第26話 電車の中で自分の子供がどんなに暴れまわっても、一切注意しないタイプの親だ!!!!!!

 えーと......なんだ?......こいつ?......


 弦人は状況が理解できず頭がフリーズしていた。


「ダメですよ、メアリ。こちらの方は侵入者じゃなくてお客様です」


 ジェームズはメアリと呼ばれた少女を優しい口調でそう諭した。


「おきゃくさま? おきゃくさまのていぎをのべよ」


 どうやら少女メアリはお客様の言葉の意味を知らないようだった。


「お客様とは外から来た人という意味です」


「そとからきたということは、それはしんにゅうしゃということか?」


 メアリはきょとんとした顔でそう聞いた。


「違いますよ、メアリ。この前もそう言って回覧板を持ってきた隣村の村長さんをボコボコにしてしまったじゃないですか?」


 ジェームズとメアリの会話を聞きながら弦人は思った。


 こいつらは......ヤバい!!!!!!


「ああ、ゲントさん。ご紹介が遅れました。この子は私の自慢の娘、メアリです」


 ジェームズはそう言ってなんとも形容し難いニヤけた顔をした。


 弦人はドン引きした。


 自慢!?

 今の会話の内容聞かれた上で、人様に自慢するか!?

 いきなり背後から見ず知らずの人間の後頭部殴打してくるような娘を自慢するか!?


「スチュアートきょう、しんにゅうしゃをしまつしてしまってもよいか?」


 どうやらメアリは父親のことをスチュアート卿と呼称しているらしい。


 どういう教育したらそうなる!?


 弦人は心の中でつっこんだ。


「ダメですよ、メアリ。確かに侵入者は始末していいですけど、ゲントさんはお客様なんですから」


 そこ、そこ、そこ!!


「確かに侵入者は始末していい」ってとこ!!そういうところだよ!!教育方針完全に間違ってますよー!!


 弦人は心の中で激しくつっこむ。


「メアリはせんこくおきゃくさまはしんにゅうしゃのいっしゅだとがくしゅうした」


「うーん、その学習は間違っているんですよー。うーん、なんと説明すればいいですかねー」


 メアリとジェームズの間で、一歩も進まない堂々巡りの会話が繰り広げられている。


 弦人はずっと、薄々おかしいとは思っていた。

 この世界で、こんなに普通の人が、こんなに自分に親切してくれるわけがない。

 何かあるに違いないと。


 弦人の中でジェームズの評価は急降下していった。


 知っている......

 俺は知っている......

 元の世界にもいた......

 俺は、こういう人種を知っている......

 ジェームズさんは......

 電車の中で自分の子供がどんなに暴れまわっても、一切注意しないタイプの親だ!!!!!!


 弦人は心の中でそう絶叫した。



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