第24話 いい人だあああぁぁぁっっっ!!

「ウワアアアァァァッッッ!!」


 弦人は絶叫しながら全力で馬を走らせていた。


 弦人と馬の背後からは黒い触手の塊のようなモンスターが追ってきていた。

 塊の中心には大きな口があいており、びっしりと尖った歯が並んでいる。


 七瀬、真島と別れてから1週間。

 幸いここまで攻撃的なモンスターに出くわすことはなかったのだが、もうあと少しで“スライムの森”というところでこのモンスターに眼をつけられてしまったのだ。


「フザケンナ、真島!! 幾ラスライムガ弱クテモソノ手前ニコンナンイタラ意味ネーダロ!!」


 弦人はまたも真島に嵌められたと激しく後悔していた。


 モンスターは触手を蜘蛛の足のように使い徐々に距離を詰めてくる。

 その巨大な口にいよいよ食いつかれると思われたその時、弦人の真横を1本の矢が駆け抜けた。

 矢はそのままモンスターの口の中に突き刺さった。

 次の瞬間、モンスターは動きを止め天に向かって咆哮する。


「ナンダ!?」


 弦人はその咆哮を聞いて馬を止めて振り返る。

 モンスターは体を震わせ苦しんでいる様子だ。


「離れて下さい!!」


 そんな声とともに1人の男がモンスターの前に飛び出した。

 歳は30前後くらいだろうか。

 金髪の短髪に狩人のような身なりで、手に弓を携えたていた。

 おそらくこの男が矢を放ったのだろう。


 男はモンスターの前に立つと懐から小袋を取り出し、口紐を解いて中身をモンスターに向かって撒き散らした。

 中身は赤い粉だった。


 モンスターはその赤い粉を浴びるとさらに悲鳴を上げて、一目散に逃げていった。


「危ないところでしたね......」


 男はそう言いながら弦人の方に歩み寄ってきた。


「アア、スンマセン、助カリマシタ」


 弦人は馬を下りて礼を言った。


「私はジェームズ・スチュアート。このあたりで、狩人と木こりのようなことをして暮らしています」


 男、ジェームズはそう言って右手を弦人に差し出してきた。


「俺ハゲントトイイマス」


 弦人はジェームズの手を握り返した。


「あなたは顔立ちからして召喚者のようですね? どちらに向かわれてるんですか......って、何で泣いてるんですか?」


「ウゥ、イエ、コノ世界デ珍シク普通ニ親切ナ人ニ出会エタノデ......」


 弦人は両目からだーっと涙を流して感動していた。


 思い返せばフレア以外ろくな人間にあっていない。

 無愛想なやつ、馬鹿にしてくるやつ、イカれたギャンブルに巻き込んでくるやつ、私利私欲で殺しにくるやつとそんな連中ばかりだった。


 ってか、全員、元の世界から来てる奴らじゃねーか!!


 フレアといいこのジェームズといいこの世界の人達はとても善良なのかもしれない。


 弦人はそんなことを考えながら涙を流してジェームズの手を握り続けていた。


「あのー......もう離してもらってもいいですか......?」


 ジェームズは若干気持ち悪くなっていた。


「アア、スミマセン......」


 弦人は慌てて手を離した。


「それでどちらに向かわれてるんですか?」


「エエ、実ハ“スライムの森”ッテ呼バレテル所ニ行キタインデス」


「ああ、それだったら私の家の近くですよ。ご案内しましょう。それにそろそろ昼時ですし、よければ私の家で一緒に昼食でもどうですか?」


「イインデスカ!?」


 弦人の手持ちの食料はちょうど尽きかけており、この上なくありがたい誘いだった。


「ええ、もちろんです」


 ジェームズはそう言って、一点の曇りのない笑顔で微笑んだ。


 いい人だあああぁぁぁっっっ!!


 弦人は再び涙を流して感動した。


「ゼヒ、オ願イシマス!!」


「わかりました。では参りましょう」


 こうして弦人とジェームズはジェームズの家に向かうことになった。


 あれ、なんか、俺にしてはあり得ないくらいすんなり事が進んでるけど、大丈夫かな......?


 弦人は逆に不安になってきていた。



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