第5話 あああぁぁぁっっっ!!マジかぁぁぁっっっ!!状況さらに悪くなってんじゃねーかぁぁぁっっっ!!

 弦人は背筋が冷たくなり、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「真相はヤツしか知らない。召喚者たちは皆ヤツの尻尾を掴むのに必死だ。それが、今回私たちがお前に会いにきた理由の一つでもあるし、あの家が荒らされたことと関係があるかもしれない」


「え、それっテ.....」


 弦人はまたイヤな予感がしはじめた。


「今年の神託に真島が現れ、第6期のルーキーたちにゲームを仕掛けた。だがその後、そのゲームの参加者の数名が行方不明になっている。それで、今回賭けの対象となった“レベル0”と真島はグルなんじゃないかという話が出回っている。今、お前は6期のルーキーたちだけじゃなく、この世界の召喚者全員にマークされている」


「あああぁぁぁッッッ!!マジかぁぁぁッッッ!!状況さらに悪くなってんじゃねーかぁぁぁッッッ!!」


 弦人は頭を抱え、力の限り絶叫した。

 レベルが上がって、同じ6期の者たちが相手なら、難なくあしらえるようになっていた。

 なのに今度は格上の召喚者たちにつけ狙われるとなると、振り出しを通り越して、さらに絶望的な状況である。


「その反応を見る限り、お前が真島とつるんでるってのは、デマということでいいのか?」


 霧島はそう言って弦人に近付き真正面から弦人の目を見た。


「確かにアイツは俺のことを相棒とか言ってやたら絡んでくるし、アイツから支援やアドバイスを受けたこともあっタ。だが、今の“伝説の勇者の剣”のことは初耳だし、アイツ自身について俺はほとんど何も知らなイ。たぶんアイツは俺を利用しようとしてるだけだし、俺もアイツを信用してなイ。そういう関係だから、グルだとかつるんでるって言われるのは心外ダ」


 弦人は一切隠し事はないという態度で、霧島の目を見返した。


「それを聞いて安心した。今の確認がお前に会いにきた用件の一つだ。さて、もう一つの用件こそ、本題だ」


 霧島は思わせぶりに少し間を置いてから、こう言った。


「相馬弦人、私たちのところに来ないか?」


「へ?」


 あまりにも唐突な話に弦人の口から思わず間の抜けた声が漏れた。


「私たちは冒険者ギルド“灰色の鷹”の2番隊だ。と言っても、私たちの隊は、隊長の私と副長の本多だけだがな」


「なんで俺ヲ?」


「一つは、今言った通りうちの隊は人がいない。もう一つは、お前の噂を聞いておもしろそうだと思った。お前、“レベル0”のくせに、6期のヤツらにこの中で一番にになるって吠えたんだろ?非常に私たち好みだ」


 霧島はそう言って満面の笑みを弦人に向けた。


「うーン......」


 弦人はこの話を易々と受けていいものか分からず、腕を組んで唸った。


「悪い話じゃないはずだ。お前はこれから真島のとばっちりで召喚者全員から追い回されることになる。私たちのギルドに所属すれば、他の召喚者も気軽には手を出せなくなる」


「なるほド......」


 確かに悪い話ではなかった。

“灰色の鷹”なるギルドがどういった組織かまだ不透明だが、一人で動き回るよりは身の安全が幾分か担保されるはずだ。


 そこでずっと黙っていた本多が口を開いた。


「相馬、お前、さっきの動きだと、レベルだいたい9くらいだろ」


 本多の言葉に弦人はドキリとした。

 まだこの世界の戦闘のレベル感覚を掴めていないからなんとも言えないが、こうまでピンポイントで言い当てられるものなのか。

 もしかするとこの本多という男は類稀なる戦闘センスを持っているのかもしれないと弦人は思った。


「4ヶ月でレベル0から9まで上げたのは大したもんだ。だが、お前もすでに感じていると思うが、レベルが上にいけばいくほど、レベルは上がりにくくなる。この世界は何がどうなってるのかわからないが、MMORPGによく似てやがる。ソロよりもパーティーの方がレベルは上がりやすい」


 その点についてはすでに弦人も全く同じことを考えていた。

 実際にパーティーで戦ったときに経験値の分配がどうなるのかはまだわからないが、チームで連携を取りながら戦った方がより強力なモンスターを倒せるはずだ。


 悩んでいる弦人に、今度は再び霧島が魅力的な言葉を畳み掛ける。


「それに、お前、まだ魔法使えないだろ?うちの隊に入ったら、私が1から攻撃魔法を教えてやる」


 霧島の放った魔法という言葉に、弦人は悩み苦しんだ。

 魔法は覚えたい。

 攻撃魔法を放ちたい。

 特にドカーンと派手に爆発する魔法をぶっ放したい。


 でもなー......

 魔法はフレアに教えてもらうつもりだったんだけどなー......

 でも、1ヶ月戻ってこれないみたいだし......


 霧島はもう一息で弦人が陥落できると察し、最後の追い込みをかけた。


「相馬、お前、この世界で何かやりたいこととか、目的はあるか?」


 突拍子もない質問に弦人は戸惑った。


「ええ、まあ、ありますけド......」


 弦人はおずおずと答えた。


 弦人の場合、この世界でやりたいことというよりも、元の世界でやらなければならないことがあるのだ。

 そのためには、この世界の魔王を倒し、元の世界に帰らなければならい。


 が、あまりに壮大な話なので、今日初対面の霧島と本多にこの場で話すことが躊躇われた。


 弦人の躊躇っている様子を霧島は汲み取った。


「それが何かは今は聞かない。お前が話したくなったときに話してくれ。だが、そのとき私たちはお前の目的を全力で助けてやる!!私たちにできる限りでだがな」


 霧島は弦人に優しく微笑んだ。


 その言葉と笑顔で、弦人は心の中で何かがはまったような気がした。


 初対面で、どういう素性かもよくわからない......

 真島のように自分を利用しようとしているだけかもしれない......

 でも、この人たちを信じてみたい!!


「わかりましタ!!俺を仲間に入れてくださイ!!」


 弦人はそう言って、深く頭を下げた。


「よし!!」


 霧島は心から喜んだ様子でガッツポーズをした。


 本多は無言だが、心なしか口元が少し緩んでいるように見えた。


 霧島静......

 本多竜児......


 弦人は二人の名前を反芻した。

 そして、昔大好きだったゲームに出てくるフレーズを思い出し、今の状況を重ね合わせた。


“シズカとリュウジが仲間になった”



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