第23話 団長、あなたに決闘を申し込みます。
「固有スキル......あんた、いつの間に......」
静は驚愕して、無意識にそんな声が漏れた。
「つい1週間前に」
日野は優越感に満ちた笑みを浮かべてそう言った。
固有スキルはレベル10以上で発現するとされているが、発現する時期や内容は個人差が激しい。
50人以上いる“灰色の鷹”の中でも固有スキルが発現しているのはわずか数人である。
ゆえに、固有スキルの内容にもよるが、固有スキル発現者は大きなアドバンテージを持つことになるのである。
日野は懐から小瓶を取り出し、蓋を開け高く掲げた。
そして、背後にいる人形がフラスコの中の液体を小瓶の中に注いでいく。
瓶の中が満ちたところで日野は瓶の蓋を閉めた。
「試してみるかい?」
日野はそう言って静に瓶を放り投げた。
静は瓶をキャッチし、瓶を横から覗き込んだ。
「大丈夫。毒じゃねーよ」
日野はそう言ったが、静は警戒を緩めず、蓋を開けて匂いを嗅ぐ。
「まさか......」
それは覚えのある香りがした。
静は恐る恐る中の液体を一口舐めた。
「ポーションだ.......」
静の言葉に四宮と塩津以外の全員が驚愕した。
「まさか、ポーションを作り出せるスキルだっていうのか!?」
全員の驚きを代弁するように竜児がそう言った。
「その通り。このスキルは全くの無からポーションを作り出せる。多少私の体力は持っていかれるが、1日100個くらい難なく作り出せる」
日野の言葉に一同の驚きはさらに高まった。
ポーションは遠征隊に1人1個持たせるのが精一杯の高価な代物であった。
それがほぼコストゼロで1日100個も作り出せるとなると、ギルドの戦闘がガラリと変わる。
そして、それはヒーラーがもう必要ないことを意味した。
日野は恵に歩みより、笑顔で恵を見下ろした。
「綾野ありがとう。このスキルを手に入れられたのはあんたのおかげよ。あんたが一向に上位の回復魔法を覚えないもんだから、私は、ムカついてムカついてムカついてムカついてムカついてムカついて、毎日毎日毎日毎日毎日毎日、そのことばかり考えてた。そしたら、1週間前に突然このスキルが私に宿ったのよ」
固有スキルの内容はランダムだが、一説にはその人物の来歴や性格、願望が大きく影響すると言われている。
そして、恵の回復魔法が上達しないことを忌々しいと激しく意識していた日野に、回復魔法に代わるスキルが宿ったのだ。
そして、それは皮肉なことに恵の存在価値を奪うことにもなった。
「綾野、今まで本当にありがとう。でも、もうあんたは要らないの。さようなら」
日野は満面の笑みで恵にそう言った。
恵は地面にひざまづいたまま、日野を見上げていた。
そして、絶望に満ちた恵の目から涙が落ちた。
その姿を見て、弦人は我慢できなくなり叫んだ。
「じゃあ、なんで......なんでフェンリルのとどめを綾野にやらせたんダ!?」
四宮は心外だなという表情をする。
「最後のチャンスだよ。もう綾野は用済みだったが、今日のレベルアップでもし上位回復魔法を習得できたら、まだ使ってもいいと思っていた。が、期待外れだったな」
弦人は怒りに震えた。
なんだよ、それ!?
綾野は虫も殺せないような優しいやつなんだぞ!!
フェンリルを殺す瞬間、綾野は泣いてたんだぞ!!
それなのに、嫌がる綾野にあんなことをさせて!!
しかもそれで、用済みだと!!
弦人は恵の方を見た。
顔を下に向け、肩を震わせて泣いていた。
弦人は拳を握りこんだ。
そして、恵のそばに駆け寄り腰を落として恵に小声で語り掛けた。
「綾野、もう一度だけ聞ク。お前には選択肢が二つアル。前進か撤退ダ。こんなくそったれなギルド、もうやめちまって全然構わナイ。だが、このまま引き下がったらこいつらの思うツボダ。このままここで終わっていいか、お前の気持ちを聞かせてクレ?」
弦人は今すぐにでも日野と四宮に殴りかかりたかった。
だが、それでは意味がない。
返り討ちにされるかどうかは別にして、弦人がここで勝手に暴れたしても、恵の心は救われないのだから。
「....................いやです」
恵はしばらくの沈黙の後、声を絞り出した。
「わたし......自分なりにずっと頑張ってきました......このギルドの人たちに認めてもらいたくて......でも、この人たちは私を認めてくれませんでした......だから、今は......この人たちを見返したい......」
弦人は無言でうなずいた。
そして、立ち上がって四宮に向き直った。
「団長、あなたに決闘を申し込みます」
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