第20話 全然効いてねーなー......
十数分後、突入隊の全部隊は道の終端に集結した。
森は開け、直径100メートル程の巨大な円形の窪地になっている。
おそらく、ここがボスモンスターの出現エリアなのだろうが、まだそれらしき姿は見えない。
窪地は崖に近いほどの急な傾斜で、一箇所スロープのようになっていて底に下りれるようになっていた。
突入隊はスロープを下って、底におりた。
全部隊が底におりたあと、四宮が指示を出した。
「前衛の編成はそのまま、3番隊は後衛に加われ。中央に対峙して、横に展開しろ」
四宮の指示で部隊が動く。
さきほどの一件のあと、静がそのまま恵についており、2人は3番隊の最後尾にいた。
そこに弦人と竜児、1番隊が合流する。
「よろしく。新入り君」
日野が弦人にそう言った。
「こちらこそ、よろしくお願いしマス」
日野の言葉に弦人が応える。
両者とも声に感情がこもっておらず、その目は敵意に満ちていた。
「綾野、大丈夫カ?」
弦人は日野の横をすり抜け、恵に歩み寄る。
「ええ。満タンてわけじゃないですけど、MPはかなり回復したので大丈夫です」
恵は足元がおぼつかないながらも自力で歩いていた。
部隊の展開が終わったころ、紫色の光の壁が窪地を取り囲んだ。
「なんダ!?」
弦人は驚いて、光の壁を見回す。
「結界みたいなもんだ。このあとは、ボスモンスターを倒すまではここに入ることも、ここから出ることもできない」
竜児が弦人に解説する。
「この壁が展開されたら、そろそろ出てくるぞ」
竜児がそう言った矢先、空を覆っていた黒い雲がごろごろと蠢きだした。
そして、一筋の巨大な雷が窪地の中心に落ちた。
雷の光の中から、一匹の巨大な黒い狼が姿を現す。
大きさは普通の狼の10倍は優に超えていた。
両目は青く輝き、顔つきは獣でありながらどこか知性を感じる。
毛並みは一本一本がまるで金属の針のように逆だっていた。
あれが、フェンリル......
弦人はその神々しい姿を見て、恐怖よりむしろ感動を覚えた。
フェンリルの出現を確認し、四宮が全体に指示を発した。
「初手はスキルアクションと魔法で遠距離攻撃。全隊攻撃開始」
全員、四宮の指示に従い攻撃を開始する。
数十に及ぶスキルアクションの光がフェンリルに襲い掛かる。
遅れて、炎や氷など魔法攻撃が追い打ちをかける。
フェンリルはそれらの攻撃を受け、天に向かって咆哮する。
「後衛はそのまま遠距離攻撃を継続。前衛は以後近接物理攻撃。後衛は前衛に攻撃を当てないよう留意しろ」
四宮の次の指示が飛び、前衛隊が飛び出した。
それに呼応するかのようにフェンリルが口から青白い光を吐く。
「対象より遠距離攻撃!!回避!!」
前衛の一人が全体に向けて警告を発する。
全員が左右に散り散りに散開する。
光の咆哮は部隊の中央を駆け抜け、部隊背後の岩壁に衝突する。
光の道筋は弦人の真横を通っていた。
弦人は後ろを振り返った。
土煙が舞い、岩壁に大きなクレータが出現していた。
幸い誰も攻撃に巻き込まれていないが、おそらく団員たち個々の遠距離攻撃の10倍の威力はあるだろう。
こ、こえー......
弦人は足が竦んだ。
「弦人、ヤツの遠距離攻撃はあれ1種類だ!!事前にそれらしいモーションがあるから、ヤツの動きをよく見れば避けるのは難しくない!!」
横から竜児がそうアドバイスする。
「わかっタ!!」
弦人は気を取り直し、柄に手を添え、スキルアクションの溜めに入る。
「後衛として遠距離攻撃を放つときは、味方の前衛に当てないことを考えておかなければならない。一つの方法としては、人間の身長より高い部位を狙うことだ。アイツなら、頭や背中を狙えばいい」
今度は静がアドバイスする。
「わかっタ!!」
溜めが終わり、弦人は少し上向きを意識して居合抜きを放つ。
青い光が前衛の頭上を通り過ぎ、フェンリルの頭部に命中する。
「ヨシ!!」
思惑通りの軌道で命中し、弦人は左手で小さくガッツポーズをする。
が、フェンリルは小石でもあたったかのように少し軽く首を振っただけだった。
「全然効いてねーナー......」
「相手は高難度ダンジョンのボスモンスターだ。数をあてるしかないさ」
静がぽんぽんと弦人の肩を叩く。
その間、前衛隊は打撃でフェンリルの足を攻撃していた。
この攻撃もフェンリルにあまり効いている気配はなく、フェンリルはうっとおしげに前足を払う。
「うわあああぁぁぁっっっ!!」
前足をもろに食らった団員が宙を舞って後方に飛ばされる。
落下地点の一番近くにいた後衛の団員が駆け寄る。
「致命傷だ!!」
駆け寄った団員は懐からポーションを取り出し、負傷した団員に飲ませた。
「前衛、気をつけろ!!通常の打撃だけで、かなり削られるぞ!!」
救護にあたった団員が前衛に向けて注意喚起するがすでに、他に何人か跳ね飛ばされており、同じように別の隊員が救護にあたっていた。
「おいおい、めちゃめちゃやられてんじゃねーカ.......」
「このフェンリルは、モーションがデカくて避けやすい光の咆哮よりも、通常打撃の方が確実に削ってくるからヤバいんだよ。私と竜児は前回前衛だったけど、早々に攻撃を食らって戦闘不能になった」
前衛がばたばたとやられていく様を見て弦人は呆然とし、その横で静が前回の有様を語った。
「やはり、平団員ではフェンリルに近接戦闘は無謀か......」
前衛の様子を見ながら、四宮はそう呟いたあと、新たな指示を発した。
「全員。後衛に回れ」
そして、懐から一本の短剣を抜いた。
「前衛は、俺一人でいい」
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