第29話 ほらー、こいつだって、いいぜって......ヘ?

 弦人、山田、恵は宿屋の食堂で情報交換をすることになった。

 弦人と山田が向かい合って丸テーブルに座り、2人ともむすっとして互いに顔を背けている。

 そして、2人の間で恵が気まずそうな顔で座っている。


「で、なんでお前と綾野が2人でここにいるんだ?」


 山田がもろに不機嫌な声でそう言った。


「ハ?なんで、お前にそんなこと言わなきゃいけないんだヨ?」


 弦人も不機嫌に返す。

 久々の再会で最初は弦人も友好的だったのだが、妙に山田が不機嫌な態度をとるので、だんだんと弦人も攻撃的な空気になってしまったのだった。


「なんだと、こら?」


「おー、やんのカ?」


「あー、やめてください!!」


 と、弦人と山田が殴り合いになりそうになって、恵が止めるということを繰り返していた。


「えーと、話が進まないので私が話しますね......」


 恵がことの顛末を喋りだそうとしたが、それを弦人が慌てて止める。


「いや、いいよ、綾野!!俺が話ス!!」


“灰色の鷹”を飛び出すに行った経緯は、恵にとってとてもつらい内容であり、それを恵の口から説明させるのは憚られたのだ。

 弦人はここに至った経緯を山田に話した。

 異空間ダンジョンに遠征に行ったこと。

 団長の恵に対する仕打ち。

 弦人が団長に決闘を挑んだこと。


 山田はずっと無言で聞いていたが、団長に決闘を挑んだくだりで驚愕して声を上げた。


「お前、何考えてんだよ!?勝てるわけないだろ!?」


「わかってるよ、無謀だってことハ。でも、俺たちはそうせざるえなかったんダ......」


 弦人は恵の方を見つめた。

 恵も少し頬を赤らめながら、見つめ返した。


 その様子を見て山田はどこか悔しそうな顔で俯いた。


「それで、お前らはここにレベル上げに来たのか?」


 山田は俯いたままそう聞いた。


「ああ、そういうことダ。さあ、俺らは話したゾ。別に興味はねーけど、お前はなんでこの集落にいるんだヨ?宿屋のオヤジの話だと、宿代に払う金も尽きそうなのにずっとここに居座ってるんダロ?」


 弦人に問い詰められ、山田はしばらく黙っていたが、しぶしぶ口を開いた。


「レベル上げのためだよ......ここを選んだ理由はたぶんお前らと一緒だ......」


「え、じゃあ、お前もモシカシテ......」


 山田の意味深な言葉に弦人は少し驚いている様子だ。


「え、どういうことですか?」


 恵は2人の会話の言外の意味がわからず、顔に疑問符を浮かべて2人の顔を交互に見比べた。


「相馬、お前、綾野にここを選んだ理由を話してなかったのか?」


「あ、ヤッベ。綾野、スマン。聞かれなかったからうっかり説明するの忘れてたワ」


 弦人は慌てて、この場所を選んだ理由を恵に説明した。




「え、えええぇぇぇ......」


 その内容を聞き、恵は青ざめた。


「くそ、やっぱり同じか......」


 青ざめる綾野の横で、山田は毒づいた。


「あー、お前もやっぱり同じカー......」


 山田の反応を見て、弦人もふてくされる。


「2人とも、そんなとんでもないこと考えてたんですか......」


 恵はしばらく呆然としていたが、ふとあることに気づいて、ぽむと手を打った。


「あ、これ、じゃあ、3人で行けばいいんじゃないですか?」


 恵の言葉に弦人は、げっという顔をする。


「なんでこんなヤツト!?だいたいコイツだって俺らに協力するわけガ......」


「ああ、いいぜ」


「ほらー、こいつだって、いいぜって......ヘ?」


 思いがけない山田の返答に弦人は唖然とする。


「相馬に協力するのは面白くねーが、俺も“灰色の鷹”に一矢報いたい。一口噛ませろ」


「うん、あー、エート......」


 山田の申し出に弦人はどうしていいかわからずしどろもどろになる。


「いいですよね、相馬さん?」


 恵の満面の笑みに弦人はしばらく考えたあと、しぶしぶ了承した。


「あー、もう、わかったヨ!!」


 かくして、元“灰色の鷹”団員、山田武史が仲間に加わったのであった。



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