第32話 言葉がでてこねーな...

 弦人は真島から慌てて手紙を奪い取った。


 そして、中身を取り出し、広げて文字を確認する。


 間違いない...フレアの字だ...


 ん、でも...


 フレアからの手紙に相違ないことを確認できたが、弦人はあるおかしな点に気づいた。


「真島、オ前、コノ手紙ドウシタンダ?」


 弦人は真島を問い詰めた。


「どうしたも何も、お前のためにわざわざフレアちゃんのところに行って事情を話したら、フレアちゃんが手紙を書いてくれたから、お前のためにわざわざここまで持ってきてやったんだよ♪」


 と、真島は恩着せがましい口調でそう言った。


「ジャア、ドウヤッテフレアノ家マデ行ッテ、ドウヤッテココマデ来タンダ?」


 弦人と真島が別れてから1週間、多少のロスはあったかもしれないが、弦人は馬で一直線にここまで来た。

 そして、フレアの家は別れたあの場所から逆方向だったはずだ。

 弦人の知る限り、この世界にはまだ鉄道や自動車はなく、馬が一番早い交通手段だ。

 真島が弦人と同じように馬で移動したのだとしたならば、フレアの家まで行ったあとここに来るのは、時間的にどうやっても不可能だ。


「秘密♪」


 真島は久々に口の両端を吊り上げてにたーっと笑った。


 こいつ、やっぱり信用ならねーな...


 弦人はそれ以上問い詰めても無駄だと考え、

 手紙に視線をもどし、文面を読み始めた。




 ゲントへ


 お元気ですか?

 ナナセさんとマジマさんからお話を聞きました。

 辛い思いをしましたね。

 神託の結果を聞いて、魔術や戦闘のスキルなど、言葉以外のことも教えておけばよかったと悔やまれました。

 でも、きっとあなたなら大丈夫です。

 私は半年間あなたのことをずっと見てきました。

 私がこの世界で一番あなたのことを知っています。

 あなたにとって“現状”という言葉は無意味です。

 あなたは今日がどんな状況だろうと、次の日には遥か遠くに進める人です。

 どうか、これからもあなたらしく突き進んで下さい。

 あなたの帰りを心から待っています。


 フレア・アイリスフィール




 手紙を読み終わったあと、弦人は手紙を両手で握りしめ、天を仰いだ。


 言葉がでてこねーな...


 弦人はフレアの紡いでくれた言葉に心から感謝した。


「おー、おー、妬けるねー」


 と、真島がひやかす。


「バーカ、ソンナンジャネーヨ...」


 と弦人は真島に釘を刺した。


 ある日突然、見知らぬこの世界に飛ばされた。

 この世界には、それまで当たり前だった親も、兄弟も、友達も、同級生もいない。

 言うなれば、ある日突然天涯孤独になったも同然だった。

 そんなときに、幸運にもフレアと出会うことができた。

 言葉を教わった。

 文字を教わった。

 この世界での生き方を教わった。

 この世界に来てからのほとんどの時間が、フレアと過ごした時間だった。


「フレアハ、俺ニトッテ、コノ世界唯一ノ友達デアリ、仲間デアリ、家族ナンダ...」


 弦人はそう言って、フレアの書いた手紙の文字を指でなぞった。


「あれ、俺は?」


 自称相棒の真島が自分のことを指差しながら問う。


「ダカラ、オ前ハ信用デキネー」


 弦人がそう即答し、真島はまた泣きそうになったのだった。

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