生米でパンを作ったら、カッチカチの丸パンが出来上がった話

彩霞

第1話 生米パンとの出会い

 最近、パン作りの本を買うようになった。

 理由は、料理本に掲載されているパンの写真がとても美味しそうで、眺めていたいから。ただ、それだけである。


 自分で作りたいという気持ちがないわけではない。出来立てのパンを食べることができたら、きっと幸せだろう。


 しかし私には作れる技術がない。と、最初から諦めている。


 ただの粉である小麦粉を、ふんわりとしていて、きめ細やかで、その上香ばしいかおりが食欲をそそる、魅力的なものにできる気がしないのだ。


 今はパン焼き機なるものがあるので、それを買えば案外容易にできるのかもしれない。しかし最初から成功するわけがないし、たとえ上手くいっても、大抵行動に移すまでに時間がかかる私が、これから先何度もパンを作るとは思えない。


 それなら、出来合いのものを買った方がいい。当然、間違いなくおいしいのだから。そのため、結局最低一万円くらいする機械を買う気にはなれなかった。


 そんなとき、本屋で出会ったパン作りの本がある。

 タイトルは『家にあるお米から形成パンができちゃう! 毎日食べたい生米パン』(著者:リト史織/永岡書店)。目に入った瞬間、思わず手に取っていた。


 私の主食はいつも米である。パンの小麦粉ならでの香ばしい香りは好きだが、食べるなら米の方が好きなのだ。また小麦粉よりも私の体との相性が良い。もしかするとパン作りの本を買うのも、どこかで食べたいとは思いつつも、体調のことを考えて米を選んでしまう反動もあるのかもしれない。


 さて、そんなお米好きに「生米でパンが作れる」と言われたら、どういうものなのか知りたくなる。私はさらっと中身をみてみることにした。


 掲載されている写真の中の生米パンは、思った以上にちゃんとしたパンの形をしている。きれいな焼き色がついていて、なかなか美味しそうだ。


 断面が切られたカンパーニュなんかは、細かい穴が空いていて、ちゃんとイースト菌で発酵されたことが分かる。


 ——美味しそう……。食べてみたい。


 生米で作ったパンはどんな食感がするのだろう。どんな香りがするのだろう。

 そんなことを思っているうちに、私は材料や作り方を熱心に見ていた。思ったよりも使う材料が少ないし、こねることがなく、全てミキサーで作れるところも魅力的。それが何となく、私にも作れそうな気にさせる。


 私はしばらくその本を立ち読みしたのち、心が赴くままにその本をレジに持って行っていた。


「生米からパンができる」というと、不思議に思う方も多いだろう。私もその一人である。最近は、米粉で作られたパンを見る機会もだいぶ増えたが、それでも全て米粉で出来ているものは案外少ない。私は素人なのでそれほど詳しくないが、聞いた話によると小麦粉に含まれるグルテンが、パンを作る際に重要な要素になるのだという。


 しかし米にはグルテンがない。よってそれを補うように、米粉だけでなく小麦が入っていることが多い。


 米粉でさえも単独でパンを作るのが難しいというのに、この本では生米だけでパンを作るという。想像するに、小麦粉でパンを作るよりもずっと難しいだろう。いや絶対に、難しいに決まっている。


 心ではそう思っているのに、私は本屋に行った帰り道、スーパーに寄っていた。生米でパンを作るための材料を揃えるためである。

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