第7話 魔王のやり口、特殊過ぎんだろっ!?

 魔王という単語に弦人は少し安堵した。


 ようやく、異世界らしい話になってきた......


「コノ世界ニハ、魔王ガイルノカ?」


「ええ。太古の昔神々の国で、他の神々を滅し唯一神になろうとして敗れ、神格を剥奪され地上に堕ちてきた異端者。それが、魔王イン・ディビュア」


「魔王イン・ディビュア......」


「魔王が地上に堕ちてきたあと、神々の使徒たる私たち人類は、神々の命で魔王と敵対し、有史以来ずっと魔王打倒のために戦ってきた。数で勝る私たち人類と、個々の力で勝る魔王とその眷属たちとの戦いは、数千年に渡り膠着状態だった。でも、50年前、魔王がある策略を思いついた」


「ソレガ言ッテタ魔王ノ策略カ?」


「ええ。魔王はとある人間に取り憑いて、人間たちの中である思想を広めたの」


「思想?」


「個人主義......それも、極めて極端な......」


 フレアは魔王の思想と、それによってこの世界がどのように変わったのか語り始めた。


 人間の長い歴史の中でも個人主義を唱える思想家はいた。

 しかし、魔王の広めた個人主義はかつての思想のいずれよりも過激だった。


 彼は、人間が形成するいかなるコミュニティも悪であり、個の存在こそが全てだと説いた。

 国よりも、民族よりも、家族よりも......


 封建的社会の中で息苦しさを感じていた多くの若者たちにとって、その思想は劇薬だった。


 いくつもの国でテロが起きた。

 集団をというものを否定する思想で集まった、根本から矛盾している彼らの活動は、革命に至ることはなく、ただのテロとして終わった。


 しかし、魔王の狙いはそこではなかった。

 魔王の狙いは、人間のコミュニティの最小単位、家庭を破壊することだった。


 家族のために食い扶持を稼ぐことも、家族のために食事を作ることも、子供を育てることも、老いた両親を介護することも、全てが悪であり、自己が最も尊い存在であり、自己を最優先して生きることが唯一の正義であると洗脳された若者たちは、結婚し、家庭を持ち、子を成すことやめた。


 そうして子供の数は減っていった。


 魔王の策略はそれだけではなかった。


 それと同時に医療魔術を人々に広めた。

 魔王の医療魔術は当時の人間の千年は先をいくものだった。

 人間の寿命はそれ以前の2倍に伸びた。


 そうして老人の数が増えた。


 神々が魔王の策略に気付いたときにはすでに手遅れだった。


 今日、人間の若者の半数近くが魔王の隠れ信奉者だ。


 そうして、この世界の人類は、ゆっくりと、確実に、衰退していっているのだ。


「イヤ、ナンカ、魔王ノヤリ口、特殊過ギンダロ」


 弦人はさらにゲンナリしていた。


 もうちょっと、夢のある世界征服しろよ......


「一方で、子供や若者が減った結果、魔王と戦う先兵を失った神々は、ある策を思いついた。異世界からあなたのような戦士を召喚することにしたのよ」


「イヤ、完全二移民政策ジャネーカッ!? シカモ、コッチニナンノ説明モ相談モナク、強制的ニ召喚ッテ、コノ世界ノ神々、ドコノ独裁国家ダヨッ!?」


 弦人は、そこでようやく、どうして自分がこの世界に転移したのか理解した。


 神々の誰かが、魔王と戦わせるために、召喚したのだろう。


 それならそれで、最初に現れて説明くらいしろよな......


 それに、その展開だったら、やっぱりチートスキルと自動翻訳が......


 いや、それはもう言うまい......


 そこで、弦人はあることが気になった。


「ジャア、俺以外ニモ召喚サレタ人間ガイルノカ?」


 弦人の問いに、フレアが答えようとする直前、思いがけないところから声がしてきた。


『ええ、おりますよ』



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