第27話 いや、一人部屋2つで

 弦人は荷物から紙とペンを取り出した。

 紙をきれいに切り分け、1枚を名刺くらいのサイズにする。

 そして、恵の習得可能な魔法を1枚に1つずつ書いていく。

 魔法の効果も一言一句、省略することなく書き込む。


 できた......

 あとは取捨選択と組み合わせ......


 弦人は魔法を書き込んだ紙を、あーでもない、こーでもないと、組み合わせてはばらし、また別のもの組み合わせてはばらしということを繰り返す。


 綾野の今のレベルは7......

 習得できる魔法の数はレベルと同じだから、今の綾野の魔法枠は7......

 そのうち一つは初歩の回復魔法で使っちまってるから、残り6枠......

 厳しいな......

 できれば、もう少しレベルアップしたいところだが......


 弦人は、竜児が持ってきたもう一つの物品、望遠鏡に目をやる。


 こっちは、さらに運任せなんだよなー......

 でも、毎日根気よく探していくかないか......


 おおよその考えがまとまり、弦人は口を開いた。


「場所を移動シヨウ」


「場所?」


「俺たちの修行の拠点になる場所を探すんダ。できるだけ見晴らしのいい丘か山の上とかがいいんダ」


 弦人は手持ちの地図を開き、目的にあった場所はないかと探す。

 10日後にギルドの拠点に戻らなければならないことも考えると、ある程度そちらにも近くなければならない。


「ここだナ」


 弦人は地図上のある山にあたりをつけた。

 等高線からして傾斜が緩やかで、おそらく標高500メートルくらいであろう。

 好都合なことに山頂には人間の集落まである。


 二人はテントを畳み、荷物をまとめ、馬に乗って移動を始めた。




 馬で半日ほど進んだところで、山のふもとに着き、二人は山に入っていった。

 傾斜がかなり緩やかな山なので、馬でそのまま上ることができた。


 数時間して山頂の集落にたどり着く。

 人口100人に満たないくらいの小さな集落だ。


 二人は集落の中で一軒だけの宿屋に入った。

 カウンターで呼び鈴を鳴らし、奥から宿屋の主人と思しき中年男性が現れた。


「冒険者さんお二人ね?」


 主人は必要事項を聞きながら台帳に記載していく。


「二人用の部屋一つでいいかい?」


 主人の目が意味深にキラリと光る。


 それを聞いて、恵はぼっと顔がゆでだこのように真っ赤になる。


「いや、一人部屋2つデ」


 弦人が何の迷いもなく即答し、恵はずっこけた。


「ドウシタ?綾野?」


 弦人はキョトンとした顔をしている。


「いえ、なんでもないです......」


 少しくらい迷うか、おどおどするかしてほしかった.......


 恵は涙目でがっくりと肩をお落としていた。




 二人は荷物を部屋に片付けたあと、集落の外にでた。


「さて、当座の修行だが、綾野は魔力を練るトレーニングをやってクレ」


「え、私がいつも朝晩やってるやつですか?」


 恵はてっきり魔法図鑑の後ろ1/4の魔法のいくつかの契約を行うものとばかり思っていた。


「そうダ。新しい魔法を習得するときは大量の魔力を消費するんダロ?それに備えて魔力をしっかり溜めておいてクレ」


「相馬さんはどうするんですか?」


「俺はこのあたり一帯を回って、片っ端からモンスターを倒して、少しでも経験値を積ム」


 二人は別れて行動を開始した。

 恵は集落の外れで座禅を組み魔力を練る瞑想を始め、弦人は集落の周りの森に踏み込んでいった。




 弦人は森に入って1時間ほどしたころ、弦人は複数の足跡見つけた。

 4本足ではなく2本足で歩行しており、人間の裸足の形に近いが大きさが小さく爪が太く長い。

 弦人は直感した。


 ゴブリンだな......



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