第19話 あんたら、医療機器か何かと勘違いしてないか?

 前方の3体の大蜘蛛は、後方よりも早く殲滅されており、突入隊は程なく行軍を再開した。


 その後も断続的にモンスターが出現したが、団員たちは幾らかの時間は要しつつも、確実に撃破していった。

 ほとんど前方からの出現で、後方ではまばらにしか現れず、弦人はほとんど活躍の場はなかった。


 行軍は順調であったが、次第に前衛隊から負傷者が出始め、断続的に恵のところに運ばれてきた。

 恵はその都度回復魔法で治療にあたっていたが、5人目を越えたあたりから顕著に疲労が表情に現れ始めていた。

 そして、10人目の治療が終わったときのことである。


「はい、これで大丈夫だと思います......」


 恵はそう言って、負傷者のそばから立ち上がった。

 が、立ち上がった直後に恵はふらつき、そのままどさりと地面に倒れてしまった。


「あら、今日は10人しか保たなかったの?」


 そう言って、日野が倒れた恵の元に歩み寄ってきた。


「ご......ごめんなさい......」


 恵は必死に声を絞り出して、日野に謝った。


「まだあと2人残ってるんだけど、どうしようかしら?」


 日野は恵の横で立ったまま、冷たく言い放った。


「ごめんなさい......」


 恵は、もう今にも泣き出しそうな声になっていた。


「ちょっとあんたたち!!何やってんの!?」


 後方から状況を察した静たちが飛んできた。


「綾野!!大丈夫!?」


 静が恵を抱き抱える。

 弦人も横に屈んで、恵の様子を観察する。


 顔が青白い......

 なんでこんなになるまで......


「あんたたち、なに持ち場離れてんのよ?あんたたちは後衛!!綾野の管理は私たち3番隊の管轄よ!!」


 日野の言葉に弦人の中で何かがキレた。


 管理!?

 管轄!?


 弦人は立ち上がって、日野を睨んだ。


「あんたら、綾野を医療機器かなんかと勘違いしてないカ?綾野は大事な仲間ダロ?」


 弦人は必死に怒気を押さえながらそう言った。


「新入り。口の聞き方を知らないようね?2番隊のしつけがなってないようだったら、私が代わりに教えてあげようか?」


 日野はそう言って携えていた槍の切っ先を弦人の顔面に向ける。


 弦人も右手を剣の柄に伸ばす。


「やめろ」


 弦人と日野の真横から、凄まじいプレッシャーとともにそんな声がとんできた。


 弦人はそちらを振り向く前に察知した。

 声の主は四宮であった。


「日野。綾野にエーテルを飲ませろ」


 四宮は日野にそう指示した。

 エーテルはMPの回復アイテムである。


 弦人はその指示を聞いて察した。


 まだ綾野に回復魔法を使わせる気なのか!?


「団長!!綾野はもう限界デス!!」


 四宮から放たれる圧に抗し、弦人は四宮に食ってかかった。


「ただのMP切れだ。MPが回復すれば、元に戻る」


「だから、綾野をモノみたいに言うナ!!」


 弦人は食い下がるが、四宮は相手にしていない。


「日野、回復はもうそれくらいしておけ。今日の目的を果たせなければ、元も子もないからな」


 四宮の言葉に、弦人がさらに何か言いかけた矢先 ......


「伝令!!」


 前衛の伝令がその場に飛び込んできた。


「先頭の部隊がボスエリアの入口に到達しました!!」


 伝令の言葉に一同に緊張が走る。


「わかった。俺も今から行く。日野。綾野のMP回復を急げ」


 四宮はそう言い残して、伝令とともに先頭に向かった。


「ほら、ボス戦だよ!!お前らもさっさと持ち場に戻りな!!」


 日野が弦人たちに吐き捨てるようにそう言う。


「エーテルをよこせ、日野。綾野の介抱は私がやる」


 静が恵を抱えたままそう言った。


「持ち場に戻れって言ってるだろ?」


「お前らの手間を肩代わりしてやるって言ってるんだ。いいからエーテルをよこせ」


 そうして、静と日野はしばらく睨みあった。


「わかったよ。好きにしな」


 日野はそう言ってエーテルが入った小瓶を放り投げ、静は右手でそれをキャッチした。

 静はすぐに封を開け、綾野に飲ませた。

 数秒後、徐々に綾野の顔に生気が戻ってきた。


「弦人、お前は後衛に戻ってボス戦に備えろ」


「でも.......」


「大丈夫、綾野には私がついてる」


 弦人はまだ恵のことが心配だったが、静がついていてくれるならと、後衛の部隊に戻った。



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