第22話 除名って、マジかよ!?

 アヤノ・メグミ

 レベルアップ

 レベル:5

 ・

 ・

 ・

 アヤノ・メグミ

 レベルアップ

 レベル:6

 ・

 ・

 ・

 アヤノ・メグミ

 レベルアップ

 レベル:7

 ・

 ・

 ・


 フェンリルが消えたあと、立て続けに恵のレベルアップが通知された。

 恵は複雑な表情でその画面を見ていた。


「レベル3の上昇か。まあ、だいたい予想通りだな」


 四宮は満足とも不満ともつかない表情でそう言った。


 恵のレベルアップ通知とほぼ同時に窪地の後方に入口と同じ魔法陣が出現していた。


「全隊撤収」


 四宮の号令で、魔法陣の近くにいた者から順に魔法陣に飛び込んでいく。

 飛び込んだ者の体は光の粒子の変わり、大地に吸い込まれていく。


「綾野、大丈夫か?」


 弦人が恵に駆け寄り、恵の顔を覗き込む。

 恵は無言でこくりと頷いた。


「とにかく、むこうに戻ろう。綾野、予備の服は持ってきてるな?」


 静が遅れて駆け寄ってきた。

 恵の法衣はフェンリルの血で大部分が汚れていた。

 このままでは恵の精神衛生上よくない。

 恵は静の問いにも無言でこくりと頷いた。


「よし、行こう」


 弦人と静は、恵を連れて魔法陣のほうに歩いていった。

 魔法陣のそばで竜児が待っていた。

 もうほとんどの者が魔法陣に飛び込んで、弦人たちが最後だった。

 4人は順次魔法陣に入っていった。




 幾ばくかの時間が経ったあと、遠のいていた意識が戻ってきた。

 弦人は元の平原に立っていた。

 そばには恵、静、竜児が立っていた。


 そして、弦人たちが戻ってくるのを待っていたかのように、前方には四宮、塩津、日野が立っていた。


「では、はじめようか。綾野」


 四宮がいつもの感情の込もっていない声でそう言った。


「団長!!綾野は疲れています!!少し休ませてやってください!!」


 静が団長と恵の間に割って入る。


「黙れ。霧島」


 四宮は表情も声の調子も全く変えていない。

 いつもながら、それが余計に周囲に恐怖を与えた。


「我々は今日、このためにここに来ているのだ」


 四宮は右手を塩津の方に差し出す。

 塩津は持っていた本を四宮に渡した。

 それは魔法図鑑であった。


「やれ、綾野」


 四宮は静を横におしのけ、魔法図鑑を恵に突きつけた。


「わかりました......」


 恵はおずおずと魔法図鑑を受け取り、その場に両膝をついて、図鑑を地面の上で広げる。

 そして、後半のあるページを開いた。

 目的は回復魔法のページである。

 魔法図鑑は系統で章に分けられており、同系統の魔法は下のレベルから順にまとまって記載されている。

 恵はもう何度も回復魔法の章の1ページ目を開いていた。

 そして、見開きの対となる2ページ目に、2つ目の回復魔法が表示されていることを何度期待したことか。

 そして、今日......


 恵はそのページに目を落としたまま沈黙していた。


「どうだ?2つ目の回復魔法は現れたか?」


 四宮がいつもの静な声のままそう問うた。


 恵は震えながらそれに答えた。


「ありません......新しい回復魔法は表示されていません......」


 表示されていないとは、新しい回復魔法を習得できないということを意味する。


 周囲でことの成り行きを見守っていた団員たちは肩をおとした。

 ある者はやれやれと首をふり、ある者は無駄足だったなと揶揄する。


 弦人や静たちは激しく落胆した。

 恵があんなつらい思いをしてレベルを上げたのに......

 3つもレベルが上がったのに......

 次の回復魔法が習得できないなんて......


「そうか.......」


 四宮はその結果にあたかも興味がないかのような表情だった。

 そして、その隣の日野はどういうわけかニヤニヤしていた。


「では、綾野恵。現時刻をもってお前を“灰色の鷹”より除名する」


 四宮は、日帰りの出張でも命じるかのような軽い調子で静かにそう言った。


「え......」


 恵は自分が何を言われたのか理解できなかった。


「私物などの片付けもあるだろうから、拠点に戻るまでの同行は許可する。以上だ」


 四宮はそう言って踵を返した。


「待ってください!!」


 呆然とする恵にかわって静が叫んだ。


「どういうことですか!?除名って、本気で言ってるんですか!?」


「ああ、そうだが」


 四宮は顔だけ斜めに振り向き答えた。


「綾野はウチの唯一のヒーラーです!!綾野がいなくなったら、団員の回復はどうするんですか!?今日のダンジョン攻略だって、もし綾野がいなかったら死人がでていたかもしれないでしょう!?」


「いや、実はもう必要ないんだよ」


 四宮はそう言って、日野のほうに視線を向ける。


「日野、見せてやれ」


「よろしいのですか?」


「かまわん、どうせ今回の遠征から帰ったら、全員に情報共有するつもりだったからな」


「では......」


 日野は数歩下がって周りと距離をとり、右手を前に突き出す。

 その手の前に紫色に光る魔法陣が現れる。

 そして、日野の背後に白い法衣を着た巨大な人形が現れる。


「まさか......」


 四宮と塩津を除くその場の全員が目の前で起こっていることに驚愕していた。


『固有スキルを発動します』


 その声とともに、人形の両手にガラス製のフラスコらしき物が現れる。


『固有スキル“パラケルススの研究室”が発動しました』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る