第29話 完全に詰みじゃねーか...
ジェームズの告知に弦人は絶望した。
レベルを上げるには、モンスターを倒すしかない。
そして、レベルの低い弦人でもスライムだったら倒せるだろうということで、わざわざこのスライムの森まで来たのに、そのスライムすら倒せないとなると...
完全に詰みじゃねーか...
弦人はその場に座り込んで頭を抱えた。
「ゲント、ゆうしゃなのに、よわいのか?」
メアリはきょとんとした顔で弦人にそう言った。
子供は時として残酷なものである。
幸いメアリの言葉は弦人の頭には届いておらず、弦人は必死に突破口を考えていた。
そして、ようやく一つの考えを絞り出した。
「ジェームズサン...仮定ノ話ダガ...モシ、攻撃成功率ガ凄マジク低クテモ、0ジャナイノナラバ、何百回、何千回ト攻撃スレバ、イツカハ攻撃ガ成功スルンジャナイカ?」
その問いにジェームズは険しい顔をする。
「理論上はおっしゃる通りですが、逆に0に限りなく近い数値だとしたら、成功するまでの回数は天文学的な数字になります」
「デモ、現時点デハ、ソレニ賭ケルシカナイ」
弦人はそう言って、剣を構え直した。
そして、手近なスライムに片っ端から斬りかかった。
それから、何時間経っただろうか。
日は西に傾いていた。
弦人は、息も絶え絶えで、腕に力が入らなくなってきており、手のひらにはまめもでき始めていた。
スライムへの攻撃回数は5000回をゆうに超えていた。
が、攻撃は一度も成功していない。
ジェームズは、「すみません、午後の仕事があるので」と、メアリを連れていったん引き上げている。
日が沈む前にまた迎えに来てくれることになっているので、もう迎えに戻ってくるころだ。
弦人は、もう何千回目かわからない攻撃を繰り出すため、残った力を振り絞って剣を上段に振り上げる。
が、振り上げた勢いに体が負け、地面に吸い込まれるように後方に倒れていった。
弦人の背中が地面に張り付いたあと、そこで初めて弦人は剣から手を離した。
弦人は両手を広げ大の字になった。
弦人の目には、昼と夕の境い目の空が映っていた。
今日はもう無理だな...
明日以降どうするか...
終りが見えない。
そもそも終わりがあるのかもわからない。
終わりはないかもしれない。
「コレ、無理カモナ...」
弦人はそのまま、ジェームズたちが戻るまで、そこから一歩も動けなかった。
そして、太陽は西に沈んだ。
弦人の目には、果てのない夜の闇が広がっていた。
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