第28話 ん......あああぁぁぁーっっっ!!

 この近くにゴブリンの群れが来ているようだ。

 人間の集落の近くにゴブリンが集落を形成するのは考えにくく、おそらく放浪の群れが来ているのだろう。


 ちょうどいい相手だな......


 弦人は足跡をたどり、ゴブリンの群れを探すことにした。


 ん......


 弦人は群れを探す途中で、数本の木がまとめてばっさりと切り倒されているの見つけた。


 こっちはゴブリンじゃないな......


 ゴブリンの武器は棍棒などの打撃武器がメインであり、磨製石器も使うがこのようにすっぱりと木を斬ることはできない。


 木こりでもないな......


 木こりにしては、切り口が胸の高さで無駄になっている部分が多く、そもそも切られた木の上部分がその場に放置されている。

 しかも切り口に焼け焦げた跡まである。


 スキルアクションを使ってる......

 冒険者だな......


 おそらく新しい技かなにかの試し切りをしたのだろう。


 この近くに冒険者も来てるのか......

 いや、切り口の形跡から1週間は経過してそうだから、今もこの辺にいるかはわからねーか......


 弦人が木の切り口を観察していたその時、背後からガサゴソと物音がした。

 弦人が振り返ると、そこに一匹のゴブリンがいた。


 お、でてきたか......


 弦人は剣の柄に手を添える。

 その動きを見て、ゴブリンは敵意を示されたと判断し、低く大きな雄叫びを上げた。


「ぐあああぁぁぁっっっ!!」


 雄叫びの数秒後、そのゴブリンの背後の茂みからさらに数匹のゴブリンがでてきた。


 へへ、この世界に来た日のことを思い出すな......


 その光景はまさに弦人がこの世界に召喚された日、ゴブリンと遭遇した瞬間と全く同じだった。

 しかし......


『ぐあああぁぁぁっっっ!!』


 出てきた数匹のゴブリンがさらに雄叫びを上げた。


「え......」


 そして、背後からさらに10匹以上のゴブリンが姿を現した。


「えーと......ちょっとさすがに多いかなー.......」


 ゴブリンの数に弦人は凍りついた。


『『ぐあああぁぁぁっっっ!!』』


 ゴブリンたちは全員で雄叫びを上げ、弦人に襲いかかった。




 1時間後、集落の外れで恵は変わらず瞑想に耽っていた。


 さすがにこればっかりはきついなー.......


 いよいよ集中力が切れ、恵は目を開いた。


 相馬さん......そろそろ帰ってこないかなー......


 そう思っていた矢先、視界の森の茂みが動き、人影がどさりと倒れ込んで現れた。


「え......」


 恵は驚いて口元に両手をあてる。


「あ......綾野......」


 その声は弦人だった。


「相馬さん!?」


 恵は人影が弦人だと気づき、慌てて駆け寄った。

 弦人の衣服はボロボロで、小さいものばかりだが切り傷や打撲痕があちこちに散在している。


「何があったんですか?」


 恵は弦人の体を抱きかかえた。


「うぅ......さすがに......ゴブリン20匹は......キツ......かっ......タ......」


 弦人はそんな最後の言葉を残して、息絶えた。


「相馬さん、相馬さん、相馬さーーーん!!!!!!」


 恵は弦人を抱えたまま、涙目で絶叫した。




 恵は大慌てで回復魔法をかけた。

 10分後、弦人の意識は戻ってきた。


「あれ......ここハ......」


 弦人は恵に抱きかかえられたまま、あたりをキョロキョロと見回した。


「集落の外れですよ」


 恵は優しく語りかけた。

 意識は戻ったものの、まだ大部分の損傷が治癒しておらず、回復魔法をかけ続けていた。


「もう、無理しないでくだいよ!!」


 恵は涙目で怒りながらそう言った。


「ははは......スマン......」


 弦人は弱々しい声でそう言った。


 しかし、困った......


 弦人はだんだん頭がはっきりしてきて、冷静に考え始めた。


 スライムの森はなんだかんだいって安全だった......

 こういう普通にいろんなモンスターがうろついてる森でレベル上げをしようと思ったら、思いがけない強敵や大群に出くわすことがある.......

 そういうときにソロはリスクが高過ぎる......

 次から綾野も連れていくとしても、攻撃力特化のアタッカーがもう1人欲しい......




 その後、傷の回復は終わったが体力の消耗が激しく、弦人は恵に肩を借りて宿屋に戻った。


「おや、どうしなすった?」


 宿屋の主人が弦人の様子に少し驚いた。


「ははは......ちょっとゴブリンにやられてネ......」


 弦人は乾いた声で笑った。


「傷は大丈夫かい?」


「ああ、回復魔法で傷自体は治ってるヨ......ただ、体力がけっこう持ってかれてネ......」


「そうかい。今夜はおあつらえ向きに猪の鍋だ。体力の回復にはもってこいだ」


「へー、猪......」


「ああ、あんたらの他に2週間くらい前から冒険者が1人宿泊しててね。宿代に払える金がそろそろ底をつきそうだっていうから、宿代の代わりに今日猪を狩ってくるよう頼んどいたんだ」


 宿屋の主人がそう言った矢先、入り口の扉がばんっと開いた。


「おい、オヤジ、とってきたぞ!!」


 仕留めたきたと思しき猪を担いだ大柄な男がのしのしと入ってきた。

 そして、弦人たちと目が合う。


『ん......あああぁぁぁーっっっ!!』


 弦人と男は互いを指差し、驚きの声をハモらせた。

 猪を担いで入ってきた大男は、数週間前に“灰色の鷹”を脱退した山田武史であった。



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