第3話 異なる根

「一体どう言うことなんだよ!!全く意味がわからない!!

最初から説明してくれよ!」


俺は親父に向かって叫んでいた。



愛美の家へ愛美がいなくなったことを伝えにいったあと、おばさんは俺と信にこう言った。


「あなた達は自分の家に帰ってお父さんへ伝えなさい・・・【月が動いた】と」


そう言うとおばさんは黙って家の奥へと消えていった。

そして俺と信はお互い黙ったままそれぞれの家に帰った。



「親父!!【月が動いた】って一体なんなんだよ!」

「大輝、落ち着け。愛美さんは無事だ。心配はいらないから。」

「目の前で消えたのに何が!どこが安全なんだよ!愛美はどこにいるんだよ!」

「愛美さんは今こことは違う別の世界にいるんだ。今、わしらがいる世界とは別の少しずれた場所にある世界に。」



「愛美さん。ここは君たちのいる世界とは別のもう一つの世界なんだ。。」


サングラスの男光一はそう言って静かに話し始めた。


「君にわかりやすい言葉で言うと【パラレルワールド】という言い方が分かりや

すいのかな?君のいる世界も僕たちの世界も元を辿れば1本の木の様なものなんだけど、無数に広がる木の根っこみたいに限りない数の世界が存在してるんだ。だから僕たちはそれらを【異なる根の世界】と呼んでるんだ。」

「別の世界とか映画みたいな話で実感もないしよくわからないんだけど。」


自分へ敵意がないことを感じられたからか、愛美も少しずつ落ち着きを取り戻してきた。


「君は母親から何も聞かされていないみたいだね。いいだろう、僕が分かりやすく説明をしてあげるよ。」



世界は昔一つの大きな流れの中で静かに穏やかに進んでいた。

人類の誕生前からずっと何事もなく静かに。

しかしある時一人の子供が生まれたことでこの流れは大きく乱れ分かれることになる。

その子供はある世界では「キリスタ」、別の世界では「ロッタ」また別の世界では「アッター」など様々な呼び名で呼ばれている。

ただ、どの世界でも共通しているのは、その存在はその世界で唯一の存在であると言うこと。そしてその存在は「神」と呼ばれ、その世界を作ったとされているのだ。ただ一つの世界を除いては。そう、私達の世界だけはなぜかこれら唯一無二であるはずの「神」と言う存在が【宗教】という形で同時に存在していると言うのだ。


「本来唯一の存在であるはずのものが君たちの世界でだけ同時に認識されているんだ。その結果、本来交わるはずのない【根】どうしが引かれ合い君たちの世界で融合しようとしているんだ。」


愛美は光一の話を信じることはできなかった。しかし自分の置かれた状況を考えると、お伽話の様な話でも相手を刺激しないよう内容を理解するように努めた。


「別の世界同士が引かれ合い融合って・・・・一体どう言うこと?それで一体何が起こるの?」


光一は続けた。


「愛美さん。君は賢い子だ。君のような子は大好きだ!」


光一がそう言うとカレンは一層キツい目で愛美を睨んだ。


「カレン。愛美さんをそんなに睨みつけないで。怖いよ。」


そう言いながらカレンの頭をポンポンすると


「光一はいつもそう。私はどうせ怖い女ですよ!」


そう言っていじけた様に明後日の方へ向き直った。


「カレンは僕が君を好きと言ったのが気に入らなかったみたいだね。悪い子じゃないから嫌いにならないでね。おっと、話の続きだね。

別の世界同士が引かれ合い融合すると言うことは、世界と世界がぶつかり合い無くなってしまうと言うことなんだよ。君たちの世界では次々に新しい【宗教】が出てきているけど、あれは全て他の世界での神を崇める形で生まれているんだ。」

「あなたの言うことが本当だとしてどうして私の世界だけそういうことが起こっているのよ。信じられないわ・・・・」

「それに関しては僕たちも仮説程度しか話ができないんだけど・・・・!!」


その時愛美の目の前に一人の女性が現れた。


「愛美ちゃん、大丈夫?こんなところはさっさと出ちゃうわよ!」


女性は愛美を抱き抱えると一瞬で光一たちの前から姿を消したのだった。


「ちょ!?光一今のなんなの!?あの女はどこ!!」


カレンが慌てた様子で光一に迫る。


「あらら・・・・今からがいいところだったのに邪魔が入っちゃったな。仕方ない。ゆっくり話しすぎたかな・・・」

「ちょっと!そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょう!!どうするのよ!」

「まぁ〜続きは次回のお楽しみかな。どうせまた会えるし今回はもう帰ろう!

えっと、今日は【月】はこっちか・・・最近ウロウロしすぎだよ・・・・あの人も困った人だなぁ・・・・」


光一はクスッと笑いながらそう言うと、今までいた部屋の様な空間から外へ足を踏み出した。カレンは不機嫌そうに小言を言いながら光一の後を追った。

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