第34話 なんで魔王のほうが前なの!? それ、魔王のほうが主役じゃん!?

 日が傾き始めた頃、弦人はスライムの観察を切り上げ、スチュアート邸に戻ってきた。


 なんか成り行きで居候になりつつあるから、なんか少しくらいジェームズさんの手伝いしないとな...


 弦人はそう考え、戻るとすぐにジェームズを探した。

 ジェームズは家の裏で、薪割りをしていた。


「ジェームズサン、手伝イマスヨ」


 弦人はジェームズにそう声をかけた。


「ああ、ゲントさん。いえ、薪はもう十分なので、大丈夫です」


「ジャア、何カ他ノコトヲ手伝イマス。俺ニデキルコトダッタラナンデモ言ッテ下サイ」


「そうですね...では、すみませんが、メアリと遊んでやってくれませんか?」


「エ...」


 弦人はつい無意識にイヤそうな顔をしてしまった。


 あのちびっ子、ちょっと変わってるから、なんか苦手なんだよな...


「なにかご不満でも...?」


 ジェームズは弦人の態度を見て、目つきがかわる。


 その目は、「うちの可愛い娘と遊べるというのに、感謝こそすれて、不満があるとでも言うのか?」と言っていた。

 心なしか、右手に持っている薪割りのナタがギラリと光っている。


「イエイエッ!!トンデモナイ!!サーテ、メアリチャンハドコカナ!?」


 弦人はそう言って、逃げるようにメアリを探しにでた。

 メアリは家から少し離れたところで、地面に木の枝で落書きをしていた。

 何やらたくさんの人間らしき形を書いている。

 弦人はメアリに声をかけず、そっと後から落書きを覗き込んだ。


 あー、お祭りとか何か、楽しかったときの思い出かなー...


 と、弦人が思った矢先、メアリはその人間たちの頭や、首や、胸や、腹からしゃーっと放射状の線を何本も何本も描く。


 うーん、ちょっと待ってー...

 まさかそれ血じゃないよねー...


「あ、ゲント!!」


 そこで、メアリが弦人の気配に気付き振り返った。


「ヤア、メアリ、ソレハ何ヲ書イテイルノカナ?」


 弦人は恐る恐るそう聞いた。


「このよのおわり!!」


 メアリは屈託のない無邪気な笑顔でそう答えた。


 想像より何段階か上のやつきたー!!


 弦人は心の中で絶叫した。


「コノ世ノ終ワリ?」


「そう、まおうのいんぼうで、せかいじゅうのにんげんがにくしみあって、ころしあって、このせかいはおわるー」


 メアリはまるでメルヘンなお伽噺でも語っているかのようなテンションで、目をキラキラさせている。


 ジェームズさーん!!

 あなた、いったいどういう教育してるんですかー!?

 これ、もう結構とりかえしつきませんよー!!


「そうだ、ゲント!!いっしょにまおうとゆうしゃごっこしよう!!」


「魔王ト勇者ゴッコ?」


 なんで魔王のほうが前なの!?

 それ、魔王のほうが主役じゃん!?


「うん、メアリがまおうで、ゲントがゆうしゃ!!」


 あ、やっぱり、メアリは魔王のほうやりたいのね?


「ゲントいってたよね?ゲントはゆうしゃのなかでいちばんつよいゆうしゃになるって!!」


 弦人はそこではっとした。

 弦人は、昨日昼食のとき、神殿での神託の前後の経緯をジェームズに話していた。

 弦人が“レベル0”で、1年後に6期の中で1番になると宣言したことも。


 あの話、横で聞いててちゃんと理解してたのか ...


「ゆうしゃのなかでいちばんつよいゆうしゃは、まおうたおすゆうしゃ!!ゲント、まおうたおす!!」


 メアリは先程と全く変わらぬテンションでそう言った。


 危険思想のサイコパスキッズかと思ったけど、ちゃんと根っこは優しい子なんだな...


「ヨシ!!魔王ト勇者ゴッコヤルカ!!」


 弦人は近くに落ちていた木の枝を拾い、メアリに向かって構える。


「トウトウ追イ詰メタゾ!!魔王メアリ!!」


「ふはははははは!!きたな!!ゆうしゃゲントよ!!」


 そうして、魔王メアリと勇者ゲントの戦いが始まった。

 魔王と勇者の戦いは、日が暮れて夕食の時間になるまで続いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る