第8話 出てき方が完全に魔王側っ!!
弦人とフレアは異変に気づき、声のした方を見た。
先程まで弦人が洗い物をしていた炊事場だ。
炊事場の貯水樽から、ウネウネと水が動きだし、弦人とフレアの元に這い寄ってきた。
水は人の形を形成し始めた。
水は無色透明から、徐々に色を帯びる。
そして、水は若い男の姿になった。
歳は20代くらい、どんよりした目に眼鏡をかけ、黒い神官衣を身に纏っている。
『初めまして、私はベルガーファ神殿の神官、クロエと申します』
「イヤ、出テキ方ガ完全ニ魔王側ッ!!」
弦人は、クロエと名乗った神官にそうつっこんだ。
『すみません、これは、水写しと言って、遠隔通信の魔術なのです。本体の私は、遠く離れたベルガーファ神殿にいます』
「ベルガーファの神官ということは、ゲントに神託を受けさせるために来たの?」
フレアは、クロエにそう問うた。
『左様でございます。白銀の魔女のヒモが召喚者だと、複数の旅人から情報がもたらされまして、このようにご挨拶に伺ったのです』
「ダカラ、オレハ、ヒモジャネー!!」
全く悪びれた様子のないクロエに、弦人はすかさずつっこんだ。
『失礼、白銀の魔女の同居人が召喚者だとうかがったのです』
クロエは特に申し訳ないという様子もなく、そう訂正した。
『それで、つきまして、あなた様、えーと......』
「ゲントダ」
『ゲント様にベルガーファ神殿においで頂き、神託を受けて頂きたいのです』
「ソノ、神託トイウノハ?」
クロエは、神託について語り始めた。
異世界から来た召喚者は、神々を祀るベルガーファ神殿で、神の声を聞き、己の使命を知り、魔王を倒すために旅立つのだという。
「行ク」
神託の内容を聞いた弦人は即答した。
「行ッテ、神託ヲ受ケル」
弦人は、言葉もだいたい覚えてきたし、この世界のことをもっと知るために、色々なところに行った方がいいと考えていた。
魔王を倒す旅に出るかは、まだ決めていないが、この世界で何か大きな目的があった方がいいだろうし、話の流れによっては、本当にそうするかもしれない。
『ありがとうございます。それでは、ベルガーファにてお待ちしております』
クロエはそう言い残し、クロエの姿をしていた水は、バシャリと音を立てて床に散らばった。
「迷惑ナ通信手段ダナ......」
弦人は面倒くさそうにそう言って、床に散らばった水を雑巾で拭いた。
「行くのね?」
フレアが心配そうにそう言った。
弦人はそこで、しまったという顔をする。
「ゴメン、勝手ニ決メチャッテ」
弦人は申し訳なさそうにそう言った。
「ううん、構わないわ。あなたがここに住み込んだのは、成り行きだったし。召喚者である以上、いずれ神殿に行くことにはなるだろうと思ってた」
そう言いながらもフレアは少し寂しそうな顔をしていた。
「でも、ここは、この世界での最初のあなたの家よ。だから、いつでも帰ってきてね」
フレアは寂しさの混じった笑顔でそう言った。
「アリガトウ、フレア」
そう言って、弦人も少し寂しそうに笑顔を返した。
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