第31話 この女も真島と同じで油断ならない......
弦人一行が決闘に向けて修行に勤しんでいたころ、宮平七瀬はとある山道を馬で進んでいた。
懐から地図を取り出す。
もうすぐね......
七瀬はある山奥の廃村に向かっていた。
なぜ、七瀬がその場所に向かうことになったのか、話は1か月前に遡る。
七瀬がフレアのところで魔法修行に明け暮れていたある日、一人の人物が七瀬を訪ねてきた。
真島妖一と同じ第3期の女冒険者で名前を
フレア邸の中で、七瀬と井沢はテーブルに向かい合って座っていた。
井沢は身長が低く、目がくりっとして、八重歯が目立ち、一見10代前半の少女のよう見えるが、噂では実年齢は20代後半と言われている。
服装はカーキ色のマントを羽織り、頭にはキツネのような動物の毛皮をかぶっている。
毛皮のぴょこっとした耳が余計に幼さを演出していた。
2人が無言で向かいあっているところへ、フレアがティーポットとティーカップののったトレイを持って現れた。
トレイをテーブルに置き、2人分のティーカップにお茶を注ぐ。
「どうぞ」
フレアはそう言って、2人の前にお茶を置いた。
「ありがと〜」
井沢は間延びした声でフレアに礼を言った。
「込み入ったお話だといけませんので、私は奥におりますね」
そう言ってフレアは別室に消えていった。
「それで、なぜ私がここにいるとわかった?」
七瀬は警戒に満ちた目で井沢を睨んだ。
「用件より先にそれを聞くか〜。相変わらず宮平ちゃんはガードが固いにぇ〜」
井沢はずるずると音を立ててお茶を飲んだ。
「宮平ちゃんは今期のルーキーたちのエースだ。そんな有名人の足取りなんて、アタシにしてみれば公開情報も同然さ〜」
井沢はこの世界に召還されてから情報屋のようなことをやっていた。
そして、元の世界では内閣情報調査室にいたとか、防衛省情報本部にいたとか、外務省国際情報統括官組織にいたとか、さまざまな噂があるが、その正体は闇に包まれている。
真島妖一と並び、この世界で不用意に関わってはいけない人物の一人とされている。
「わかった。それで用件は?」
七瀬はそれ以上の詮索は無意味と考え、本題に入った。
「ある男の足取りを追ってもらいたいんだ」
「ある男?」
「第5期の召喚者で、名前は正木拓哉という」
「その男、いったい何者の?」
「何者ってほどのモンじゃねーさ。能力も戦績も、元の世界の経歴もたしたことない。5期の中ではむしろ落ちこぼれのほうさ」
「まどろこっしいわね。そんな落ちこぼれに井沢智が興味を示す理由がなんなのかって聞いてるのよ」
「ふふふ......のってきたじゃないか。正木は1年近く前から行方不明なのさ」
「行方不明?」
「ああ、ちょうど、真島妖一が“伝説の勇者の剣”を手に入れたと吹いて回った時期さ」
七瀬は“伝説の勇者の剣”と聞いてぴくりと表情が変わる。
「正木はその頃、突然所属していたギルドを出奔した。そのあと各地で断片的な目撃情報があったが、それも10ヶ月ほど前にぷつりと途切れてる」
「1年前から行方をくらまして、10ヶ月前に完全に消息が途切れたその男を、なぜ今になってあんたが調べてるの?」
「正木が所属していたギルドで唯一仲の良かった男が、つい最近アタシに気になる情報をリークしてきたんだよ。姿を消す前、正木は“伝説の勇者の剣”を手に入れたかもしれないとその男にだけ漏らしていたんだ」
「なっ!?」
七瀬は驚愕した。
「その男は正木の言葉がひっかかってはいたが、ことがあの“伝説の勇者の剣”ゆえに、下手に口外すれば、面倒なことに巻き込まれるのではないかと考えて、ずっと胸に秘めていた。だが、最近そのギルドが解散して、その男は食いっぱぐれた。それで明日を生きる小銭欲しさにその情報をアタシに売り込んできたというわけさ」
「その話がその男の作り話の可能性は?」
「嘘を見分けるノウハウなんていくらでもあるさ。魔法やスキルなんか使わなくてもな〜」
井沢はそう言って不気味な笑顔を浮かべ、その笑顔を見て七瀬は背筋がぞくりとした。
元内調だか、情報本部だか知らないが、この女も真島と同じで油断ならない......
そう思いつつ、七瀬はこれまでの情報を整理した。
“伝説の勇者の剣”を手に入れたかもしれないと言っていた男が突然行方をくらました。
その少し後に真島妖一が“伝説の勇者の剣”を手に入れたという手紙をばらまいた。
正木、真島、“伝説の勇者の剣”。
正木の失踪について調べれば、もしかすると“伝説の勇者の剣”にたどり着ける可能性もある。
「おおよその話はわかったわ。最後の質問よ。なぜその調査を私に依頼してきたの?」
「ふふふ......薄々わかってるんじゃないの〜?」
井沢は七瀬を試すような笑顔でそう言った。
「わからないから聞いている」
もったいぶる井沢に七瀬は苛立つ。
「ふふふ......じゃあ教えてあげるよ。アタシは宮平ちゃんの......」
井沢はそこで言葉を止め、身を乗り出して、七瀬の耳元で囁いた。
「“固有スキル”の中身を知っている......」
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