第7話 お前そんな悪役レスラーみたいなツラと体格で、よく中間管理職が務まってたな!?

「お前は、“レベル0”!!」


「お前はっ......えーと......ごめん、名前知らなかっタ......」


 弦人の言葉に男は盛大にずっこけた。


山田武史やまだ たけしだ!!」


 山田は全力で自己紹介した。


「あ、うん、山田武史ネ。ごほん......お前は、山田武史!?」


「やり直さんでいいわ!!」


 わざとらしくセリフを言い直す弦人に山田は全力で突っ込んだ。


「んなことより、“レベル0”!!お前、なんでここにいるんだ!?」


「お前の方こそ、なんでここにいるんだヨ!?」


「俺は誇り高き“灰色の鷹”3番隊の隊員だ!!」


「え、そうなノ?」


 弦人は振り返って、静、竜児、恵の方を見る。

 三人は首を揃えてうんうんと頷いていた。


「うわー、マジかー、最悪ー。俺、入るのやめようかナ......」


 弦人は露骨に嫌そうな顔した。


「なんだと、コラ!?って、ちょっと待て!?入るって、お前、“灰色の鷹”に入るのか!?俺は認めねーぞ!!」


「何でお前に認められなきゃなんねーんだヨ?お前、なにカ?人事課長様ですカ?」


「あー、そーだよ!!元の世界で、ちっちゃい会社だけど、人事課長やってたんだよ!!」


「あたってんのかヨ!?お前そんな悪役レスラーみたいなツラと体格で、よく中間管理職が務まってたナ!?」


「なんだとこのガキ!?今日こそ泣かす!!」


 弦人と山田は、しばらくずっとわーきゃーわーきゃーと言い争っていた。


「はーい、ストップ!!そのへんで終わり!!」


 これはほっといたら終わらないなと判断した静が二人の間に割って入った。


「相馬が入るかどうかは団長次第だよ。お前ら二人が言い争っても不毛この上ないっての」


「じゃあ、早く団長のところに行きましょウ!!」

「じゃあ、早く団長のところに行きましょう!!」


 弦人と山田の声が見事にハモった。


 他の三人は思った。


 この二人、もしかして気が合うんじゃ......




 山田によると団長は城塞裏庭で各隊の修練を監督しているとのことで、一同は裏庭に向かった。


「綾野!!遅いわよ!!早く来なさい!!」


 裏庭に出た途端、恵の姿を見たある団員が苛立ちながらそう言い放った。

 その団員は、20代前半の細身の女で、黒い革製の軽装鎧を着込み、槍を携えていた。

 赤みがかった長い髪を派手にカールさせており、顔は美人なのだが、目つきがキツく、近寄り難い雰囲気を放っている。

 “灰色の鷹”3番隊隊長、日野陽子である。


「ごめんなさい!!日野さん!!」


 恵はビクリと体を震わせ、慌てて日野の方に走っていった。


「あんたの回復魔法ただでさえ遅いんだから、せめて呼んだらすぐ来なさいよ!!」


「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」


 日野の怒鳴り声に恵はビクビク震えながら、そばにいた怪我をしている団員に回復魔法をかけ始めた。


 弦人と山田のケンカのせいで一同はすっかり忘れていたが、山田は元々怪我人の治療のために恵を呼びに来ていたのだった。


「日野!!あんた、いくらなんでも酷すぎるよ!!」


 そのやり取りを見かねた静が日野に食ってかかる。


「あら、霧島、帰ってきてたの?」


 日野は静の顔を見た途端、さらに不機嫌になった。


「なによ?綾野は3番隊の隊員よ。2番隊のあんたに口を出される筋合いはないわ」


「隊が違っても同じギルドだろ!!見過ごせない!!」


「ふふ、2番隊隊長さんは仲間思いでお優しいこと。本音は綾野の気を引いて綾野を取り込むつもりなんでしょうけど、そうはいかないわ。団長と所属している隊の隊長の承諾がなければ、団員の移籍は認められない。そんなにヒーラーがほしいなら、自分で見つけて連れてきな!!」


「違う!!お前は何もわかってない!!」


 静と日野の言い争いはしばらく続いた。

 その空気の険悪さは、先程の弦人と山田の比ではなかった。


 そんな女の争いを見ながら弦人は思った。


 うっわー、空気悪るー......

 マジで入るの考え直そうかなー......


 弦人がそう思った矢先、背後から凄まじいプレッシャーを感じた。


 なっ!?


 まるで冷たい空気の塊を背中にぶつけられたような感覚で、弦人は足がすくんだ。

 周りを見回すと、弦人だけでなはく他の者も同じ感覚を感じているようで、皆表情が凍り、動きを止めている。


「騒がしいぞ。お前たち」


 プレッシャーがくるのと同じ方向からそんな声が聞こえてきた。

 弦人は金縛りにあったように身動きが取れなかったが、必死に体を動かし、背後に目を向けた。


 そこには、一人の男が立っていた。

 男は中肉中背で、特に体格が良いわけではなく、弦人より少し背が高いくらいだった。

 にも関わらず、まるでそこに巨人がいるかのような存在感だった。

 歳は少しわかりにくいが30前後くらいであろう。

 服装は端々に装飾を施した黒いコートのような法衣を着ており、闇のように黒い髪を肩まで伸ばしていた。

 男はにこやかに微笑んでいるが、その目の奥は笑っていなかった。


 弦人はその男が自分と同じ人間とは思えなかった。


 その男の姿を見た団員たちが、皆、口々にその男の呼び名を呼んだ。


『団長......』

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