第33話 孫子の兵法さ

 弦人はスチュアート家を出て、スライムの森に向かった。

 物見遊山で真島もついてきた。


「えらく大荷物だな?」


 弦人の後を歩きながら、真島はそう言った。

 弦人は登山に行けそうな大きめのリュックサックを背負っていた。


「今日ハトテモ剣ヲ振レソウニナインデネ。他ノコトヲ色々ト試ソウト思ッテルンダ」


 弦人は道をおおよそ覚えており、森に入って20分ほどで、昨日と同じ場所にでた。


「サテ、始メマスカ」


 弦人はリュックサックを下ろし、中からノートとペンを取り出した。

 そして、その場に座り込み、じっとスライムたちを見つめる。


 真島はしばらく様子を見ていたが、弦人が本当にスライムを見ているだけなのでしびれをきらして問いかけた。


「何やってるんだ?」


「見レバワカルダロ?スライムヲ見テルンダヨ」


「うん、それはわかる。何が楽しくてスライムを見てるだ?」


「楽シクナンカネーヨ」


「うん、聞き方が悪かった。何が目的でスライム見てるんだ?」


「孫氏ノ兵法サ」


 弦人は得意気な顔でそう言った。


「あー」


 真島はなんとなくわかったという顔をする


「彼ヲ知リ己ヲ知レバ百戦殆ウカラズ」


 そう言って弦人はドヤ顔をした。


「御大層な言い方してるけど、要はスライムを観察して、研究するってことね」


 真島はそう言って来た道を帰り始める。


「モウ帰ルノカ?」


「ああ、スライム見てるだけのヤツをさらに見てるだけとか、シュール過ぎんだろ」


 真島はそう言って、後ろ向きに手を振りながら去っていった。


 真島を見送ったあと、弦人はひたすらスライムを観察した。

 形、大きさ、動き、食事は食べるのか、排泄はするのか、睡眠はとるのか、同族とコミュニケーションをとれるのか等々。


 そして、1時間ほど経過した。


 うーん、あまり収穫はないな...


 弦人の目から見て、スライムたちはひたすら無目的にぷよぷよと動き回っているようにしか見えなかった。


 うーん、ミジンコの行動を観察してるようなもんだな...


 弦人は受動的にスライムの行動を観察していても得られる情報は少いと判断した。


 よし、第2段階。


 弦人はリュックサックから小さい革袋を取り出した。

 そして、袋の中から白い粒を取り出し、手近なスライムの前に置いた。

 スライムはその粒をしばらく観察したあと、粒に覆いかぶさり体内に取り込んだ。

 そして数秒後、スライムはぴょんぴょんと跳ね回った。


 おお、味がわかるんだな!


 白い粒は砂糖だった。

 砂糖を食べたスライムはおかわりをねだって弦人に擦り寄ってきた。


 よし、じゃあ、次はこれだ。


 弦人はリュックから別の革袋を取り出し、その中身を掴んで、スライムにふりかけた。

 スライムは一瞬喜んで跳ね回ったが、すぐに先程とは違う物だと気付いたようだった。

 そして、まるでコレジャナイとでも言いたげに、首をふるように左右に揺れた。

 弦人がふりかけたのは塩だった。


 ふーん、スライムって甘党なんだなー


 弦人は、スライムの反応を事細かにノートに書き込んだ。


 よし、次だ!!


 こうして、弦人のスライム観察日記はその日一日中続いたのだった。

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