第11話 俺だけVery Hardモードかよ!?

 一同は、何か珍しい物でも見るような目で弦人を見ながら、ガヤガヤと言葉を交わし合っている。

 そして、弦人はそこで初めて気付いた。

 皆、この世界の主流言語、エングリス語を流暢に扱っていることに。


「がはははっ、こんな風に聞こえるんだなっ!? アメリカ人からしたら、日本人の下手くそな英語とかは、こんな風に聞こえるんだろうなあっ!?」


 一同の中の1人、騎士風の甲冑を着た体格の大きい男が、そう言いながら、ゲントのほうに歩み寄ってきた。


「それになんだ!? そのかっこうは!? 村人Aか!?」


 弦人はそう言われて、一同の格好と自分の格好を見比べた。

 一同の立派な冒険者装備に比べて、弦人の服は安物のウール製で、武器も何も持っていない。

 いわゆる平民の身なりだ。


「お前、そんな装備で、まともにモンスター倒してるのか!?」


 男は弦人の顔を覗き込みながら、そう畳み掛けた。


 弦人は、一同の様子や男の発言から、自分の置かれた状況がだんだん分かってきた。

 どうやら自分は、大きく出遅れているらしいと。


「モンスタートカハ、マダ倒シタコトガナイ」


 弦人はさらに情報を引き出すため、ありのままを答えた。


「ぷっ、ぷはははっ! やっぱりか!?」


 男は大声で笑い、他の者たちも失笑している。


「お前、今日ここに来たってことは、お前も半年前に召喚されたクチだろう? この半年間、いったい何してたんだ!?」


「言葉ヲ覚エルノニ精一杯デネ。ココニイル者ハミンナ、流暢二エングリス語ヲ話シテルガ、ミンナイッタイドウヤッタンダ?」


「はっ、自動翻訳に決まってるだろ!! 特に何もしたわけじゃなく、最初からこの世界の言葉が分かったよ!!」


 弦人は男のその話を聞いて思った。


 やっぱりか......


 弦人は途中から薄々そうだろうと思っていた。

 弦人はエングリス語という未知の言語を習得するのに、かなり苦労したが、それでもかなり工夫して、効率良く学んだつもりだった。

 にも関わらず、この場にいる全員が自分よりエングリス語がうまいことから、おそらくそうなのではないかと思っていた。


 自動翻訳は召喚者の標準装備だが、自分にだけ備わらなかった。と......


「話にならねーっ!? お前がのんびり語学留学やってる間に、ここにいる全員、モンスター倒して、レベル上げてきてるんだ!! お前がこの世界に召喚されたのは何かの間違いだよっ!! 戦力外だから、とっと失せろ!!」


 男はそう言って、しっしっと手を払う。


 弦人を取り巻く空気は完全にアウェイだった。

 しかし、弦人はその空気に気圧さることなくこう返した。


「ドウカナ? 今日マデ“ベリーイージーモード”ノヌルマ湯二浸カッテタオ前ラヨリ、“ベリーハードモード”デヤッテキタ俺ノ方ガイイ線イクカモヨ?」


 弦人はそう言って、不敵に笑みを浮かべた。


「なんだと、てめーっ!!」


 弦人の態度が癇に障り、男は左手で弦人の胸ぐらをつかみ、右手を大きく振り上げた。


 しかし、男はそこで動きを止めた。

 いや、止めざる得なかった。


 男の首元に、いつの間にか剣の切っ先が突きつけられていたのだ。


「あとの予定がつかえてるのよ。茶番はそのくらいにしてもらえるかしら?」


 突然現れた剣の主は、10代後半の少女だった。

 赤く塗装された鎧......

 黒く長い三編み......

 弦人が関所で出会った少女、宮平七瀬だった。



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