十一 口伝・招聘
それは夏の日のこと。
彼女は友人と二人で出かけていた。
時間は夜中で草木も眠る丑三つ時である。
きっかけは小さなことで、心霊現象を見てみたいということらしい。
「変な話でな」
そういう場所で出会うものと言えば、この世では無いどこかに連れていかれるだとか、あるいは死んだ人間などの念が見えるだとかそういうのだ。
彼女の友人が選んだのは『神様に会える』というものらしい。
「神社にでも行ったんですか」
「正解」
とはいえ、誰もが知っているような神社ではない。
とある山中にある打ち捨てられた場所で、この言い方が正しいものなのかは分からないが廃神社とも言える場所だ。
細かい場所を彼女は教えてくれなかったが、それはきっと何かの間違いで私がそこに向かわないようにだろう。
「知らんと行くんと、知って行くんやったら知っとる方がタチ悪いからな」
「……後者じゃないんですか?」
「襲われるんはどっちもおんなじやけどな。ただ襲われる側が入ったあかんとこに入ったと意識したら途端に危なさの数値みたいなもんが上がるんよ」
……そういう理論があるらしい。
閑話休題。
彼女たちはその神社に向かった。
夜の山を車で進み、途中で降りて獣道に入る。
その神社というのはかつてあった村のものらしく、村は陸の孤島ともいえるような立地だったとの事だ。
閉じられた土地、その村だけが世界と思えるような場所。
この国にそんな場所があったのかと思わされるような閉鎖的な空間である。
ぼうぼうに生えた草を踏み、邪魔な木の枝を折りつつ、そんな場所に向かって進む。
前に友人、後ろに彼女。
月明かりもない夜に、持ち込んだ懐中電灯だけが道を示してくれるものだった。
「……途中で諦めたら良かったとは思うで、今でも。目的地が大体どの辺にあるかも分からんのに行くって、遭難する可能性もあるからな」
結果を考えれば、遭難していた方が良かったのかもしれない。
なにかに導かれたのか、彼女たち二人は村の集落らしい場所にたどり着いてしまったのだから。
捨てられた誰もいない古民家。
それらが集まる小さな村。
「……まぁ、途中で帰らんかったんが一つ目の失敗やとしたら、これは二つ目の失敗やったろな」
未知の場所、そして夜の闇に隠されて二人はその村の持つ異質さや異様さというものを見誤っていた。
「神社を探して、村の中をうろついたりしてな、どんぐらいの時間が経ったんか……」
舞い上がってしまった友人が駆け回り、彼女がそれについて行く。
どこかで止めて引き返すことも出来ただろうに、それが出来なかった。
水を差すようで悪いという感情と、ここまで来たのだからという好奇心。
そんな感情が彼女の中にあったという。
「阿呆な話や」
「……でも、難しいと思います。お友達を止めて戻るのも」
「……優しいな若旦那」
村の中をぐるぐると回り、どこから来てどこに戻るべきかもわからなくなった頃。
彼女たちは目的地である神社を見つけるに至る。
コケの生えた石の鳥居を潜り、細長い木々に囲まれた道を進む。
神社の境内はそれなりに広く、恐らく立派な神社だったのだろうとの事だ。
「本殿の扉も壊れとってな。罰当たりな話、うちらはその中に入ってもうた。土足で、一礼もなんもなしに」
本殿の中には何も無く、腐りかけの床板はすぐにでも抜けてしまいそうだ。
ぎぃ、ぎぃ、と音が鳴り、一歩進むごとにその音は大きくなるようで。
そんな中見つかったものと言えば本殿の壁に刺さった釘と、それに貫かれたぼろぼろの紙きれくらいであった。
別に何かを盗みに来た訳では無いし、と友人はなにやらぶつぶつと呟き始めたらしい。
曰く、神様に会うためのおまじないものことだった。
「よしんば神様に会えたとして、その神様は目ぇに見えるんかな」
彼女がそう呟いたらしい。
次の瞬間、ごうと風が吹いて建付けの悪かった扉が倒れてしまった。
大きな音がして、二人が振り返ると。
「松明を持った人間がぞろぞろとこっちに向かっとった」
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