第9話 可愛くねーっ!!

 翌朝、弦人は旅支度を整え、フレアの家を出た。


 ベルガーファ神殿は、ザスキア王国の首都トゥルーディにある。


 フレアの家はザスキア王国の西の端で、首都までは馬で3日ほどの距離だ。


 弦人はフレアの家に滞在している間に馬の乗り方を覚えており、フレアから一頭貸してもらって旅に出た。


 3日後、弦人は首都トゥルーディに着いた。


 トゥルーディは、一国の首都だけあって、外周を高い外壁に守られており、四方四箇所の関所からのみ、入ることが可能だった。


 弦人は、関所の通行待ちの行列に並んだ。


 さて、ここまで来たはいいものの、この関所って、あっさり通してもらえるものなのかな......


 召喚者で、神託を受けるために来たって言っても、証明のしようがないしな......


 弦人は思案したあと、行列で自分の前に並んでいる人間に話を聞いてみることにした。


「アノー、スミマセン......」


 弦人がそう声をかけ、その人物は無言で振り返った。


 その人物は、弦人と同い歳くらいの少女だった。


 赤く塗装された騎士のような鎧に身を包んでおり、腰に細い剣を帯びている。

 髪は黒く長く、三編みにして前に垂らしている。


 そして、弦人はその人物の顔を見て驚いた。

 顔立ちが、完全に元の世界の日本人そのものなのだ。


 弦人は、とっさに質問の内容を変えた。


「アンタ、モシカシテ、召喚者カ?」


「そう言うあなたも、顔立ちからして日本人のようだけど、それにしても......」


 少女は、怪訝な顔で弦人をジロジロと見た。


「ン?ナンカ、俺ノ顔ガドウカシタノカ?」


「いえ、顔じゃなくて、その......いえ、なんでもないわ。気にしないで」


「ン? ソウカ......」


 弦人は特に気にせず、右手を少女に差し出した。


「俺ハ、相馬弦人!コノ世界デハ、ゲントト名乗ッテル」


「宮平七瀬」


 少女は腕組みをしたまま、弦人の差し出した右手を黙殺し、短くそう答えた。


 弦人は仕方なく右手を引っ込めた。


「ソレデ、ナナセ」


「いきなり、馴れ馴れしいわね」


 弦人は自分がこの世界でゲントと名乗っているので、下の名前で呼んだのだが、宮平七瀬は、不快感を顕にした。


「ソウカ、ジャア、宮平」


 弦人はさっさと切り替えて、名字で呼ぶことにした。


「俺、神託ヲ受ケルタメニコノ街ニ来タンダケド、コノ関所ッテドウヤッタラ通シテモラエルンダ?」


「あなたも、ベルガーファの神官、クロエに呼ばれてきのでしょう?」


「アア、ソウダ」


「なら、神殿があなたの名前と顔を記録してるから、名前と、召喚者だということ、クロエに呼ばれて来たことを告げれば、通してもらえるわ」


「ソウカ、アリガトウ」


 弦人はそれを聞いて安心し、礼を言った。


「ナア、宮平モ日本人ダロ? ドコカラ来タンダ? 関東カ? 関西カ?」


「もういいでしょ。必要なことには答えたわ。悪いけど、関わらないでくれる?」


 同郷のよしみで親睦を深めようとする弦人に対して、七瀬は冷たくそう言って背を向けた。


 可愛くねーっ!!


 弦人は心の中でそう叫んだ。



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