第25話 いや、小学校の理科で習ったわ!!
「アノー、チョット教エテ欲シインデスガ......」
弦人とジェームズが歩き始めてすぐ、弦人はある質問を切り出した。
「はい、なんでしょう?」
「アノモンスターヲ追イ払ッタ矢ト粉、一体何ナンデスカ?」
「あー、あれですか......」
ジェームズは顎に手をあてうーんと唸る。
「それを説明するにはあのモンスターがそもそもどういうものなのかということを話さなければなりませんね」
ジェームズはそう言って説明を始めた。
あのモンスターは“森喰い”と呼ばれており500年程前に魔王が世界を滅ぼす策略の一つとして生み出したのだそうだ。
“森喰い”はその名の通り森を食べる。
魔王が多数の“森喰い”を大地に放ったあと“森喰い”たちは世界各地で森林の木々を食い漁った。
そしてこの世界の森林地帯は激減し生態系は壊滅的な危機にさらされた。
「魔王ノ奴、少子高齢化ノ前ハ森林破壊ヤッテタノカ......スケールガデカインダカ小サインダカ......」
呆れかえっている雰囲気の弦人にジェームズは少しむっとしてこう言った。
「あなたは異世界から来たからわからないでしょうが、これはとても恐ろしいことなんですよ!! 植物は二酸化炭素を取り込んで酸素を排出している!! そしてこの二酸化炭素は太陽からの熱を溜め込む性質がある!! 森林が激減したことで二酸化炭素濃度が増えこの世界の平均気温は2℃も上がった!! もうあと少しで北海の果ての氷が融けてこの世界は海に沈むところだった!! 魔王の智略は本当に恐ろしい!! もっとも異世界人のあなたの知識では理解できないでしょうけどね!!」
「イヤ、小学校ノ理科デ習ッタワ!!」
弦人はげっそりした。
魔王の奴、温暖化で世界を滅ぼすつもりだったのか......
なんつーか、社会問題にやたら意識の高い魔王だな......
「デモ今ノ世界ノ様子ヲ見ルトソウハナラナカッタンスヨネ」
「その通りです」
ジェームズは説明を続けた。
森林が減っていく中で何種類かの植物が残っていった。
それらの植物はどうやら“森喰い”にとって毒となる成分を作り出しているようで、“森喰い”達はそれらの木や草を食べることができず、間違って食べるとあのように苦しみだして致死量を超えれば死滅するのだそうだ。
その毒の成分を持つ植物群は自然淘汰で急激に増加し、逆に“森喰い”は食べられる物がなくなりその数は激減した。
現在では植物を食べられなくなった“森喰い”が凶暴化し、先程のように人を襲うのだそうだ。
「“森喰い”の撃退にはそういった植物の中で特にその毒素の強いものの花粉や樹液を使います。先程の鏃には樹液を塗っており粉は花粉というわけです」
弦人は、へー、なるほどー、と感心した。
そうこうしているうちに前方に木造の家が見えてきた。
「あれが、私の家です」
ジェームズは家を指してそう言った。
周囲には畑や畜舎があり、フレアの家の周囲とよく似ていた。
この世界で郊外の一軒家で生活するとなるとどうしてもこういうふうになるのだろう。
弦人は家を見ながら、いやー、ありがたい、もう腹減って死にそうだったんだよなー、と思っていた矢先......
「しねーっ!!」
という声とともに弦人の後頭部に激痛が走った。
「イッテエエエェェェッッッ!!」
弦人は突然の激痛に悲鳴を上げる。
一瞬パニックになるが、すぐ冷静になる。
油断した!!
6期の奴らか!?
弦人は頭を押さえながら慌てて振り返る。
が、そこには誰もいなかった。
どこだ!?
余程の手練で攻撃後すぐに周辺の死角に隠れたか......?
あるいは姿を見えなくする魔法かスキルか......?
いや、遠距離からの遠隔攻撃という可能性も......
弦人が必死に思考を巡らせていると視界の遥か下方から声がしてきた。
「こっちだ!! しんにゅうしゃ!!」
弦人はそこであることに気付いた。
襲撃者のその声がやたらと高くて可愛らしいのである。
弦人は恐る恐る視線を下方に下げた。
普通の視線の高さでは視界に入らないくらい小さい人物がそこにいた。
セミロングの金髪で黒いワンピースを着た5〜6歳の幼女が木剣を構えて立っていた。
「さあ、けんをぬけ!! しんにゅうしゃ!!」
幼女はそう言って不敵な笑みを浮かべたのだった。
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