第28話 スライムって弱い部類のモンスターですよね?
食事を終えたあと、弦人はジェームズに案内され、スライムの森に向かった。
どういうわけか、メアリもついてきた。
ジェームズの家から歩いて15分程経ったところで、その場所に着いた。
外見は何の変哲もない照葉樹林である。
ふーんと弦人が森を眺めていると、視界の端でガサゴソと動くものがあった。
目を凝らすと、肉まんくらいの大きさの楕円形の水色の液体がぷよぷよと、木と木の間を横切っていった。
スライムである。
おー、想像してた通りの見た目だ!!
弦人はスライムの姿に感動した。
じゃあ、早速...
弦人は持ってきていた剣に手をのばす。
「あー、待って下さい」
と、ジェームズが弦人を呼び止める。
「ここでも別に悪くはないですが、レベル上げが目的ならば、もっと深部のスライムが大量にいるあたりのほうが効率がよいでしょう」
なるほど、確かに..
弦人はジェームズの提案に同意し、一行は森の奥深くに入っていった。
森を進むにつれて、目に留まるスライムの数も増えていった。
20分程たったところで、木々が途切れ、比較的広いスペースにでた。
そこには、ぷよぷよ、ぷよぷよ、ぷよぷよと、スライムが100匹以上群生していた。
「オオ、スッゲー!!」
弦人は思わず感嘆の声を上げた。
「これだけいれば申し分ないでしょう」
「エエ、アリガトウゴザイマス!!」
弦人はそう言って、剣を抜いた。
剣は、真島からもらったあの安物だ。
長さはおよそ110cmでファンタジーでよく見かける両刃の剣だ。
弦人は剣を正眼に構える。
「ほう...」
弦人の構えを見て、ジェームズは声を漏らした。
なんらかの心得があるな...とジェームズは思った。
弦人は剣を振り上げ、右足の踏み込みと同時に剣を振り下ろした。
重っ!!
剣の重さで、地面に吸い込まれそうになる。
が、必死に踏み留まって、胸の高さで剣先をピタリと止めた。
竹刀と全然違う...
やっぱりこの剣で、剣道をそのまま使うのは無理か...
「ゲントさん、何か剣の心得があるのですか?」
「エエ、元ノ世界デ剣道トイウモノヲ習ッテイマシタ。平タク言ウト、竹ノ剣デ戦ウ競技デス」
弦人はそう言って、元の世界のことを思い出していた。
思い出すなー...
高3の夏...
悪足掻きで大会出たけど、全然ダメだったもんなー...
そんなことを思い出しながら、弦人は改めて自分の手の中にある剣を見つめた。
「今ヤッテミテ思イマシタガ、コノ重イ剣ニハソノママ使エソウニナイ。何カ工夫シテアレンジスルカ、アルイハ、コノ世界ノ剣術ヲ学ブカシナイト」
弦人はそう言ってため息をついた。
課題は相変わらず山積みだ...
「マア、デモ、シバラクハ試行錯誤デヤッテミマスヨ」
弦人はそう言って、手近なスライムの一匹に目をつけた。
人間相手と違って、対象の位置は低い...
無理に上段まで振り上げずに、中段よりちょっと上くらいから、振り下ろすくらいがいいだろう...
弦人はその考え通りに、中段より少し上まで剣を振り上げ、足元のスライム目掛けて一気に振り下ろした。
弦人のその一撃で、スライムは真っ二つに..........ならなかった。
剣はスライムの体の中に吸い込まれ、ちゃぽんと音がした。
「..........へ?」
思っていたのと違う光景に、弦人はそんな間の抜けた声を上げた。
「えーと.........」
弦人は気を取り直して、もう一度剣を振り上げて、振り下ろす。
また、ちゃぽんという音が響いた。
弦人は構えや振り下ろす角度を変え、何度かやってみるが、その度ちゃぽんという音が響いた。
目標を変えて別のスライム何体かに攻撃してみたが、結果はやはり同じだった。
「アノー.........スライムッテ弱イ部類ノモンスターデスヨネ?」
弦人は恐る恐るジェームズにそう聞いた。
「ええ、この世界で最弱のモンスターです」
ジェームズは険しい顔をしながら、そう答えた。
「ジャア.........ナンデ俺ノ攻撃、全ク効イテナインデスカ?」
「これは、恐らく“攻撃成功率”の問題です」
「“攻撃成功率”?」
ジェームズは“攻撃成功率”について説明を始めた。
戦闘職やモンスターのステータスには、攻撃力や防御力といったパラメータがあるが、他に命中力と回避力というものがある。
いくつか他の要因もあるが、攻撃が成功する確率は、攻撃側の命中力と防御側の回避力によって決まるという。
つまり、攻撃側の命中力が高ければ、攻撃成功率は上がり、防御側の回避力が高ければ、攻撃成功率は下がるのだ。
「ゲントさん、あなたは神殿で自分のステータスをご覧になりましたね?」
ジェームズの問いで、弦人は自分のステータスを思いだす。
ソウマ・ゲント
レベル:0
弦人のステータスは、以降何も表示されていなかった。
「なぜパラメータが表示されなかったのかはわかりませんが、“レベル0”のあなたのパラメータはおそらくとてつもなく低い。攻撃力も...命中力も...」
「ソレジャア...」
弦人はどんどん青ざめていく。
「何度攻撃しても、攻撃が成功しない...
ゲントさん、お気の毒ですが、あなたは...」
ジェームズは、まるで癌告知をする医者のように、弦人にこう告げた。
「最弱のスライムすら倒せない...」
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