第8話 あんな魔王みたいなオーラの人とやり合うとか、敗北確定イベントじゃねーか!?

「霧島、日野、また綾野のことで揉めているのか?」


 団長と呼ばれた男は、笑顔を崩さず、静と日野に問いかけた。


「聞いて下さいよ、団長ー。霧島のヤツ、また謂れのないことで私に絡んでくるんですー」


 日野は先程までとうってかわって、体をクネクネさせ、猫なで声でそう言った。


「違います、団長。3番隊の綾野の扱いは目に余ります」


 静も負けじと強い口調で訴える。


「霧島、この話は前もしたが、綾野をどう扱うかは、所属している3番隊の問題だ。どうしても申し立てたいことがあるならば、“隊規”に則って。と、私言ったはずだ」


 団長はそう言って、静を睨んだ。


 静は蛇に睨まれた蛙のようにすくみ上がった。


「この話はこれまでだ。それより、そちらの少年は入隊希望者かな?」


 団長はそう言って、弦人のほうに視線を移した。


 弦人は団長と目が合い、ビクリと体を震わせた。


 なんなんだよ、この人!?

 本当に俺らと同じ世界からきた人間か!?

 完全に空気が魔王だろ!?


 弦人は体がすくみながらも、精一杯力を振り絞って声を発した。


「はじめましテ!!俺は、相馬弦人と言いまス!!」


「相馬弦人?あー、もしかして、噂の“レベル0”か。これは面白い。俺は四宮景吾。このギルドの団長を務めている」


 四宮はそう言って微笑み、弦人は顔を引つらせながら笑い返した。


 この人の笑顔、なんかわからんけどマジこえー!!

 いっそ、無表情に冷酷そうな顔してる方がよっぽど安心できるわ!!


「団長!!ちょっとよろしいですか!?」


 そこで、山田武史が割って入ってきた。


「ご存知の通り、この男は“レベル0”です。戦力にはなりません!!」


 弦人はムッとして反論する。


「もう0じゃないっつーノ!!」


「ふん!!そこから上がっても、せいぜい2か3だろ!!戦力外にかわりはねー!!」


 弦人と山田はまたいがみ合いを始めた。


「ふむ......では、入団試験といこう」


 四宮は裏庭の中央に歩を進めた。


 そこには10メートル四方の石造りの演武台があり、二人の団員が模擬戦をやっていた。


「すまないが、場所を空けてくれ。入団希望者の試験を行う」


 弦人はドキリとした。


 も、もしかして、この人と模擬戦すんの!?

 マジやなんですけどー!!


 弦人は恐怖で心の中で絶叫した。


「山田、お前が相手をしてやれ」


 思いがけない白羽の矢に山田は面食らった。


「お、俺でいいんですか?」


「そこまで言うんだからお前がいいだろう。お前の力でねじ伏せてみせろ」


 四宮は演武台のそばに置いてあった木箱から木剣を取り出し、山田に放り投げた。


 木剣は放物線を描いて宙を舞い、山田はそれを両手でキャッチした。


「わかりました!!」


 弦人はその横で平静を装いながら、心の中で全力で安堵していた。


 セーーーフ!!

 危なかったー!!

 あんな魔王みたいなオーラの人とやり合うとか、敗北確定イベントじゃねーか!?

 マジで助かったー!!


 四宮は弦人の方にも木剣を投げた。

 弦人も木剣をキャッチする。


「期待しているぞ。ルーキー」


 四宮はそう言って弦人に微笑んだ。


 弦人と山田は演武台に上がり、距離をとって剣を構えた。


「あまり時間をかけるのも勿体ない。シンプルに体に一撃当てた方が勝ちとしよう」


 二人はルールを承諾し、無言で頷いた。


 四宮は演武台の端に立ち、右手を上げた。


「では、用意......」


 四宮は、一拍置いたあと開始の合図を放った。


「はじめ!!」


 開始の合図の後、両者は一歩も動かなかった。


 あれ?


 弦人は拍子抜けした。

 山田はキャラ的に開始直後に速攻をしかけてくるだろうと踏んで構えていたのだ。


 が、山田は動かなかった。

 じっと剣を構えたまま、弦人が動くのを待っていた。


 コイツ、見た目の割に慎重なんだな......

 こりゃ、意外と厄介だな......

 なら......


 弦人は動いた。

 昔とった杵柄で、剣道の摺り足でゆっくりと間合いを詰める。


 体に一撃を当てたら勝ち......

 なら、攻め方は決まってる......


 弦人は技の射程に入った瞬間、一気に踏み込んだ。

 剣先を中段から僅かに上げ、山田の右手を狙って振り下ろす。

 剣道の小手打ちである。


 弦人の剣筋は早かった。

 しかし、山田は的確に弦人の剣を捉え剣先を弾いた。

 弦人は弾かれたものの、体勢は崩さず、すぐに剣を構え直す。

 一方の山田は弾いた勢いそのまま、歩を詰め反撃に転じる。

 互いの剣が交わり鍔迫り合いになる。


 弦人は170cm弱に対して、山田は190cm近くあり、体格差は著しかったが、二人の鍔迫り合いは拮抗していた。


 互いに同時に剣を前に押し、互いに一歩下がり、そこから乱打戦になった。

 両者とも一歩も引かず、決め手が出ない。

 十数撃打ち合ったあと、両者は距離を取り、互いの間合いの外に出た。


 両者とも肩で息をしている。


 そして、二人とも同じことを考えていた。


 コイツ互角だ!!


 パワー、スピードともに全くの互角だった。


 山田は思った。

 コイツ、まさか、4ヶ月で俺と同じレベル9まで上げてきたのか!?


 弦人は思った。

 コイツ、たぶん、4ヶ月前のレベル9のままだ。


 同じ互角でも、その心理的余裕の差は大きかった。


 一方は4ヶ月の間に劇的な進歩を遂げた。

 一方は4ヶ月間全く進歩していない。


 山田からしてみれば、圧倒的優位に立っていると思っていたのに、相手は自分と同じところまで追いついていた。


 山田は激しい焦りを感じており、それは表情に滲み出てしまっていた。

 そして、弦人は山田の焦りを見逃さなかった。


 揺さぶってみるか......


 弦人はわざと山田を馬鹿にしたような笑顔をしてみせた。


「だから言っただロ?お前らはベリーイージーモードだっテ。そんなぬるま湯に浸かってるから、4ヶ月も経ってるのにレベルが1つも上がってねーんだヨ」


 弦人の言葉に山田の焦りはそのまま怒りに変わった。

 そして、感情に任せ一気に踏み込んできた。


 かかった!!


 山田は大上段から正面ど真ん中に剣を振り下ろしてきた。

 その太刀筋は読みやすく、弦人は半歩体を右にずらしてよけ、がら空きになった山田の頭を剣先で軽く小突いた。


 次の瞬間、四宮は右手を上げた。

 そして、判定の宣言がその場いっぱいに響いた。


「一本!!勝者、相馬弦人!!」



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