第24話 団長、逃げないでくださいよ!!

 弦人の言葉にその場の全員が信じられないという顔をしていた。


 あの団長に......

 ギルド最強の四宮に......

 決闘を挑む......

 誰も考えもしない......

 まして、口に出すことなど......

 それをよりにもよって......

 新参の小僧が......


 いつも表情を変えない四宮も、心なしか表情が曇っていた。


「どういう意味かな?」


「文字通りの意味デス。もし俺が勝ったら、綾野を残留させてくださイ」


 弦人は四宮の目をじっと睨み、強い口調でそう言った。


「うーん、困ったな。新参のお前はここのルールをよくわかっていないようだな。決闘は互いが条件に納得しなければ成立しない。綾野の残留に釣り合う対価としてお前はいったい何を賭けれる?新参のお前には何もないだろう?」


 やはり、そうきたか......


 弦人はそうくるだろうと思ってはいたが、妥当な答えを用意できていなかった。


 俺もやめるって言ったところで、別に誰も得しないし......

 金もさして持っていないし......

 何かレアアイテムでもあれば......

 ん、レアアイテム......


 弦人はギルドに入る数日前のことを思い出した。


 ある......

 俺が持ってるわけじゃないが......

 舌先三寸でうまくだまくらかせれば......


「真島妖一.......」


 弦人はぽつりとその名を呟いた。

 その呟きに、心なしか四宮の眉がぴくりと動いた。


 反応あり......


 弦人は意を決し、一世一代の大芝居を始めた。


「アイツが隠し持っている“伝説の勇者の剣”。俺はその隠し場所をやつから聞いていマス」


 弦人の言葉に全員が驚愕した。


「霧島の報告ではお前と真島は共闘関係にはないということだったが?」


 四宮は弦人を睨んだ。

 単純に考えれば、四宮にこの場で要求を飲ませるためのはったりとしか思えない。

 だが、四宮にとっても、灰色の鷹にとっても、そう簡単に無視できるものではないのだ。

“伝説の勇者の剣”の情報は......


「この際だから白状しますヨ。あいつは俺の“相棒”デス。あいつの剣の情報はとっときの切り札として残しておきたかったんですけどネ」


 そう言って弦人は笑った。

 真島のあの口の両端を釣り上げた、にたーっとした笑顔を真似て......


「その話、信じろと?」


「信じる信じないはご自由二。ただ、決闘の申し込みが受理されないなら、俺は綾野と一緒にここから消えル。それだけデス」


 そう言って、弦人は四宮に背を向けた。


 別に興味がなければご自由に。と背中で四宮に語りかけた。


 四宮は思案した。

 四宮にとって、灰色の鷹にとって、この決闘は別に受けてもさしたるリスクはない。

 もしはったりだったら、制裁として腕や足の一本か二本折って思い知らせてやれば良いだけの話だ。

 それにそもそも......

 四宮は意を決した。


「いいだろう。その決闘受けてやろう。だが、まさか本気で勝てると思っているのか?」


 そう。

 そもそも、弦人に勝ち目などないのだ。

 この最強の男を相手にして......


 弦人は振り返って、大仰に手をふってみせた。


「ええ、認めたくありませんが、そのままやったら瞬殺でしょうネ。だから、2つハンデをつけてくださイ」


「なんだ?」


 もう四宮は弦人のゲームにとことんつきやってやることにした。

 ならば、少しでも楽しませてもらおうと......


「一ツ。10日間、準備の時間をくださイ。」


 四宮は逆に拍子抜けした。


 たった10日で何か変わると思っているのか、この小僧は.....


 そう思いつつも四宮はあっさりとうなずいた。


「ふむ、まあいいだろう。もう一つは?」


「団長は一人、こちらは俺と綾野の二人で戦いマス」


 その言葉に、恵は驚いて顔を上げた。


 そんなの無理だ......

 私なんかが団長を相手に......


 見返してやりたいとは言ったものの、弦人の提案は恵にとってあまりにも無謀なものだった。

 恵は涙目で震えた。


 そんな恵を弦人は無言で見つめた。


 その目は、一緒にぶっ飛ばしてやろうぜと言っていた。


 なんの根拠もない自信に満ちた目。


 なんでこの人はこんな目ができるんだろう......


 恵は相馬弦人という人間が不思議でならなかった。

 しかし、その目は恵の怯えた心を不思議と安心させてくれた。


 この人を信じてみよう......


 恵は意を決しこくりとうなずいた。


 恵の覚悟が決まったのを確認し、弦人は四宮に視線を戻した。


 そんな二人のやり取りを見ながら、四宮はうなずいて承諾した。


「2つ目も了解した。ただ......」


 四宮はいつもの表情のままだが、その目には怒りが宿っていた。


「お前らが2人がかりになったくらいで俺に勝てると思っているのは心外だがな」


 四宮に睨まれ、弦人と恵は背中が凍りついたようだった。

 だが、二人はその恐怖を必死にはねのけた。


 賽は投げられた。

 もう逃げることはできないのだ。


 弦人は恵に手を差し出した。

 恵は弦人の手をとり立ち上がった。


「それじゃ、俺と綾野はここで失礼しマス。10日後の正午に拠点に戻りますんデ。団長、逃げないでくださいヨ!!」


 弦人は恐怖心を押さえつけながら、必死に強がりの笑みを浮かべて四宮を煽った。


「ああ、わかった。10日後にな」


 四宮はいつも以上ににこやかな笑顔で手を振った。


「おい待て、弦人!!正気か!?」


「考え直せ!!殺されるぞ!!」


 静と竜児が二人を引き留めようとする。

 だが、弦人は恵の手を引き、恵みも付いて歩き出した。


「行くぞ、綾野!!」


「はい!!」


 こうして、二人は未知の荒野に一歩を踏み出したのだった。



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