引けねーよ。2、お前に剣を渡したガキに興味が湧いてきた。俺の勘だと、そいつらはこの世界の裏側を知ってる。俺がお前から剣を奪えば、いずれ取り返すために俺に会いにくるだろう』


 正木は首を押さえながら、必死に逃げようと地を這う。

 真島はそんな正木の頭を掴み、切りつけた反対側から首にナイフを突き立てる。

 正木はその一撃でとうとう動かなくなった。


『さーて、よっこらせ......』


 真島は動かなくなった正木を担ぎ、外に出ていった。


 なるほどこういうことだったのか......


 さすがの七瀬も真島の悪知恵には脱帽だった。

 完全に詐欺師のやり口だ。


 ここまでのことはわかった......

 このあと真島はどうしたんだ......

 あの幼女と男に会ったのか......

 剣はまだ真島が持っているのか......


 疑問は尽きなかったが、七瀬が井沢から受けた依頼はあくまで正木の足取りを追うということだった。

 あとは井沢と連絡を取り、調査結果を報告すれば依頼は完了だ。


 これで依頼は終わりだが......


 七瀬は正木の日記帳を再び開いた。


 正木が謎の幼女と接触したのは2回......

 日時と場所はここに記載されている......

 私の“百年の記憶”なら少なくとも容姿と声は確認できる......


 七瀬の脳裏に先ほどの真島の言葉がよぎる。


『俺の勘だと、そいつらはこの世界の裏側を知ってる』


 残念ながら、私も同じ考えだよ......

 真島......


 そして次に井沢の言葉がよぎる。


『アタシたちの能力は戦闘には使えない。情報を集め、真実を見極めるためにあるのさ~』


 認めたくないが、お前の言う通りかもしれない......

 井沢......


 七瀬は正木の日記帳を懐にしまい、その場をあとにした。


 この世界に召喚されて以来、ひたすら生き残るのためだけに研鑽を積んできた七瀬に、生存本能を超えた強い目的意識がこの瞬間芽生えたのだった。


 この世界に隠された真実を、私が見極めてやる!!



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