第27話 お前がもし侵入者にお茶を出すという図式に少しでも違和感を覚えるならば、その呼び方を止めろ。

 ジェームズに案内され弦人は家の中に入った。


「どうぞ、そちらにおかけください。すぐに食事の用意をします」


 ジェームズはそう言って食卓の席を勧めた。


「メアリ。私は食事の用意をしますからメアリは何か飲み物を入れて差し上げてください」


 ジェームズは台所に入って行きながらメアリにそう指示した


「よかろう。しんにゅうしゃ、おちゃでいいか?」


 メアリはそう言って弦人の方を見た。


「オ前ガモシ侵入者ニオ茶ヲ出ストイウ図式ニ少シデモ違和感ヲ覚エルナラバ、ソノ呼ビ方ヲ止メロ」


 弦人はメアリに早口でそう言った。


「じゃあ、なんとよべばいい?」


「ダカラ、俺ハゲントダッテ言ッテルダロ」


「わかった、しんにゅうしゃゲント。おちゃでいいか?」


「イヤ、全然ワカッテネージャネーカ」


 弦人はもう何を言っても無駄だと諦めた。




 その後、食事の用意ができ全員食卓についた。

 食事はパンと野菜のスープという質素な物だったが、この数日乾パンや干し肉といった保存食ばかり口にしていた弦人にとってはご馳走だった。

 食事を食べながら、弦人はこれまでの身の上話をした。


「ほう、あなただけ言葉が通じなかった上に、レベル0でしかも命まで狙われているのですか...それは随分とご苦労されましたね......」


 弦人のあまりにも理不尽な身の上に、ジェームズは労いの言葉をかけた。


「ソウナンスヨー。マジ、大変ダッタンスヨー」


 弦人はそう言いながら、ダーっと涙を流した。


「ゲント......」


 そこでメアリが弦人の名を呼んだ。


「エ、ナンダ?」


 メアリが初めて侵入者を付けずに弦人の名を呼んだので、弦人は少し驚いた。


「ゲントはしんにゅうしゃじゃなくて、ゆうしゃだったのか!?」


 メアリは、目をキラキラさせながらそう聞いてきた。

 弦人は一瞬なんのことかわからなかったが、神託の「勇者ソーマ・ゲントよ......」のくだりをそのまま話したので、そこでメアリは弦人のことを勇者と認識したのだろうと判断した。


「マア、タクサンイル勇者ノ一人デハアルノカナ......」


 弦人はそう言いながら一緒に神託を受けた6期の面々の顔を思い浮かべた。


 ロクでもねー奴ばっかだけどなー......

 あ、よく考えたら、俺らより前に来てる真島も神託受けてるだろうから、アイツも勇者扱いなのか......?

 この世界の勇者認定雑だなー......


 と、弦人はまたもこの世界に不満を募らせた。


「ゆうしゃなら、ゆうしゃとなぜもっとはやくいわない!?スチュアートきょう!!いますぐに、ゆうしゃにもてなしのしょくじのよういを!!」


「イヤ、モウ食ットルワ!!」


 メアリの手のひら返しに弦人はそうつっこんだ。


 なんだ?こいつ?

 変な言葉ばっか使うと思ったら勇者オタクか?

 元の世界で言うところの中二病か?


 弦人がそう訝しんでいるとジェームズが話を元に戻してきた。


「それで、ゲントさんはレベルを上げるためにスライムの森に行かれるわけなんですね?」


「エエ、ソウナンスヨ。同期ノ奴ラニ命ヲ狙ワレテルシ、早イトコレベルヲ上ゲナイトマズインスヨ」


「では、食事を食べ終わったら、すぐにスライムの森に向かいましょう」


「アリガトウゴザイマス!!」


 弦人はそう言って、残りの食事を口にかき込んだのだった。



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